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種苗法改正「見送り」への賛否 農水相は「今の法制度では、海外流出は止められない」

   ブランド農産品の海外流出阻止が目的という種苗法改正案について、今国会での成立を与党が断念する方針だと一部で報じられ、ネット上で波紋が広がっている。

   女優の柴咲コウさん(38)が警鐘を鳴らしたことがきっかけとも報じられ、法改正を望む農家らから嘆く声も次々に投稿されている。今後は、どうなるのだろうか。

  • 会見する江藤拓農水相(5月19日、農水省サイトから)
    会見する江藤拓農水相(5月19日、農水省サイトから)
  • 会見する江藤拓農水相(5月19日、農水省サイトから)

「陳情を繰り返した農協青年部などの努力が報われない」

「韓国にイチゴをパクられたときはみんな怒っていたのに」
「農家の方がずっと切望してたんです。これからも盗まれ続けて良いんですか?」
「日本はいつから現場の声ではなく芸能人の作ったタグで政治が動く国になったのか?」

   毎日新聞など一部マスコミが2020年5月20日、与党は種苗法改正案の今国会成立を断念する方針だと報じると、ツイッター上などではこんな不満が相次いだ。陳情を繰り返した農協青年部などの努力が報われないと嘆く元兼業農家だという人物のツイートは、3万件以上もの「いいね」が付いている。

   報道によると、一部野党が法案に懸念を示しているため、成立まで時間がかかることが見送りの理由だという。

   法案への反対論は、地方などでも根強くあるようだ。

   札幌などいくつかの市議会が慎重な審議を求める意見書を出しており、三重県議会も3月19日付で、同様な意見書を可決している。そこでは、農産品の海外流出防止は必要としながらも、法案成立で登録品種を自家増殖することに許諾が必要になると、事務手続きや費用負担の増加などが見込まれ、農業経営などに影響を与えることが懸念されるとした。

   また、一部新聞も農家への打撃を指摘しており、東京新聞は5月14日付朝刊で、不要不急の種苗法改正だとする野党議員のネット会見を紹介し、農業経済学者も「多国籍企業が種苗を独占していく手段として悪用される危険がある」とのコメントを寄せた。

「冬場に苗の取り引きが始まり、海外への持ち出しを懸念」

   ツイッター上などでも、「政府は農『家』をつぶして大規模な農『業』への転換を図りたいだけ」「日本は伝統的に自家採種を行う農家が多く小規模農家にも影響が出る」「発言すれば、政治は変わるんだよ。行動すれば、政治は動く」といった声も出ている。

   ネット上では、法案への賛否が割れているが、農水省では、あくまでも成立を目指すようだ。

   江藤拓農水相は、5月19日の会見で、農家の自家増殖ができなくなったり、外資による寡占化が進んだりする懸念があると記者に聞かれ、こう説明した。

「市場に流通している品種の大半を占めるのは一般品種で、何の制限もない。米は84%、みかんは98%、りんごも96%で、登録品種は多くはない。登録品種も、30年を過ぎれば、一般品種になります」
「今の法制度では、海外流出は止められず、大きな問題です。守られて農産物を輸出するなら、農家には、もっと大きなメリット、利益が還元されていたはずです。自家増殖で海外に持ち出されてしまった、こうしたことはあってはならないと思います」

   無制限に自家増殖を許せば、新しい品種を作る5年、10年の努力が担保されないとして、「不要不急の法律というが、権利を守ることについては、一刻の猶予もならない」と訴えた。

   この会見の動画は、農水省サイトにも掲載され、ツイッター上などで拡散して、反響を集めている。

   農水省の知的財産課は5月21日、J-CASTニュースの取材に対し、こう話した。

「法案が今国会で成立すれば、今年の12月から海外への持ち出しを制限できます。秋に収穫が終わると、ブドウやりんごといった果樹などの苗の取り引き期間が始まり、苗を持ち出そうとする動きが懸念されます。補正予算の審議と一緒に法案が通る望みは、まだ捨てていません」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)