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ソニーが「物言う株主」へ示した「答え」 社名変更が意味するコト

   ソニーが組織の抜本再編に乗り出す。2021年4月に社名を「ソニーグループ」に変更し、グループ本社機能に特化した「司令塔」に衣替えするとともに、金融事業を担う上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(SFH、65%出資)を約4000億円を投じて完全子会社化して中核事業に位置付け直し、エレクトロニクスやエンターテインメント(エンタメ)など他の事業との相乗効果を高め、経営基盤を強化する。

   グループ本社の下にテレビやカメラなどを手掛けるエレクトロニクスなど各事業子会社が入り、運営はそれぞれに任せ、本社は全体を俯瞰(ふかん)し経営戦略を練る。「ソニー」という社名はエレクトロニクス事業の中間持ち株会社の社名として残す。また、SFHは20年7月13日までに株式公開買い付け(TOB)を実施し、残る全株式を取得する。

  • ソニーの新経営方針への期待感と、新型コロナの影響への懸念が交錯する。(写真はイメージ)
    ソニーの新経営方針への期待感と、新型コロナの影響への懸念が交錯する。(写真はイメージ)
  • ソニーの新経営方針への期待感と、新型コロナの影響への懸念が交錯する。(写真はイメージ)

SFH子会社化の効果

   ソニーの2020年3月期は、年明け以降に新型コロナウイルスの感染拡大に伴う急速な需要減に直面し、純利益が前期比36.5%減の5821億円となったが、19年3月期まで2期連続で純利益が過去最高を更新するなど、基調として好業績が続いてきた。ゲーム、音楽、映画のエンタメ事業がけん引し、画像センサーを中心とする半導体も好調で、これに金融が加わる構図。SFHの子会社化によって、ソニー以外の株主に流出していた利益を取り込むことで、純利益を年間400億~500億円押し上げる効果があるという。

   新型コロナウイルスに伴う経済活動のストップといった外部環境に製造業や音楽、映画などは影響を受けやすいのに対し、金融事業は比較的安定しており、収益面のリスク分散の狙いもある。特にSFHはほぼ国内事業で、グローバルに展開するエンタメとは「地政学上のリスク分散にもなる」(吉田憲一郎社長)。

   これは、大株主である米有力アクティビスト(物言う株主)のサード・ポイントからの要求への回答でもある。サード・ポイントは昨19年来、半導体事業の分離・独立と保険事業の売却、主力のエンターテインメント事業への注力を求めている。事業の選択と集中を大胆に進めろ、ということだ。

大きな狙いとみられる「フィンテック」

   事業が多岐にわたるのはソニーの強みでもあり、弱みでもあった。事業間のシナジーが乏しく、複合企業にありがちな割安の株価(コングロマリット・ディスカウント)、つまり低評価だというのがサード・ポイントの主張だ。ソニーは、改めて要求を退け、多様性を維持していくことを鮮明にした。

   吉田社長は5月19日にオンラインで経営方針説明会を開催。先々代の最高経営責任者(CEO)、ハワード・ストリンガー氏時代の2007年に「非中核事業」として上場子会社にした金融を、改めて「コア(中核)事業」と位置づけ、祖業であるエレクトロニクスはもちろん、エンタメなど他の事業との連携を強化する考えを示した。

   具体的に、大きな狙いとみられるのが、「フィンテック」、つまり金融とITの融合だ。スマートフォンの普及をベースにキャッシュレス決済などのサービスは拡大の一途で、人工知能(AI)やブロックチェーン(分散台帳)などの先端技術の進化も加速している。米アップル、中国のアリババ集団などはスマホ決済などで収集した個人データを与信や融資などの金融事業に活用する動きが強まり、SFHにエレクトロニクスなどの技術をいかに活用していくかが、ソニーの今後の成長に大きな影響を与える。ソニーが誇る非接触型ICチップ「フェリカ」の戦略的な活用も重要なポイントになる。

   ソニー生命を中心とする生損保では、AIを活用した自動車保険の新商品開発にすでに取り組んでいるほか、顧客データの分析などを通じた新コンサルティング力をアップする。

心配の種はエレクトロニクス

   新型コロナの影響が続く中で、エンタメでは、作品のリモート制作、ネット上のバーチャルな音楽ライブなどに取り組むといい、ハードで培った技術をソフトに生かす方針だ。

   ただ、新型コロナの影響もあって、心配の種はエレクトロニクスだ。「リモート」を切り口にした商品開発に取り組むほか、メディカル事業などの拡大も目指すが、新型コロナによる需要減への対応を迫られるのはもちろん、サプライチェーンの維持・強化にも取り組む必要がある。好調の画像センサーも、新型コロナによる需要の落ち込みのほか、米中の対立激化で例えば中国・華為技術(ファーウェイ)に主力のイメージセンサーを供給できなくなるといった懸念材料もある。

   市場の反応は微妙だ。SFHの完全子会社化が伝わった5月19日午後、一時前日比315円(5%)高の7000円を付けるなど急伸し、「フィンテックでのソニーらしさへの期待」(アナリスト)との声も出ているが、その後は6700~7100円台で推移。コロナ問題発覚前の1月14日に好業績期待から8113円と2001年以来18年半ぶりの高値を付けていて、アナリストの間では新経営方針への期待感から、新高値を予想する向きが多いが、当面は新型コロナの影響がどの程度続くかをにらみながらの神経質な展開なりそうだ。