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北朝鮮「官製YouTuber」で路線変更か 若い女性が「平壌での日常」英語でレポート

   北朝鮮の対外宣伝は、国営放送のアナウンサーが激しい言葉で周辺国を罵倒するイメージが定着しているが、実は「ソフト路線」も加速させている。

   発信の場はユーチューブだ。若い女性が笑顔で流暢な英語を話し、平壌市内の「日常生活」を紹介する内容が大半だ。露骨な対外批判は現時点では封印。国外の視聴者に対するハードルを下げる狙いがあるとみられるが、体制アピールや、「フェイクニュースは必要ない」などとする海外メディアへの反論は健在だ。

  • 4月25日付けの動画では、「ウンア」と名乗る若い女性が、「買い占め説」を「フェイクニュース」だと断じている
    4月25日付けの動画では、「ウンア」と名乗る若い女性が、「買い占め説」を「フェイクニュース」だと断じている
  • 4月25日付けの動画では、「ウンア」と名乗る若い女性が、「買い占め説」を「フェイクニュース」だと断じている
  • 「NEW DPRK」の動画では、7歳の女の子が自宅でピアノを披露する

学校再開喜ぶ様子紹介しながら「必要なものは、全部国が支給する」

   北朝鮮当局が関与しているとみられるチャンネルは大きくふたつ。ひとつが、「Echo DPRK」と題して17年8月に登録されたチャンネルだ。18年7月から動画の掲載が始まり、6月5日時点で169本が掲載されている。6月5日に、チャンネル名を「Truth」(真実)に改称した。

   金日成主席の回顧録「世紀とともに」の朗読動画にまじって、若い女性が市内を「立ちレポ」する動画が週に3本程度掲載されている。登場する女性は何人かおり、そのうち英語を話すのが「ウンア」と名乗る女性だ。

   最新の動画は、新型コロナウイルスの影響で休校になっていた小中学校が6月3日に再開されたことを伝える内容。マスク姿で久々の再開を喜ぶ生徒や学生の様子を紹介しながら、

「12年の義務教育が無料で受けられる」
「教科書、文房具、カバン、制服など、子どもの生活に必要なものは、全部国が支給する」

などと教育制度を紹介。9歳の女子生徒が

「休み中はずっと家にいて、習字の練習をしていた。英語の書き取り、読書、日記をつけたりもしていた」

などと英語で答える場面もあった。

「買い占め」報道を「フェイクニュース」と主張

   「本当か嘘か(買い占め)」と対する4月25日付けの動画では、ウンア氏が

「最近、西側メディアが(北)朝鮮経済について報じている。実際に様子を見てみよう」

として、スーパーの店内をリポートする内容だ。4月下旬に米政府系のラジオ局「自由アジア放送」(RFA)や、北朝鮮専門メディアのNKニュースが、食料品の買い占めについて報じたことを念頭に置いたとみられる。

   動画では、棚が商品でいっぱいになっている様子を映しながら、ウンア氏が次々に

「最近商品は値上がりしていますか」

と客に尋ね、客は一様に

「気づきませんでした」
「数日前は『大同江』ブランドが、むしろ安くなっていました」
「輸入品は値上がりしているかもしれませんが、国産品はそんなはずがありません。今は誰も輸入品は欲しくないでしょう」

と否定した。店員は

「人気があるものもないものもありますが、いつも十分な在庫があります」

と話し、動画はウンア氏が

「新型コロナとの激しい戦いの中で、フェイクニュースはもっとも必要ないものだ」

と断言して締めくくられる。

7歳の女の子が「Vlog」を...

   もうひとつのチャンネルが「NEW DPRK」と題したチャンネルで、29本の動画を掲載。例えば4月25日付けの動画では、7歳の女の子のVlog(ビデオブログ)と銘打って、自宅でピアノを弾いたり、「いつかケータイで自撮りしてみたい」と話したりする様子が納められている。マンションの一室だとみられ、大きな水槽、ランニングマシン、システムキッチンも映し出される。この女の子が政権への称賛を口にすることはないが、動画で生活水準の高さをアピールする狙いがあるとみられる。

   これらのチャンネルはユーチューブのみで展開。独自のウェブサイトは見当たらず、素性は不明だ。ただ、新型コロナウイルスの影響で外国人の入国ができなくなっている北朝鮮で、動画で「立ちレポ」できる人はきわめて限られる。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)