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ゴーンにコロナ、いいとこなしの日産に「一筋の光明」が?

   日産自動車が再び窮地に陥っている。前会長のカルロス・ゴーン被告時代の拡大路線で新興国の工場新設を優先し、日米市場での新車開発の遅れで販売が低迷したところにコロナ・ショックが追い打ちをかけた。

   2020年3月期連結決算は、期中にリーマン・ショックがあった2009年3月期以来、11年ぶりの大幅な最終赤字を記録した日産に復活の日は来るのか。

  • 関係者をざわつかせた「Z」の一文字(YouTubeより)
    関係者をざわつかせた「Z」の一文字(YouTubeより)
  • 関係者をざわつかせた「Z」の一文字(YouTubeより)

唯一好調な中国ですら...

   5月末発表の2020年3月期連結決算は惨憺たるものだった。売上高は前期比14.6%減の9兆8788億円。前期は3191億円の最終黒字から赤字に転落したが、6712億円という赤字幅は、ゴーン被告が仏ルノーから送り込まれて国内工場閉鎖など大規模な改革を断行し、多額のリストラ費用を計上した2000年3月期の6843億円に匹敵する規模。

   今回も「構造改革費用及び減損損失」6030億円が収益を大きく押し下げたものだが、本業のもうけを示す営業損益自体も前期の3182億円の黒字から404億円の赤字に転落しており、まさに車が売れていないわけだ。同期の販売台数は493万台と7年ぶりに500万台を割り込み、前期に比べ全体で10%減、地域別では日本10%減、北米14%減、欧州19%減と軒並み2ケタ落ち込み、唯一好調だった中国でさえ1%減と水面下に沈んだ。

   コロナ・ショックによる業績の影響は、販売減で約900億円、貸倒引当金の追加計上で約300億円、営業利益を押し下げたが、コロナだけでは説明できない業績不振といえる。 日産の販売不振と収益悪化はゴーン被告の「負の遺産」というのが通り相場だ。特にひどいのが北米で、世界有数の市場で早くシェアを奪おうと販売店に奨励金をつぎ込で値引き販売を展開した結果、一時的には販売台数は増えたものの、「日産車は安物」というブランド価値の低下を招き、収益悪化で奨励金を縮小したら、今度は販売台数が急速に落ち込んでさらに収益を悪化させるという悪循環に陥った。

ゴーン逮捕で改革も足踏み

   商品力でも後れを取った。規模拡大を目指して南アジアやブラジルなど新興国で工場を次々に建てたが、販売が軌道に乗らない一方、開発資金がこうした増産投資に食われ、肝心の新車投入が減り、販売低迷を招いた。

   2018年からようやく構造改革に着手したが、同年11月のゴーン被告逮捕から、ルノーとの主導権争い、2019年12月1日に発足した新経営体制が年末に瓦解(ナンバースリーの副最高執行責任者に就いたばかりの関潤氏の退社発表)とごたごたが続き、新型コロナでダメ押しされた格好だ。

   そこで、決算発表に前後して新たな対策を打ち出した。まず日産、ルノー、三菱自動車の3社連合として生産や販売の地域分担と、技術開発の各得意分野を主導する連携強化策を発表。地域では日産は中国・北米・日本、ルノーは欧州・ロシア・南米・北アフリカ、三菱自はASEAN・オセアニアでリードする。主要技術の開発では、(1)日産は自動運転など運転支援技術、(2)日産とルノーがコネクティッドカー(つながる車)技術や電動化、(3)三菱自がプラグインハイブリッド車(PHV)――を、それぞれ主導する。3社の連携強化で新モデル開発の投資額を最大40%削減して効率化するという。

復活のカギ握る「商品力」アップ

   さらに決算とともに発表した日産の中期経営計画(2020~2023年度の4カ年)に追加のリストラ策を盛り込んだ。世界の年間生産能力は、2019年7月時点の計画で、2018年度の720万台から2022年度に660万台に減らすとしていたが、さらに120万台圧縮して540万台にするとした。生産体制見直しではスペインやインドネシアの完成車工場の閉鎖に言及し、欧州は英国工場、東南アジアはタイに、それぞれ集約する考えを示したが、それ以外に具体名は挙げなかった。人員整理は2019年7月に打ち出した全社員の1割近くに相当する1万500人への上乗せの数字は示していない。

   復活へのカギを握るのは商品力アップだ。計画では2023年度までに現在の69車種を55車種以下にすることを打ち出した。「コアなモデルに絞り込む」(内田誠社長)ことで商品力アップを図るということだ。具体的には、C/Dセグメント(全長4.2~4.8m程度の中級車)、電気自動車、スポーツカーに集中投資するとして、当面、18カ月で12の新型車を投入するとし、フルモデルチェンジまでの期間も、一時、平均で6年以上に伸びていたのを4年以下にする考えだ。

   自動運転や環境対応などを含め、研究開発投資が今後の競争力を左右する。トヨタや独フォルクスワーゲンが年間1兆円以上を投じるのに対し、日産単独では5000億円レベル。それでもルノーなどとの3社連合でなんとか1兆円を確保し、今回、3社の連携強化、研究開発の分担を打ち出したのは好材料だろう。

   今回の決算・中期計画のリモートでの発表の最後に流されたビデオ「NISSAN NEXT From A to Z」に、新型フェアレディZらしい姿が数秒流れ、最後に「Z」の文字が大映しになって業界関係者の間でちょっとした話題になった。現行の6代目 Z34型は2008年登場の古参となっていて、「1年以内に新モデル発表か」(モータージャーナリスト)との観測も聞かれる。そんなファンの熱視線は「技術の日産」復活への期待でもある。