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「スーパーシティ」まだ残る課題 地方紙で相次いだ「注文」の理由とは

   人工知能(AI)やビッグデータなどを活用した先端都市「スーパーシティ」構想を実現する改正国家戦略特区法が今の国会で成立した。政府は今夏以降、構想の実現に取り組む自治体を公募し、年内にも5地域程度を選定する。

   しかし、個人情報の取り扱いに懸念も根強く、住民合意をどう確保するかなど課題は残ったままだ。

  • 政府が公開している「スーパーシティ」PR動画
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未来都市から観光都市、防災拠点まで

   スーパーシティ構想は、住民や企業、行政から集めた様々な分野の情報を「データ連携基盤」(都市OS)に集約し、AIなどの最先端技術で連結させ、サービスにつなげるもの。自動運転やキャッシュレス決済、遠隔医療、遠隔教育、小型無人機ドローンによる自動配送などを組み合わせ、その相乗効果で住みやすい街をめざす。

   名前からイメージされる「未来都市」だけでなく、観光都市での活用や高齢化が進む地域での医療・介護支援、大規模災害時に物流や自立エネルギーを確保できる防災拠点の整備などへの活用も想定されている。

   特区の指定を受けた自治体は国や民間企業と「区域会議」を設け、必要な規制緩和を含む事業計画書を作成。住民の同意を得た上で国に申請する。複数の分野や省庁にまたがる規制改革をまとめて実現できるよう、自治体の提案に基づき、首相が担当大臣に検討を要請できる。こうした新たな手続きの導入で迅速に改革を進めるという、特区の一種になる。

2つの重要な論点

   具体的には、まったく新しい都市開発を、この構想で進める場合と、既存の都市の一部などで実施する場合が考えられる。前者については、トヨタ自動車が1月に東富士工場跡地(静岡県裾野市)に建設すると発表した「コネクティッド・シティ」構想が、スーパーシティの認定を得る可能性もささやかれている。こうした新規建設の方が、希望者が集まるから進めやすいとみられている。

   この法案審議は、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、議論が深まらなかったとの評が強い。特に問題になった論点が、個人情報の取り扱いと住民の同意をどうとるかで、制度の中身では、「データ連携基盤」と「区域会議」の問題になる。

   個人情報は、スーパーシティに指定された自治体で、行政や金融、医療など複数の機関で別々に管理されているものを官民で共有して活用することになる。それを集約するのが「データ連携基盤」で、国は「個人情報保護法に従い、必要な場合は本人の同意を得ることになる」と説明しているが、具体的に誰がどういう基準で「必要」と判断するかは明確ではない。

   例えば、要介護者の多い地域に乗り合いタクシーを走らせる場合、自治体が管理している住民の要介護度情報と、病院が管理する通院歴などを共有することで、スムースに配車サービスが受けられるといったメリットが説明されているが、これら、医療、介護を含む個人情報を、「データ連携基盤」を担う事業者が一元管理することになる。「本人の同意」といっても、個人情報保護法では「公益に資する」場合などは本人同意が不要となっている。国会で国は「区域会議」が判断すると説明するばかりで、基準を明確には示していない。

政権浮揚の「柱」と位置付ける

   その「区域会議」は、そもそも住民合意を得る役割を持つが、何をもって「住民合意」とするか、どのような手続きで行うかなどが、曖昧なまま法律が成立した。ちょっと考えても、例えば「住民代表」が会議に参加するのか、その人選はだれがどのように行うのか、あるいは議会の議決を得るのかなど、国会の議論でも明確な答弁はなかった。また、サービスを希望しない住民が拒否できるのか、あるいは強制力が働いてその住民の情報も提供されるのかなど懸念がある。

   今回の法律は自民、公明に維新も加わったで可決され、立憲民主、国民民主、共産、社民などの反対を蹴散らした形だが、実は、住民参加や個人情報管理への配慮など15項目にも上る付帯決議が与野党合意で採択された。与党側も野党の発する疑問を、さすがに数だけで押し切れなかった証しともいえるだろう。

   安倍政権が強引に法律を通したのは、今後の政権浮揚の重要な柱の一つと位置付けているからだとの見方が一般的だ。

   6月10日の「国家戦略特区諮問会議」で、議長である安倍首相は「新たな日常をつくりあげてくためにも、未来を先取りするような大胆な規制改革を一気に進め、ピンチをチャンスに変える思い切った改革が必要で、その代表がスーパーシティだ」と言い切った。

地方紙の方が関心強いが

   安倍政権支持の報道が目立つ読売だけが、この会議を11日朝刊4面政治面トップで、「『新日常』対応 首相改革促す」の見出しを掲げて大きく取り上げたのが、コロナ対応などで批判される状況からの脱却という政権の狙いを映している。

   この間、社説で取り上げた大手紙も読売(6月1日)のみで、「AIやビッグデータの活用は、今後の街作りに欠かせない。政府は特区で課題を明らかにし、全国での展開につなげるべきだ」とはっぱをかけているのも、同じ政権浮揚という脈絡で理解できる。

   ただ、社説としては、法律の内容からして関心の高い地方紙もいくつかが取り上げているが、慎重な意見が多い。例えば、比較的保守的な論調が目立つ河北新報(6月13日)は「個人情報を保護し、住民ニーズに沿い地域課題を解決するには、より丹念な議論や制度設計が必要だ。拙速な取り組みは禍根を残しかねない」とくぎを刺し、北海道新聞(6月9日)も「より多くの地域住民が参画して合意形成を図る方法や情報提供のルールを、もっと明確に定めておくべきだ。......住民が拒否できる選択肢をしっかり担保しなければならない」など、厳しく注文している。

   また、先の読売の11日の記事でも、15項目もの付帯決議が採択されたことに触れ、「政府は今後、......『区域会議』などを通じて個人情報の保護徹底を呼びかける考えだ」と、幅広い懸念への対応の必要に言及しているのが目立つ。

   今後、データ保護に関する政省令などがまとまっていくことになっており、実際のスタートまでには、なお議論が続きそうだ。