大雨特別警報が九州で2020年7月4日と6日に相次いで出された。「数十年に一度」の重大な災害が予想されるという大雨特別警報だが、実際には運用が始まった2013年以降、毎年出されている。「異常気象」に見舞われ続ける近年の日本。今後も私たちは、「数十年に一度」の豪雨から逃れられないのだろうか。
気象庁は4日朝に熊本県と鹿児島県、6日午後に福岡県、佐賀県と長崎県、8日朝には岐阜県と長野県にそれぞれ大雨特別警報を出した。いずれも次のような強い表現で住民らに警戒を呼びかけた。
「これまでに経験したことがないような大雨となっています」
「自分の命、大切な人の命を守るため、(中略)緊急に身の安全を確保してください」
気象庁によると、大雨特別警報は次のような気象条件の時に出すという。
「避難勧告や避難指示に相当する気象状況の次元をはるかに超えるような現象をターゲットに発表します。発表時には何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い状況です。数十年に一度の大雨となり、さらに雨が降り続くと予想される場合に、大雨特別警報(土砂災害)を発表することとしています」
しかし、近年頻繁に出ている大雨特別警報について、ツイッター上では4日以降、次のような投稿が相次いだ。
「大雨特別警報=『数十年に一度しかない、これまでに経験したことのないような大雨』という定義なのに、毎年のように聞く不思議」
「気象庁もジレンマだろうね。数十年に一度レベルの災害級の大雨降るからと大雨特別警報出しても毎年出されると『数十年に一度じゃないのかよ』と言われ、度重ねて異常時態を伝えても何処まで伝わるのか」
「数十年に一度が毎年になるとか恐怖でしかないやろ なんか日本終わりそう」
実は、気象庁のホームページの「よくある質問」でも、次のような「ツッコミ」例と応答例が掲載されている。
「大雨特別警報が発表される主な事例は、数十年に一度どころか約1年に一度のペースで発生しているのではないですか?」
「数十年に一度とは地域ごとにみた場合のものであり、全国的にみた場合には、年に1~2回程度あるかもしくはないかの頻度になります」
実際に大雨特別警報はどれくらいの頻度で出ているのか。気象庁からデータを提供してもらい、2013年の特別警報が制定されて以降のすべてをまとめた。次の一覧表に示すように、実は毎年出ている。
1)2013年9月16日 福井県、滋賀県、京都府、台風18号によるこのように、地域ごとでも毎年のように大雨特別警報が出ているところもある。例えば福岡県は、2017年以降4年連続で出ている。
背景に何があるのか。気象庁が公表した「気候変動監視レポート2018」では、豪雨災害に関し、それまで明らかでなかった地球温暖化との因果関係に初めて言及している。
「極端な気象・気候現象の長期的な増加傾向には、地球温暖化の影響があると考えられ、(中略)昨年(2018年)夏の顕著な高温及び豪雨の背景に地球温暖化の影響があったという見解を公表しました」
気象学が専門の名古屋大学宇宙地球環境研究所の坪木和久教授も、同様の見解を示す。
「地球温暖化による平均気温の長期的な上昇とともに大気中に含まれる水蒸気が増加する傾向にあり、それが一つの要因となって近年の豪雨や、台風に伴う強雨となっている可能性があります」
この夏や秋、そして来年以降も、私たちは「数十年に一度」の豪雨を覚悟しなければならないのだろうか。坪木教授はこう話す。
「今後も日本では異常気象が続くでしょう。私たちは最新の知見に基づいて今後の対策を考えていくべきだし、人々は自分の命を自分で守り、災害が予測される時は適切に避難することが必要です」
その上で、大雨特別警報の「数十年に一度」の表現についてはこう指摘した。
「科学的、統計的には間違っていませんが、一般の人々の目線では違和感を持たれるでしょう。もう少し一般の人の感覚に配慮した適切な表現にしていく努力が必要です」