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「優先搭乗」は中止、飲み物も簡略化... 「サービスダウン」指摘されても、感染防止に苦闘する【空の旅の新常態】

   新型コロナウイルスの感染防止のため、日本の航空大手は優先搭乗を中止したり、機内で提供する飲み物などを簡略化したりするなどの対策を導入している。一部の利用者から「サービスダウンだ」といった意見もあるというが、それでも「安心・安全」を強調して、少しでも利用を取り戻したい事情がある。

「お待たせしました。『グループ1番』、後方窓側のお席のお客さまからご案内します」
  • ANAは、これまでとは逆に、後部座席の乗客から搭乗の案内をしている(2020年7月22日午前、東京・羽田空港)
    ANAは、これまでとは逆に、後部座席の乗客から搭乗の案内をしている(2020年7月22日午前、東京・羽田空港)
  • ANAは、これまでとは逆に、後部座席の乗客から搭乗の案内をしている(2020年7月22日午前、東京・羽田空港)
  • ANAの客室乗務員は機内でマスクとビニール手袋を着用し、機内食などをトレーに載せて提供している(ANA提供)
  • ANAは、これまでとは逆に、後部座席の乗客から搭乗の案内をしている(2020年7月22日午前、東京・羽田空港)
  • 椅子の手すりやトイレのドアなど、人が触る場所はすべて毎日定期的に消毒しているという(ANA提供)
  • 政府の観光支援策「Go To トラベル」の初日を迎えた東京・羽田空港。空港職員は「例年の連休前に比べて圧倒的に客が少ない」と話した(2020年7月22日午前)

「上級会員」は最後に搭乗案内 「お叱りいただいた」

   2020年7月22日11時40分、東京・羽田空港。全日空(ANA)の千歳空港行きの便への搭乗を案内するアナウンスで、係員は最初にそう呼びかけた。「前後のお客様との距離を十分お取りください」とも語りかけると、乗客らは搭乗ゲートへの歩みを緩め、ゆっくりとボーディング・ブリッジへと進んでいった。

   ANAは6月19日から、これまでのプレミアムクラスなど「上級会員」が優先的に搭乗していた方式を中止し、逆に後方窓側席から6つのグループに分けて案内する方式に変更した。前方の乗客が手荷物を荷物棚にしまう際に通路が滞り、続いて入ろうとする乗客が密集する状況を防ぐ狙いだ。東京大学の西成活裕教授(渋滞学)の研究室との共同研究で得られた知見をもとに導入したという。

「開始した当初は『サービスダウンだ』『手荷物を入れるスペースがなくなった』などと、(上級会員から)お叱りをいただきましたが、おおむね理解は得られていると思います」(ANA広報部)
政府の観光支援策「Go To トラベル」の初日を迎えた東京・羽田空港。空港職員は「例年の連休前に比べて圧倒的に客が少ない」と話した(2020年7月22日午前)
政府の観光支援策「Go To トラベル」の初日を迎えた東京・羽田空港。空港職員は「例年の連休前に比べて圧倒的に客が少ない」と話した(2020年7月22日午前)

   ANAでは目的地への到着時、機外に乗客を案内する際も、混雑を避けるため、「前方、中央、後方の順に降りていただくよう、ご協力をお願いします」「感染拡大防止のため、前のお客様と適度な距離をあけて降りてください」などとアナウンスをしている。

   この新しい搭乗方式を従来の上級会員からの優先搭乗に戻すことについては、まだ決めていないという。

   一方、日本航空(JAL)は、搭乗の順番はこれまで通り上級会員を優先しているが、ボーディング・ブリッジや機内での混雑を避けるため、乗客を10~20人ごとに区切って案内する方式に6月から変更した。

機内の飲み物は限定 客室乗務員はマスク、ビニール手袋の着用必須

   コロナ後は機内でのサービスも大きく様変わりした。

   ANAの機内では、座席ごとに置かれていた機内誌を撤去。求められた場合のみ手渡し、回収したらその都度廃棄しているという。乗客からの要望に応じて配っていた毛布や枕のほか、新聞紙などの提供も休止した。

ANAの客室乗務員は機内でマスクとビニール手袋を着用し、機内食などをトレーに載せて提供している(ANA提供)
ANAの客室乗務員は機内でマスクとビニール手袋を着用し、機内食などをトレーに載せて提供している(ANA提供)

   「コロナ前」は様々な種類の飲み物を客室乗務員がコップに注いで提供していたが、コロナ禍でメニューをお茶とりんごジュースの2種類に絞った。6月はそれらを紙パック入りで配り、7月以降は2種類限定のまま、コップに注いで蓋をして提供する方式にした。

   客室乗務員は乗務中、全員がマスクとビニール手袋を着用。飲み物などの提供時はトレーに載せて手渡し、乗客と直接触れないようにしている。

   機内の消毒も徹底しており、テーブルや肘掛け、トイレのドアノブなど乗客の手が触れる部分はアルコールで消毒している。国際便は毎便、国際線は毎日夜間に作業している。

椅子の手すりやトイレのドアなど、人が触る場所はすべて毎日定期的に消毒しているという(ANA提供)
椅子の手すりやトイレのドアなど、人が触る場所はすべて毎日定期的に消毒しているという(ANA提供)

   一方、乗客に対しても、ANA、JALともが空港内や機内でのマスクの着用を求めている。両社とも、マスクの着用依頼に従わない場合は搭乗を断るとしている。

   7月22日午後、4連休を実家で過ごすため、福岡空港から羽田空港に家族連れで到着した主婦の女性(32)は、様変わりした機内の様子についてこう語った。

「機内アナウンスで何度も換気や感染対策について教えてくれたので安心できました。キャビンアテンダントの皆さんもすごく気を配ってくれていたのでリラックスできました」

   こうした新型コロナウイルスの感染防止のために投じている多大なコストについて、ANA、JALともに「公開できる数字がない」としている。

過去最悪レベルの赤字、コスト切りつめ策も次々

   コロナ感染防止策の徹底をPRする航空各社だが、業績は厳しい。2020年1~3月期の最終赤字はANAが588億円、JALが229億円。6月以降は国内線の一部で乗客が戻りつつある一方、依然として国際線は厳しい。多くの国との間で渡航制限が解かれていない上、「今は外国に旅するべきではない」と考える人が多いからだ。

   20年5月の国際線の便数はANA、JALともに運休、減便によって前年同月比で92%減。採算を取れる水準にはほど遠い。乗客から得られる売り上げより、燃料や乗員の人件費、空港着陸料などのコストが大きく上回る状態が続いているのが現状だ。

   そのため、両社ともコスト切り詰めに余念がない。ANAが役員報酬や管理職の給与を削減したりグループ社員の大半を一時帰休させたりするなどして人件費を削減する方針の一方、JALも4月から実施している役員報酬1割の自主返納を12月まで続けることなどを決めている。

   また、両社とも21年度入社の新卒採用を中止する方針だ。両社ともグループで毎年千人単位の学生らを採用していたが、パイロットなど一部の職種以外は見送る。

   各社とも、7月からの夏休みシーズンに国内線の需要を喚起し、少しでも売り上げを回復させることを期待していた。だが、東京など都市部での新型コロナの感染再拡大や、政府による観光支援策「Go To トラベル」が東京発着の旅行について割引の対象外になったことで、出鼻をくじかれた形になっている。

   (次回は7月25日午前6時に配信します)