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内定者の4人に1人が「複数社受諾」 コロナ禍で「取り消し不安...」学生と企業の本音

   新型コロナウイルスの感染拡大中に就職活動をして内定を勝ち取った大学生、大学院生の4人に1人は、複数社からの内定を承諾しようと考えている――。インターネットのアンケートから、そんな実態が浮かび上がった。新型コロナの影響もあり、「不景気による内定取り消しが不安だ」との理由が4割以上だった。前年までと様変わりした、「コロナ時代」の就活生と企業の本音を聞いた。

   2社以上の内定を得られた学生は「複数内定ホルダー」とも呼ばれる。アンケートを実施した、リファラル採用を活性化するサービスを運営する会社「MyRefer」(東京都中央区)の鈴木貴史社長は、複数内定ホルダーの例年のパターンを解説する。

  • 「MyRefer」の鈴木貴史社長によると、最近の就活生は既存の求人サイトではなく、口コミサイトやSNSから「会社のリアル」を知ろうとするという(写真はイメージ)
    「MyRefer」の鈴木貴史社長によると、最近の就活生は既存の求人サイトではなく、口コミサイトやSNSから「会社のリアル」を知ろうとするという(写真はイメージ)
  • 「MyRefer」の鈴木貴史社長によると、最近の就活生は既存の求人サイトではなく、口コミサイトやSNSから「会社のリアル」を知ろうとするという(写真はイメージ)
  • MyReferが実施したアンケートの結果(提供)

今どきの就活生、「口コミサイトやランキング情報」で1社に絞る

「去年までは、遅くとも10月の内定式までにはどの会社に就職するかを決め、それ以外の会社には内定の辞退を伝えるケースがほとんどでした。また、内定辞退はまだしも、内定受諾後の辞退はまずないというのが、少なくとも企業にとっては常識でした」(鈴木社長)

   アンケートは2020年7月8日と9日にインターネットで行った。それによると、文系(有効回答数399)の約62%、理系(同299)の63%が内定を得ていた。このうち複数内定ホルダーは文系が約29%、理系が約21%いた。なお、まだ内定を得ていない学生も文系で約29%、理系で約23%いた。

   1社以上の内定を得ている就活生のうち、2社以上の内定を受諾しようと考えているのは、文系(同248)で約28%、理系(同145)で約22%いた。合計で25%、つまり4人に1人が複数社から内定を受諾しようとしていることになる。「3社以上の内定を受諾したい」という人も文系で約9%、理系で約4%いた。

MyReferが実施したアンケートの結果(提供)
MyReferが実施したアンケートの結果(提供)

   その理由について、文系(同84)の約49%、理系(同38)の約47%が「どの内定先が自分にあっているか決め手に欠ける」と回答。「不景気による内定の取り消しが不安」という回答は文系で約41%、理系で約55%だった。「選考スケジュールがずれ、複数承諾せざるを得ない」という回答は文系で約41%、理系で約45%だった。新型コロナ禍による外出自粛や企業の休業、リモートワークなどの影響で、対面での面接ができなくなったことなどが背景にあるようだ。

   2社以上の内定を受諾しようと考えている就活生のうち、最終的に1社に絞る時期は「10~12月」と回答した人が文系で約42%(同84)、理系で約53%(同38)で最多だった。「7~9月」と回答した人は文系で約38%、理系で約40%。入社直前となる来年の「1~3月」という人も文系で約14%、理系で約8%いた。

   1社に絞るにあたって影響を及ぼす情報は何かという問いに対しては、文系(同84)で最多だったのが「口コミサイトやランキング情報」で約39%。「現場社員・先輩からのアドバイス」が約38%で続いた。理系では、最多だったのは「内定者同士の情報」で約50%だった。「人事からの情報提供」が約47%で2番目に多かった。

「ギリギリまで粘って、見極めたい」「人生で大きな選択ですから」

   J-CASTニュースでは、学生の本音も聞いてみた。

   法政大学経済学部の4年生の女性(22)は、メーカー系2社から内定をもらい、6~7月にどちらも受諾すると伝えた。就活はいったん終えたが、どちらに就職するかは決めかねている。

「前にコロナを理由に内定取り消しになったというニュースを見て不安になり、(2社もコロナで)同じようなことにならないか、決断できないでいます。就活していたとき、メーカーはどこもコロナの影響が大きかったみたいで、(新卒)採用を止めたり採用数を絞ったりしていた会社が多かったので...」

   幸い、1社は10月1日に内定式を予定しているが、もう1社は新型コロナ禍の影響もあって内定式を見送ることになったそうだ。女性は「できれば、入社ギリギリまで粘って、見極めたい」とも話した。

   日本大学文理学部の4年生の男性(23)も、東京の不動産会社と、実家がある関西の建設会社の内定を受諾した。両社ともコロナ禍の影響を受けて売上高が減り、株価も低迷している。

「本当は実家に帰りたかったのですが、地元の方は景気が良くないみたいなので、『保険』で東京の会社も受諾しました。でも、こちら(不動産会社)も業界的には厳しいようです。一生とまでではなくても、自分の人生でかなり大きな選択になりますから、もうちょっとじっくり考えたいです」

   男性は現在、内定を受諾した2社の企業情報や口コミサイトを丹念に調べているほか、OB訪問やOBらとウェブ会議をして、それぞれの内情を聞き出しているという。

「迷惑をかけたくないので、年内にはどちらにするか決めて、伝えるつもりです」(男性)

「『二股』とかあり得ない」 企業の人事担当者は...

   こうした調査結果を、企業の採用担当者はどう受け止めるか。大手商社の人事部門の管理職(40代)は理解を示す。

「内定取り消しのニュースが大きく報じられたので、不安に感じるのは当然でしょうし、(複数社の内定を受諾することも)リスクヘッジとしてはやむを得ないですね。(我が社は)コロナ前から受諾後の事態も想定して、ある程度多めに採っています」

   一方で、東京の産業部品メーカーの採用担当者(34)は否定的だ。

「内定に承諾した後の辞退は信義則違反でしょう。『二股』とかあり得ないです。配属の計画など、色んな悪影響があるので、入社直前に辞退とか迷惑でしかないです」

   前述のMyReferの鈴木社長は企業側にこうアドバイスする。

「今年の就活はオンライン面接などだけで内定に至ったケースも多く、内定者にとっては内定先のリアルな情報がかなり少ないのです。企業は、内定を出したら『終わり』ではなく、その後も定期的に内定者とコミュニケーションをとり続けたり、内定者懇親会などを開いて企業と内定者、そして内定者同士の交流を深めたりして、つながりを深めていくことが大切です。その過程で辞退しそうな内定者もわかってくるので、対策も取りやすくなります」