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外山滋比古さん死去、96歳 ひとつのPOPが『思考の整理学』をベストセラーに

   英文学者で評論家、エッセイストとしても活躍したお茶の水大学名誉教授の外山滋比古さんが2020年7月30日、亡くなった。96歳だった。

   200万部を超えたロングセラー『思考の整理学』(筑摩書房)で知られ、言語や教育、知的な生き方などについて100数十冊の著書を残した。新書や文庫が多く、出版界から引っ張りだこの人気著者だった。

  • 筑摩書房のプレスリリースより
    筑摩書房のプレスリリースより
  • 筑摩書房のプレスリリースより

「東大・京大で一番読まれた本」

   1923年、愛知県西尾市に生まれる。東京高等師範学校英語科、東京文理科大(現筑波大学)文学部英文学科卒。雑誌「英語青年」編集長を12年間務め、「英語文学世界」「月刊ことば」の編集にも関わった。

   その後、東京教育大、お茶の水女子大などで教えた。英文学に始まり、レトリック、エディターシップ、思考、日本語論など多くの分野に取り組んだ。『修辞的残像』、『近代読者論』、『シェイクスピアと近代』などの著作がある。

   編集者からスタートした、学者としてはややイレギュラーな経歴。そのことが逆に独創的な研究姿勢に結び付いた。多方面への関心をベースに、70年代に入ると、『知的創造のヒント』(講談社)など一般向けの著作を頻繁に出すようになる。

   中でも大ヒットとなったのが83年に刊行した『思考の整理学』だった。外山氏が自らの体験に則し、独自の思考のエッセンスを明らかにした学術的なエッセイ。2016年2月までに107刷、累計発行部数が201万部。空前のロングセラーとなった。

   筑摩書房によると、最初からバカ売れしていたわけではなかった。発売から約20年たっても累計で16万部にとどまっていた。それが2007年、盛岡市・さわや書店の松本大介さんが「もっと若い時に読んでいれば...」というPOP(ポップ)で店頭PRしたことをきっかけに脚光を浴び、08年には東大、京大の生協の書籍販売ランキングでトップに。

   「東大・京大で一番読まれた本」ということで、売り上げが急伸し、09年には累計発行部数が100万部を突破した。その後も勢いが止まらず、順調に増刷を続けた。

「いまの学生は、自力で飛べないグライダーのようなもの」

「いまの学生は、自力で飛べないグライダーのようなもの。教えられた知識を詰め込む優等生は少なくないが、いざ論文に書きたいことを書けと言われると途方に暮れる」
「頭というものを『知識をため込む倉庫』にするのではなく『創造のための工場』にするにはどうすればよいのか」

   そんな外山さんの問題意識と問いかけが、マニュアル世代に響いた。15年度の年間文庫ランキングでも、東大生協2位、京大生協2位、早大生協では1位となっており、最近では有名大学生の必読本となっていた。

   90歳を過ぎても、執筆意欲は衰えず、『新聞大学』(扶桑社)、『知的な老い方』(大和書房)、『ものの見方、考え方』(PHP文庫)、『知的生活習慣』(ちくま新書)、『本物のおとな論 人生を豊かにする作法』(海竜社)、『逆説の生き方』(講談社+α文庫)など、知的生活をテーマに精力的な出版を続けていた。2019年にも『老いの練習帳』(朝日選書)など5冊の著書を刊行している。