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千代田区長「議会解散」ひとまず正常化 司法判断で正式謝罪、スキャンダル追及再燃か

   高級マンション「優先購入」疑惑で空転していた東京都千代田区議会に2020年8月12日、石川雅己区長(79)が16日ぶりに出席し、「区政を停滞させてしまい、お詫びします」と正式に謝罪した。疑惑を追及していた議会に区長が出した解散通知に裁判所が「ストップ」をかけたため、これまでの対決姿勢を全面的に転換したのだ。新型コロナウイルス対策に関する審議さえも中断していた前代未聞の事態が、ようやく正常化することになった。

   区長は、疑惑をめぐる自らの証言に関して刑事告発する決議をした議会に反発。7月28日に「刑事告発は事実上の不信任にあたる」との独自の見解を示し、議会を解散する通知を一方的に出した。これに対して25人の区議全員が解散の無効を確認する裁判を起こすとともに、裁判確定までの間、解散の効力を停止するよう申し立てた。このうち解散の効力について、東京地裁が8月7日に執行を停止する決定を出したのだ。

  • 東京都千代田区議会で謝罪する石川区長(2020年8月12日午後)
    東京都千代田区議会で謝罪する石川区長(2020年8月12日午後)
  • 東京都千代田区議会で謝罪する石川区長(2020年8月12日午後)

「重く受け止め」「真摯に受け止め」、ひたすら繰り返す区長

「今回の私の区議会解散の判断につきましては、区民ならびに区民の代表である議員の皆さまに多大なご心痛をおかけしたことを、深く、深くお詫びいたします」

   8月12日午後、千代田区議会の臨時会。こう述べた石川区長は、区政停滞への謝罪と円滑な審議への協力を求めた区議らに対し、ひたすら低姿勢を貫いた。「重く受け止め」「真摯に受け止め」。約4分30秒の発言の間、5回もそう述べた区長。傍聴席からは「白旗」を挙げたようにも見えた。

記者団の取材に応じる千代田区議会の小林孝也議長(8月12日午後)
記者団の取材に応じる千代田区議会の小林孝也議長(8月12日午後)

   議会側は区長の謝罪を受け入れる方針だ。小林孝也議長は臨時会の後、記者団にこう述べた。

「区長の謝罪については、一つひとつ実行していただけると信じております。一刻も早く区政を正常化させ、審議も早速に行っていきたいと思います」

選管も裁判所にも「ダメ出し」され...

   今回の混乱の発端は、区長のマンション疑惑だ。少しおさらいする。

   石川区長が次男らと共有する高級マンションの1室(1億円超)が、一般には販売されず地権者や得意客に提供される「事業協力者住戸」だったことが判明。区長らは地権者ではなく、マンションは建設時に区の許可を受けて高さ制限が緩和されたことから、区議会で「規制緩和の見返りに便宜供与を受けたのではないか」と追及されていた。

   区長は、地方自治法100条に基づく調査権限を持つ区議会の委員会(百条委員会)で証人尋問に応じたが、この際に虚偽の証言をしたなどとして、区議らが区長の刑事告発を求める議案を提出し、賛成多数で可決された。

石川雅己区長(石川氏のフェイスブックから)
石川雅己区長(石川氏のフェイスブックから)

   これに反発した区長が刑事告発の議決は「実質的な不信任の議決と認められる」と主張し、区議会の解散通知を提出したのだ。その後、区長は「議会はもう存在しない」として欠席を続けていた。

   そんな中、区選管は7月31日に臨時会合を開き、区長による区議会の解散通知について「適法な手続きを欠き無効」と判断。地方自治法上、解散は議会による不信任議決が前提条件だが、刑事告発の議決は「区長の不信任議決に当たらない」と結論付けた。

   それでも区長は「解散が有効か無効かは司法の場にゆだねるべきもの」と強気の姿勢だったが、前述のとおり区議が申し立てた解散通知の効力停止が裁判所に8月7日に認められたため、区長は「八方ふさがり」の状態になった。

千代田区役所が入る庁舎
千代田区役所が入る庁舎

   石川区長は12日の議会でも、「今回の司法の判断は異例の速さで進められ、行政の業務に停滞を許さないという司法の強いメッセージであると受け止め、これを真摯に受け止めたいと思います」と発言。区選管、東京地裁からも「ノー」を突き付けられ、「万策尽きた」とも言える。

議会は正常化も、スキャンダル追及は続く 「シャンシャン」で終わらせてはダメ

   今後の展開は――。区議25人が起こした、解散の無効を確認する裁判については、区長、区議双方の弁護士が和解する方向で協議を始めるという。こちらもいずれ、和解が成立する公算が高い。

   一方、区長は、新型コロナ対策で全区民に一律12万円を給付する計画案を7月27日に議会へ上程。こうした事業を含む補正予算について、8月24日からの週にも審議は再開する見込みだ。区長は国からの定額給付金(1人一律10万円)の手続きの後になるとして、区独自給付については補正予算成立後の10月以降の実施を見込む。

   ただし、肝心のマンション疑惑について、議会は矛を収めていない。百条委員会について、小林議長は「今後も(追及は)続く」としており、議決した刑事告発についても、いずれ実施する方針は変わらないとしている。

議会後に記者団に説明する石川区長(2020年8月12日午後)
議会後に記者団に説明する石川区長(2020年8月12日午後)

   石川区長も12日の議会後、記者団の取材に「議会が決めることですけど、内容については適正に、公平に取り組んでいただきたいという思いはある。ぜひそこはお願いしたい」と述べ、議会側への不満をにじませた。議会側の追及や刑事告発の推移によっては、今後も区長vs議会の対立が再燃する恐れも残る。

   いったんは正常化することになった千代田区政。とはいえ、コロナ禍の最中に2週間以上もストップした事実は重く、しかも発端は石川区長自身のスキャンダルと、司法も選管も「ノー」を出した独自見解に基づく「解散通知」だ。議会も区民も、これで「シャンシャン」で終わらせてはならない。