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ワーケーション推進と言われても... 「そう簡単に広がるはずはない」理由

   新型コロナウイルスが感染拡大する中、新しい働き方の一つとして注目されつつあるのが「ワーケーション」だ。英語の「ワーク(働く)」と「バケーション(休暇)」を合わせた造語で、観光地などに滞在しながらテレワークなどで仕事をすることを意味する。新しいライフスタイルとして普及するのだろうか。

   ワーケーションは10年ほど前から米国で提唱されるようになった。1~2週間など長めの休暇を取った場合、リゾート地など旅先にパソコンなどの仕事道具を持ち込み、休暇中の何日かを仕事に充てたりする。休暇が始まる数日前に旅先入りし、休暇の直前まで仕事をしたりすることもある。多様な働き方を認めようという動きの一環で、日本でも数年前から、日本航空など大手企業の一部が試験導入する動きが出ていた。

  • ワーケーションっか…(写真はイメージ)
    ワーケーションっか…(写真はイメージ)
  • ワーケーションっか…(写真はイメージ)

観光と働き改革の促進

   そんなワーケーションについて、政府は最近、推進姿勢を明確に打ち出している。2020年7月末には、菅義偉官房長官が「政府として普及に取り組むため、休暇の分散化などの課題を検討したい」などと述べた。

   ワーケーションを進めようとする政府の大きな狙いは、コロナ禍で苦しむ観光業をもり立てたいことといえそうだ。メリットを数字で示すのが旅行大手のJTB。7月に公表した試算によれば、祝日の翌日に平日があり、その翌日に土日曜日とつながる週があった場合、今までのパターンでは3人家族で「日帰り+1泊2日」の旅しかできず、消費額は約16万7500円にとどまった。しかしワーケーションをした場合、5泊6日の旅行が可能となり、3人家族の消費額は約65万3400円と約4倍に拡大する計算だ。コロナ禍による外国人旅行者(インバウンド)の激減に苦しむ旅行業界にとっては、大きな経済効果が期待できるというわけだ。

   さらに、多くの企業にとって働き方改革を促進できる可能性もあるという。例えば、有給休暇の取得が伸びない理由は、「休みをカバーしてもらう同僚に申し訳ない」など社内に取得しにくい空気があるためとされる。もし旅先で仕事ができれば休暇も取りやくなるはずだ。人口減少が進む地方都市にとっては地域の活性化にもつながるだろう。

コロナ禍で節約志向の高まりも

   こう書くと、いいこと尽くめのように感じられるが、「ワーケーションがそう簡単に広がるはずはない」(大手企業関係者)というように、簡単に普及するとは考えにくい。まず、旅行にかかる費用の負担問題だ。たとえ政府や企業がワーケーションを可能とする制度を整えたとしても、費用は個人がもたなければならない。コロナ禍で経済環境が厳しい中、節約志向は高まりつつあり、大きな費用負担にたえられる人は一部に限られよう。

   テレワーク関連でも指摘されたが、企業にとっては社員とのコミュニケーションや、業務管理、労災などにどう対応するかという問題も依然解決されていない。また、ワーケーションには通信環境の整備が欠かせず、単に休暇をとれれば実現できるという話でもない。

   「感染の再拡大で『Go To トラベル』がうまくいかない中、批判の矛先を回避しようという思惑もあって、見切り発車的にワーケーションを持ち出しているのではないか」(別の企業関係者)との不信感は根強い。将来的に普及するにしても、相当な時間がかかりそうだ。