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2Dドットの世界で「オンライン即売会」 注目のサービス「pictSQUARE」、運営会社が今後の展望語る

   新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、多くの同人誌即売会が開催の中止や延期、規模の縮小を迫られる中、新しい同人誌即売会の様式を模索する動きが進んでいる。

   インターネット上では、オンライン即売会サービス「pictSQUARE(ピクトスクエア)」に注目が集まっている。「pictSQUARE」は、インターネットの仮想空間上で同人誌即売会を行えるサービス。かつてのRPGゲームを想起させる2Dドットの仮想空間で即売会を開催することができ、アバターでイベントに参加し会場内を自由に歩き回ることができる。リアルタイムチャットで友人や出展者と会話することや、気に入った作品をオンライン決済で購入することも可能で、まるでリアルイベントのように同人誌即売会を楽しむことができるという。

   同サービスは5月にリリースされ7月ごろから大きな注目を集め、8月には多数のオンライン即売会が開催される予定だ。J-CASTニュースは、「pictSQUARE」を運営するGMW(愛知県名古屋市)の代表取締役の原綾志さんに、話題となった理由や開発の背景などについて、メールで取材を行った。

  • 「pictSQUARE」のイベント会場
    「pictSQUARE」のイベント会場
  • 「pictSQUARE」のイベント会場
  • ソーシャルインサイトより 「pictSQUARE」を用いたツイートの推移
  • ソーシャルインサイトより 「pictSQUARE」を用いたツイートの推移
  • アバターでイベントに参加し会場内を自由に歩き回ることができる
  • 「pictSQUARE」

リアルイベント参入や口コミで、参加者数が約9倍に

   運営会社GMWの代表取締役の原綾志さんによると、同サービスで8月17日までに開催された「5名以上が参加したイベント」の総数は219件で、累計参加者数は2万3071人(サークル参加・一般参加合算)。リリースされた5月のユーザー登録者数及びイベント参加者数は2000人ほどであったが、7月に6000人台に急増。8月は17日現在までの間にユーザー登録者数が1万4千人、イベント参加者数が1万9千人を超えた。原さんは参加者急増についてこう述べる。

「リアルイベントの主催者様が、pictSQUAREを利用しだしたことが、認知が広がる大きなキッカケとなっていると思います。ただ、リアルイベント主催者が困っていることを解決することも視野に入れて開発しておりましたので、(個人的にはですが)それも必然であったと思っています」

   SNS分析ツール「ソーシャルインサイト」で、「pictSQUARE」がリリースされた5月11日から8月10日までにツイッター上に投稿された「pictSQUARE」を用いたツイートの推移をみると、7月からツイートが激増している。4,5月には約4000件だったのが、7月には約1万3千件、8月には10日までの間だけで約2万4千件となった(なお、ソーシャルインサイトのデータはサンプリングされたものであり全量ではない)。

   最初に大きな話題となったのは、7月12日ごろ。「けものフレンズ」オンリーイベント「あなたは、けものがお好きですか?」開催に向け、イベント主催者が会場を内覧する動画を投稿したのが話題となった。その後も、主に週末ごとにイベントが開催され、参加者たちが口コミなどを投稿している。

   直近だと8月3日にツイート数が急増している。この日は、同サービスで開催予定のイベント「折れば本」の告知が行われた。印刷所を用いらずに自力で作成する本「コピー本」頒布に限定する取り組みがユニークだと話題になり、ニュースサイト「ITmedia NEWS」でも取り上げられた。こうしたイベントの開催や参加者による口コミが参加数の増加につながっているとみられる。

ソーシャルインサイトより 「pictSQUARE」を用いたツイートの推移
ソーシャルインサイトより 「pictSQUARE」を用いたツイートの推移

なぜ2Dドットの世界観にしたのか

   原さんは、新型コロナウイルス感染症拡大以前からオンライン同人誌即売会サービスの構想はあったという。

「もともと、『オンライン仮想空間上で同人誌即売会を行えないか』という構想は数年前から考えておりました。首都圏のみで開催されるリアルの同人即売会では、地方に在住している方に金額的・時間的コストの負担が高く、気軽に参加できないという背景がありました。
本年2~3月頃よりコロナが騒がれ始め、続々と同人誌即売会の中止・延期の報 が届く状況を鑑みて、開発の実施を決断しました。3月下旬に開発を開始し、5月上旬にβ版をリリースしました。」

   また「pictSQUARE」は、かつてのRPGゲームのような2Dドットの即売会会場が話題となっている。原さんは、開発速度を優先しつつ、VRデバイスなどの機器を必要とせず、スマホまたはPCに対応し、ユーザーがカスタマイズしやすい媒体であることを検討した結果、2Dドットの世界に行きついたという。

「必要なのは『新しい体験』ではなく、これまでリアルで行っていたことを仮想空間でどれだけ再現できるか、でした。美しいグラフィックなどは必要ではなく、『人がいて、おしゃべりできて、頒布物を手に取れる』=リアルイベントの楽しさが満たせれば充分だと考えていました。また、本開発は時間との戦いであることもあり、開発コストも優先しています」
「もちろん、ユーザーの親しみやすさの観点からもドット絵は良いものだと思って います」

   過去に提供した「pictBLand」や「pictSPACE」といった同人向けのサービスから、ユーザーがカスタマイズできることへの需要が高いことを想定していたとし、

「美しいグラフィックやリッチなデバイスなどで開発を行ってしまうと、カスタマ イズの簡単さが失われ、弊社が用意したものでしか活動できなくなるユーザーが、pictSQUAREを楽しめなくなってしまうだろうと思います。『弊社が用意したものだけでなく、自分たちで試行錯誤して作ったものを楽しめるユーザーと楽しむ文化』があると認識しておりますのでカスタマイズ性も重要な要件でした」

と述べた。

β版から本格リリースへ、今後の展望

   現在リリースされている「pictSQUARE」はβ版で、正式リリースに向けて準備を進めている。

   盆明け以降には、課金システムも導入予定となっている。課金システム開始前に作成したイベントはそのまま無料で利用できるが、今後はサークル参加料などが必要になる。とはいえ、5月リリース時に想定していた料金は、サークル参加料が500円、一般参加料が100円、精算手数料が280円と、リアルイベントと比べたら非常に安価である。これに関して原さんは、直前に金額の微調整が行われる可能性が高いが、一般参加は基本的に無料を予定しているとのことだ。

   そして、今後の課題や展望に関して原さんはこう述べる。

「突貫工事でリリースしたシステムですので、細かい画面のわかりづらさなどがあ るかと思っています。それらを精査し、よりわかりやすいシステムにしたり、情報の精度を上げていきたいと思っています。
また、既存の同人イベント開催社様とのコラボを行ったりしていきたいと思って います。ただ、大きなイベントの開催も嬉しいですが、小さなイベントも引続きサポート できるようなシステム制作を目指していきたいと思っています。」