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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 民主党大会への「共和党支持者」の眼差し

   2020年11月の米大統領選に向けた野党・民主党の全国大会が、8月17日から4日間にわたり、開催された。日本でも盛んに報道されてきたが、多くのマスコミの報道は民主党寄りで、今の米国の全体像が見えてこない。バランスを取るために今回はあえて、主に共和党支持者らが民主党大会をどのように受け止めたかを、伝えたいと思う。

  • オンラインでの開催となった民主党全国大会(公式YouTubeチャンネルより)
    オンラインでの開催となった民主党全国大会(公式YouTubeチャンネルより)
  • オンラインでの開催となった民主党全国大会(公式YouTubeチャンネルより)

アメリカの広さと多様性感じさせたオンライン大会

   今回の民主党大会は、新型コロナウイルス感染症の影響により、オンライン上で行われた。2日目は全米の各州・自治領の代議員がそれぞれの土地から、候補者指名を争ったジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース上院議員が、それぞれ何人の代議員を得たかを発表。その結果を受けて、バイデン氏が同党候補に正式に指名された。

   大草原の牛あり、ビーチあり、カラマリあり、とその土地柄がよくわかり、全米を旅しているようで楽しいものだった。代表も白人や黒人だけでなく、ベトナム移民、ネィティブアメリカンとさまざまだ。

   この国の広さと多様性を実感し、ニューヨークやカリフォルニアにいるだけではこの国は理解できないことを、改めて思った。以前、私が数年間、過ごした中西部のウィスコンシンやオハイオ、アイオワなどの州、時々訪れるフロリダ州も、私が今いるニューヨーク市とはまったく別世界だ。

   全米各地から届く動画では非難や中傷はなく、笑顔で淡々とその土地の紹介や支持表明をする様子を見ながら、分断が叫ばれている今の米国が、ひとつになれたような錯覚に陥った。

   私とオンラインで話した米北西部のアイダホ州ナンパに住むサラ(30代、経営コンサルタント)も、各地の様子をテレビで見ながら、同じように感じていた。

   「順番に動画で全米を旅しながら、自分はこの国を愛しているんだと改めて思った。同じアメリカ人なのに、どうして手を取り合って平和に暮らせないのか」と話す。

   サラは4日間、オンタイムで民主党大会を見ていたという。

「党大会では、『党派を超えてひとつになろう』、『バイデンはすべてのアメリカ人の代表になる』と訴えていた。ただ、(バラク・)オバマもバイデンも(カマラ・)ハリスも、演説はどれもトランプ叩きに徹していて、彼らの支持者層以外に声が届いたとは思えないわ」

   オバマ前大統領は、「(トランプ氏が)大統領の器に成長しなかった。できないからだ」などと終始、トランプ氏を酷評。副大統領候補に指名されたハリス氏は、トランプ氏のコロナ対応について、「指導力がないために、国民が犠牲になった」と厳しく批判した。

   バイデン氏はあえてトランプ氏を名指ししなかったものの、「米国を長きにわたり、暗黒で覆い隠した」、「責任は取らず、人を非難し、独裁者にこび、憎しみと分断をあおっている」などと強く批判。自分はこの国に「光」と「統一」をもたらすと訴えた。

   バイデン氏の演説は「これまでのどのスピーチより力強かった」と、演説直後のFOXニュース、そして共和党支持者の一部も称賛した。

   サラは続ける。

「バイデンの演説は思っていたより、訴える力があった。でも、具体的な政策をどう実現するかが、今ひとつ伝わってこない。ハリスも多様性を強調するばかりで、具体的な政策には触れなかった。バイデンは「家族思いで、弱者にも優しいいい人」とほめ称えられているけれど、リーダーシップが取れるのか、大いに疑問だわ」

   バイデン氏は演説の中で、道路や橋、空港などのインフラ整備、教育や医療の改善、社会福祉の充実、環境問題への取り組みなどに触れたが、その財源については具体的にほとんど語っていない。

米国で続く「混乱」に触れることなく...

   共和党支持者らと話してみると、その多くが不満を感じているのが、今、米国で起きている混乱に、民主党大会で触れなかったことだ。

   米北西部のオレゴン州ポートランドやワシントン州シアトル、中西部イリノイ州のシカゴ、北東部のニューヨーク市などで一部のデモ隊による放火や建物破壊、銃撃事件、殴り合いなどが起きたことだ。いくつもの街でそれが今も続いており、大都市では犯罪が急増している。

   シカゴ郊外に住み、不動産業に携わるイーサン(50代)は、「僕はトランプを全面的に支持しているわけではないけれど、暴力や犯罪を野放しにして、目をつむっている民主党には呆れるばかりだ」と話す。

   FOXニュースでは今も、「こうした都市は、民主党の市長や州知事がいるところばかりだ。なぜ、民主党大会でひと言も触れないのか。自分たちの汚点をさらしたくないからだ」と、建物やパトカーへの放火や激しい殴り合いの画像とともに、繰り返し報道している。

   中には5月末や6月上旬のやや古めの画像も多い。今もポートランドやコロラド州デンバーなどで混乱や暴力や破壊行為が起きているものの、数か月前の状態が今も続いていると誤解を与える懸念もある。

   ニューヨーク市に住むクリストファー(70代)は、知り合いを新型コロナウイルスで亡くした。彼は、民主党大会初日の演説でクオモ・ニューヨーク州知事が、トランプ氏のコロナ対応を酷評したことに怒りをぶつける。

「クオモは自分の対応を自画自賛し、『トランプ政権が無能で国民の命を守れなかった』と言ったが、この州で3万人以上がコロナで死んだ責任を、自分を棚に上げてトランプに押し付けるのか」

   クオモ氏の強いリーダーシップのもと、ニューヨーク州では感染拡大を大幅に抑えることができたと、日本でも大きな話題を呼んだ。が、その一方で、高齢者施設の対応について、責任を問われている。

   2020年3月、同州で感染が一気に拡大し、病床数が足りなくなることを懸念したクオモ氏は、高齢者施設に対して感染を理由に入居を拒否することを禁止した。また、容態が安定して退院したコロナ患者の陰性確認をせずに施設に戻したために、結果として多くの人が施設で亡くなったと報道されている。

   民主党大会最終日の翌々日、マンハッタンで言葉を交わした黒人のドアマン(50代)は、誰に投票するか、まだ決められずにいるという。

「民主党の言うことは耳障りがいいが、夢物語のようにも聞こえるよ。トランプ憎しの勢いでバイデンが実際に政権を取ったら、どんな国に変わっていくのか、まだよく見えてこない。しかも、公約を掲げて、それを実行するかどうかは、また別問題だ。バイデンの背後で、何がどう動くのか。トランプの言うことすべてに賛同はしないが、『法と秩序』は絶対に必要だ」

   人間愛や寛容性を強調し、「米国よ、ひとつになろう」という訴えを、分断された今の米国で、希望とともに新鮮に受け止めた人たちは多い。ただ、民主党にバトンを渡して、この国は本当によくなるのか。自問自答している人が少なくないことも、確かだ。

   8月24日から、今度は共和党の全国大会が始まった。共和党は予想どおり「法と秩序の党」であることを前面に打ち出してきている。

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。