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「アップル税」反旗のエピック・ゲームズ 巨大IT「独占論争」激化で法廷へ

   2020年8月に時価総額が初めて2兆ドル(約212兆円)を突破した米IT大手アップル。市場の成長期待は相変わらず大きいが、その存在感の大きさゆえに逆風も強まっている。アップルがアプリ開発業者から徴収する手数料が「高すぎる」と不満が噴出しているのだ。

   その急先鋒が、世界的な人気ゲーム「フォートナイト」開発元の米エピック・ゲームズだ。アップルとの「バトル」は法廷に持ち込まれ、ヒートアップしている。

  • アップルか、エピックか
    アップルか、エピックか
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手数料回避→契約違反とアプリ削除

   「エピック・ゲームズはアップストア(アップルのアプリ販売市場)の独占に異議を唱えました。報復として、アップルはフォートナイトをブロックしています――」。エピックは8月中旬、インターネット上に公開した動画で、アップルを激しく攻撃した。動画の「元ネタ」は、他でもないアップルが1984年にパソコン「マッキントッシュ」を発売した時の有名な広告だ。アップルはこの広告で、コンピューター業界の巨人だった米IBMの「独占」に警鐘を鳴らした。それから36年を経て、エピックが今回作ったパロディー動画は、巨大化したアップルの「独占」を強く批判し、ユーザーらにエピック支持を訴える内容だ。

   騒動の発端はエピックが8月13日、世界に3億5000万人以上のプレーヤーを抱えるフォートナイトのアプリについて、アップルやグーグルからの手数料課金を回避する独自のシステムを導入したことだ。アップルはアップストア、グーグルは「グーグルプレイ」でアプリ開発業者のアプリを配信している。小規模な開発業者でも、こうしたサービスを利用すれば世界中にアプリを配信できるメリットがあるが、販売額の最大30%とされる手数料については「高すぎる」と業者の間で不満がくすぶっており、「アップル税」と皮肉る声も出ていた。

   手数料課金の回避に踏み切ったエピックに対し、アップルとグーグルはさっそく反撃に出た。エピックが「契約に違反した」として、それぞれのアプリ販売市場からフォートナイトを削除したのだ。これに対し、エピックはくだんの風刺動画を公開するとともに、アップルやグーグルが独占禁止法に違反しているとして、削除差し止めを求める訴訟を米連邦地裁に起こした。一方、アップルは独禁法違反を否定し、エピックが契約違反を解消すれば問題は解決すると反論している。

これまで「不満」が出てこなかった理由

   これまでアプリ事業者が、アップルやグーグルなどの巨大IT企業に対し、手数料の不満を訴えることはほとんどなかった。「異議を唱えれば、配信市場から排除されかねない」(アプリ業界関係者)と恐れているためだ。

   しかし、エピックのように世界中にユーザーを抱え、影響力を高めているアプリ開発業者が公然と反旗を翻したことは、巨大ITとそのプラットフォームを利用する業者との力関係が変化しつつあることの表れといえる。アップルに対しては、米欧有力メディアでつくる業界団体「デジタル・コンテンツ・ネクスト」も8月20日、手数料のしくみを明確に示すよう求める書簡を送った。

   米国では、巨大ITに対する規制強化の機運も高まっている。米下院は7月下旬、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)らIT大手首脳を呼んで独禁法に関する公聴会を開いたが、この場でもアップストアの「独占」問題はやり玉にあがった。

   アップル包囲網が狭まる中、「バトル」の軍配はどちらに上がるのか。日本のアプリ開発事業者への影響も大きく、「アップル税」の今後が注目される。