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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
省庁再編が「菅政権の柱」になれば... 霞ヶ関と永田町の力関係

   自民党総裁選は菅義偉氏が最優勢である。アベノミクス踏襲を掲げているが、経済政策以外に省庁再編にも意欲を示している。

   デジタル庁構想に加え、厚生労働省再編にも言及し、中央省庁の「再々編」の可能性も出てきている。

  • 総裁選出馬会見での菅義偉氏(9月2日、J-CASTニュース撮影)
    総裁選出馬会見での菅義偉氏(9月2日、J-CASTニュース撮影)
  • 総裁選出馬会見での菅義偉氏(9月2日、J-CASTニュース撮影)

官僚に対する権勢を維持できる

   現在の1府12省庁体制は、1996年橋本政権で議論され、2001年森政権に発足した。これは、戦後初の本格的な省庁再編で、政治主導、縦割り行政打破を狙っていた。

   しかし、旧建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁が合併した国土交通省、旧総務庁、郵政省、自治省を一体化した総務省、旧厚生省、労働省による厚労省という巨大官庁が生まれた。

   特に、厚労省は、業務が多岐にわたり増え、国会対応もままならないと言われている。2018年9月、自民党行政改革推進本部(甘利明本部長)から、厚労省の分割を促したほか、子育て政策を担う官庁の一元化が提案された。その当時、自民党総裁選の最中だったが、争点化されることなく、議論は立ち消えになった。

   ズバリいえば、省庁再編は霞ヶ関役人の最大関心事だ。役人の本能として、仕事の拡大がある。逆にいえば、省庁再編では、各省所管分野の争奪があり、「領地」な拡大縮小で各省庁は悲喜交交(こもごも)になる。その中で、政官の関係では政治が優位になることが多い。

   菅氏は、第二次安倍政権で創設された内閣人事局のシステムをうまく使い、官僚を適切にコントロールしてきた。その結果、歴代官房長官の中でも屈指の官僚掌握能力を持っている。

   省庁再編を政策の柱にすれば、菅氏の官僚に対する権勢を維持し、優位を保てるだろう。自民党内でも省庁再編は議論されてきたので、各派閥も表だって反対しにくい事情もある。ただし、省庁再編の議論が具体的に進むと、特定の省庁での不満が出てくる可能性もある。そうなると、各派閥と省庁が結託して、総論賛成各論反対に回る可能性もある。この辺りについて、マスコミはどっちにつくのかも興味深いところだ。

各省設置法を一本化、事務分担は「政令」で

   省庁再編は、当然なことながら、その時の政策課題と大きく関係がある。その意味で重要なのだが、省庁再編では政策議論というより「器」にばかり議論がいき、そこに人的リソースをかけすぎるのは効率的とはいえない。

   内閣人事局は、官僚側の言い分をそのまま記事にして批判するマスコミもあるが、第一次安倍政権で企画した筆者からみれば、それまで各省で行っていた幹部人事を官邸に移したもので、民間企業から幹部人事を各事業部でなく本部で行うという当たり前だ。

   その時の発想では、省庁再編が行いにくいのは、各省の事務分担が各省設置法で定められているからだった。そもそも、海外の国では、各省設置法などなく、その時の政権が柔軟に行政組織を決めるのが普通だ。民間企業でも、組織の改編は執行部がきめている。でないと、時代の変化に対応できないからだ。

   この発想からいえば、今ある各省設置法を全て束ねて政府事務法として一本化し、各省の事務分担は政令で決めればいい。こうした枠組みを作れば、その時の政権の判断で省庁再編を柔軟に行える。この方式の方が世界標準であり、政治主導がより発揮でき、時代の変化への対応も容易である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「国家の怠慢」(新潮新書、共著)など。