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与那国島から台湾へ、「高速船」で直通定期便プロジェクト 2021年度の実証実験目指す

   日本最西端の島・与那国島(沖縄県与那国町)と対岸の台湾を高速船で結ぶ構想が始動しつつある。2021年度に実証実験としての運航を目指し、2~3年かけて定期便が開設できるかを見極める。

   地理的には与那国と台湾は沖縄本島よりもはるかに近いが、直行便がないために今では「近くて遠い存在」。これを解消して、ボーダーツーリズム(国境観光)で町の活性化を目指す。

  • 石垣島との定期便が発着している与那国島西部の久部良(くぶら)港。税関・出入国審査・検疫(CIQ)体制の整備が課題になっている
    石垣島との定期便が発着している与那国島西部の久部良(くぶら)港。税関・出入国審査・検疫(CIQ)体制の整備が課題になっている
  • 石垣島との定期便が発着している与那国島西部の久部良(くぶら)港。税関・出入国審査・検疫(CIQ)体制の整備が課題になっている

沖縄本島から500キロ、石垣島から120キロ、台湾までは...

   与那国島はサトウキビをはじめとする農業や、カジキマグロなど漁業が盛ん。最近では「Dr.コトー診療所」(フジテレビ、03年)のロケ地として知られるほか、「国際カジキ釣り大会」(20年は中止)や、海底遺跡説も唱えられている「海底地形」など、観光資源も多い。特産品は「花酒」と呼ばれるアルコール度数60度の泡盛「どなん」などが知られている。離島防衛態勢の強化のため、16年には陸上自衛隊の駐屯地が開設されている。

   沖縄本島から約500キロ、石垣島から約120キロ離れているが、台湾までは約110キロ。東部にある姉妹都市の花蓮市までは約150キロだ。航空便なら30~40分、高速船でも1時間半~2時間程度で行ける距離だ。08年には航空便のチャーター便が運航されたこともあったが、今は直行便がないため、実際に往来しようとすると「与那国→石垣→那覇→台北→花蓮」と、「近くて遠い」存在だ。

   だが、かつては「近くて近い」存在だった。1945年まで台湾は日本が統治していたため、与那国と台湾は自由に往来でき、与那国は台湾の経済圏とほぼ一体化してきた。終戦で台湾との間に国境線が引かれてからも、沖縄本島や本土に闇物資を送る復興貿易の拠点として栄え、1947年に人口は1万2000人に達した。だが、米軍が取り締まりを強化したことで復興貿易は数年で消滅。それ以降人口は急速に減少し、2020年8月末時点では1703人だ。

新型コロナで「台湾側の需要調査で支障」でも「台湾側の関心も高い」

   与那国町は05年と06年に、台湾と小型貨物船などが自由に往来できる「国境交流特区」を申請し、却下されている。だが、その後も町としては台湾との交流を掲げ続けている。11年の「第4次与那国町総合計画」で「八重山地域と台湾を結ぶ高速船運航実現を推進」することをうたい、16年の「与那国町人口ビジョン及び総合戦略策定等報告書」では、「将来像」のひとつとして

「県外だけでなく、台湾や中国,東南アジアなど世界の国々と自由に往来する『交流の島』」

を挙げている。

   20年7月には、内閣府の20年度「沖縄振興特別交付金」の一環として与那国町が提案していた「国境交流結節点化推進事業」に1200万円の交付が決まった。これをもとに調査を委託する事業者を公募し、8月31日付けで建設コンサル大手「長大」(本社・東京都中央区)の沖縄支店と契約。今後、必要な調査を本格化させる。

   具体的には、(1)運航許可に必要な手順の整理(2)需要の調査(3)町内にある2つの港には税関・出入国審査・検疫(CIQ)の体制がないため、申請のための具体的手順を整理(4)使用する高速船に求められる条件を整理、といった作業を進める。

   与那国町の企画財政課では、新型コロナウイルスの影響で台湾への渡航が難しく「台湾側の需要調査で支障が出ている」とする一方で、「台湾側の関心も高い」として、引き続き21年度の実証実験としての運航開始を目指している。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)