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ニコ動「コメント付きシェア」から考える、SNSのキャプチャ文化【ネットメディア時評】

   動画投稿サービス「ニコニコ動画」で2020年10月13日から、コメント付き動画をツイッターにシェアできるようになった。PC版サービスとツイッターを連携させ、好きなシーンを決めると、3~30秒までの長さで切り出せる。

   動画上を流れるコメントは、「ニコ動」最大の特徴だ。人気作品だと、画面全体がコメントに覆われる「弾幕」も珍しくない。そんな雰囲気を共有できるとなれば、YouTubeなどの他サービスに移ってしまったユーザーも、振り向いてくれるかもしれない。

  • 「ニコ動」に新機能が
    「ニコ動」に新機能が
  • 「ニコ動」に新機能が

感情を凝縮した「弾幕」

   18年10月に放送された、ネットニュース会社を舞台にしたドラマ「フェイクニュース」(NHK)では、渦中の人物が「MAD動画」に苦しめられる描写があった。配信者による凸(とつ=突撃の意味)を映像素材として、コミカルに再構成されたこの動画は、明示こそされていないが、画面上を流れるコメントから察するに、ニコ動(に類するサービス)に投稿された設定と思われる。わずか14秒間ながら、事件の背景にある「ドロドロとした感情」が凝縮されている傑作だが、その感情を表現しているのは「弾幕」だ。

(なお同作は、放送数か月後に起きた出演者の不祥事により、現在まで再放送やネット配信、DVDなどのソフト化は行われていない。そのあたりの経緯は、脚本を務めた野木亜紀子さんが20年8月、ブログサービス「note」で振り返っているので、あわせて参照いただきたい。)

   コンテンツの一部を切り出して、SNSへ投稿できる例は多数ある。ネットラジオサービス「Radiotalk(ラジオトーク)」では、配信されたトークから任意の12秒間を選ぶと、そこでの音声が自動でテキスト化され、テロップ付きの動画としてシェアできる。

   漫画サービス「アル」には、人気作品の「コマ」投稿機能がある。対象作品には「進撃の巨人」「宇宙兄弟」「ちはやふる」「3月のライオン」などの人気作も名を連ねるが、いずれも出版社や作者の許諾を得ていて、著作権まわりはクリーンになっている。

コロナと令和、それぞれのキャプチャ

   近頃では、ネットニュースの記事をスクリーンショットして、数枚あわせて投稿する例も。かつては文字そのものを引用、またはURLを示す場合が多かったが、スマートフォンの普及でスクショが容易になったことで、見かける回数は増えている。

   SNSでの「切り出し映え」を見込んで、発信者側が工夫を重ねることもある。新型コロナウイルスをめぐっては、東京都・小池百合子知事が「感染拡大要警戒」「ウィズコロナ宣言」「"夜の街"要注意」などと書かれたフリップを掲げる様子が、たびたび中継動画のキャプチャとしてSNS上に投稿されてきた。

   小池氏の場合は短いキャッチフレーズが主だが、7月に東京都医師会が行った会見では、

「東京都医師会 心からのお願い 今すぐに国会を召集し、法改正を。いまが感染拡大を抑えるための、最後のチャンスです」
「特別措置法を改正し、法的拘束力のある休業要請+休業補償 全国のエピセンター化している地域限定で行う」

のように、要旨を簡潔にまとめたフリップが掲げられ、広く拡散された。

   思えば、菅義偉官房長官(当時)が「令和」の書を掲げた時も、コロナ会見同様にキャプチャがSNS上を駆けめぐった。視聴者の反応を伝える「弾幕」と、情報を強化する「フリップ」。発信者は異なるが、新たな文脈を与える意味では、どちらも近い存在と言えるだろう。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid