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永里優季が憤慨の「誤解記事」、背景に米サッカー独特の移籍事情が? 発端の日刊スポーツは謝罪し修正

   サッカー神奈川県2部「はやぶさイレブン」に期限付き移籍中の元日本代表(なでしこジャパン)FW永里優季の移籍をめぐる2020年10月28日付の記事について、配信した日刊スポーツが29日、「記事とタイトルが誤解を与えるような内容となってしまいました」として謝罪のうえ、内容を大きく修正した。

   同記事は公開当初から、永里本人が「嘘は本当にやめてください」「久々に腹立った」とSNS上で強く反論していた。

  • 日刊スポーツのおわび文
    日刊スポーツのおわび文
  • 日刊スポーツのおわび文

「突然すぎる」「腰掛け移籍」?

   問題となったのは日刊スポーツが28日、「男子チーム加入の永里優季が米移籍、クラブ寝耳に水」の見出しで報じた記事(以下、引用はいずれもウェブ版)。永里が「本籍」を置く米国NWSLのシカゴ・レッドスターズから、同リーグのレーシング・ルイビルへの移籍が決まったと報じた。移籍時期は書かれておらず、「今後への期待も大きかっただけに、チーム関係者は『まったく聞いていない』と寝耳に水の様子だった」としている。

   永里は男子チームのはやぶさイレブンへ9月に加わったばかり。所属期間1か月ですぐにルイビルへ移籍し、しかもはやぶさ側が移籍情報を知らなかったかのように解釈できる記事内容だっただけに、ツイッターでは「調子に乗りすぎ。事前報告は怠るなよ」「突然すぎる」「結局は男子のレベルについていけなかったってだけでしょ」「今回の腰掛け移籍には本当に失望した」などとネガティブな声があがることになった。

   だが、永里はもともと20年末までの期限付きではやぶさイレブンに移籍しており、21年1月にシカゴに戻ることになっていた。そして今回の移籍交渉がなされていたのは米国の地。ルイビルが10月26日、永里の獲得をシカゴと合意したと発表していた。永里にとっては、年明けに戻る「本籍」のクラブがシカゴからルイビルに移ったわけで、はやぶさイレブンでの所属期間に影響はない。

   そのため永里本人がツイッターで28日夜、「年内は、はやぶさイレブンでプレーしますけど?勝手に間違った情報を流さないで欲しいですし、その情報に対してもちゃんと調べてください。今週末の試合もメンバーに入ればベンチにも入ります」「嘘は本当にやめてください」「メディアって調べもしないで勝手な解釈でそういった情報を勝手に流して人を蔑めるのが仕事?久々に腹立った」と連投。怒りをあらわにした。

   はやぶさイレブンもツイッターで同日「永里優季選手は2020年12月31日まではやぶさイレブンの選手としてプレーします。2021年からのアメリカでのプレー先がレーシングとなります」との情報を出し、誤解されて伝わった情報の打ち消しを図っている。

「クラブに無断で年内にレーシングへ移籍するかのような印象を与えるものでした」

   そうした中、日刊スポーツは29日、「永里優季選手の記事でおわびします」との見出しで28日の記事について次のとおり説明した。

「【おわび】28日に掲載した、サッカー元女子日本代表FW永里優季選手が米女子プロリーグNWSLに来季から参入するレーシングに加入することが決まった、との記事とタイトルが誤解を与えるような内容となってしまいました。『男子チーム加入の永里優季が米移籍、クラブ寝耳に水』とのタイトルや記事は、年内は『はやぶさイレブン』でプレーする予定の永里選手が、クラブに無断で年内にレーシングへ移籍するかのような印象を与えるものでした」

   そのうえで「読者の皆様、永里選手および『はやぶさイレブン』の関係者、サポーターにご迷惑をお掛けしたことをおわびします。記事の一部内容とタイトルは差し替えました」と謝罪した。

   28日の記事の見出しは現在、「男子チーム加入の永里優季が来季米レーシングへ移籍」に変更。先述した「今後への期待も大きかっただけに、チーム関係者は『まったく聞いていない』と寝耳に水の様子だった」との文は削除され、「『はやぶさイレブン』でのプレーは年内までで、保有権のある米チームに戻ることは既定路線だった」という文が加わった。

「シーズン中にトレードに出される選手は当日その話を知ったなんてことは普通」

   米国スカイ・ブルーからなでしこリーグ1部・INAC神戸レオネッサへ期限移籍中の日本代表MF川澄奈穂美が29日、永里のルイビル移籍をめぐり、ブログで米国サッカーの移籍制度について解説している。

   21年シーズンからNWSLへ参入するルイビルは、参入にあたり選手獲得のための「拡張ドラフト」を実施する。ルイビルは他クラブから2人ずつまで選手を指名でき、逆に他クラブは所属選手を11人まで(米国代表選手は2人まで)プロテクトし、指名から防ぐことができる。本来11月5日にプロテクトリストが公開され、ドラフトは同12日に実施するスケジュールだが、今回はシカゴとルイビルの間で例外的な交渉がなされ、ルイビルはリスト発表前に永里含むシカゴの2選手を指名できた。川澄は永里の指名について「これはサッカー選手として高く評価されている証拠です。(さすが)」と評している。

   また、川澄は「アメリカではトレードが頻繁に行われます。選手同士のトレードはもちろん、翌年のドラフト権と選手をトレードしたり、三者間トレードなんかもあったりで、なんかルールが色々。そして、昨日まで練習に来ていたのに、その日にトレードが決まって次の日からもう練習来なくて、あら他のチームから新人さんいらっしゃ~い!みたいなことも珍しくないです」と米国の移籍事情を紹介。永里の移籍についても、

「シーズン中にトレードに出される選手は当日その話を知ったなんてことは普通ですし、それを考えればナガの今回の移籍の話は本当に寝耳に水だったんだろうなーってことが容易に想像できます。選手に決定権がないことなんてザラです。ナガ(編注:永里)、聞いた時本当に驚いただろーなー」

と書いている。現に、永里自身も28日夜にツイッターで「むしろ私が寝耳に水だし」と書いていた。永里にとってもルイビル移籍は驚いたものと見受けられる。

   永里は17年から約3年所属したシカゴを離れるにあたり28日、ツイッターで「クラブ、ファン、チームメイト、コーチングスタッフのサポートに感謝しています。共に仕事をするのはとても楽しいものでした」など、クラブを取り巻く人々へ感謝のメッセージを投稿。「あなたにはレッドスターズのファンが待つ家がいつもある」「素晴らしい人で、真のプロフェッショナルです」といった声があがっている。