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海洋放出、「決定」は見送ったが... 福島第1原発の汚染処理水問題が大詰め

   東京電力福島第1原発の敷地内にたまり続けているトリチウムを含む汚染処理水について、政府は海に流して処分する方向に動いている。当初は2020年10月27日にも、廃炉・汚染水対策の関係閣僚会議を開いて決定する方針だったものの、風評被害への懸念が強いことなどから見送るが、対策については今後も議論を詰め、早急に決定したい考えだ。

   福島第1原発では、溶け落ちた核燃料を冷やす水と地下水が原子炉建屋で混ざり、汚染水が増え続けている。東電は多核種除去設備(ALPS=アルプス)で処理してタンクに保管しており、その量は約120万トンに達し、2022年夏ごろに満杯になる見通しを示している。

  • 東京電力HDサイトの「原子力の取り組み」ページより。
    東京電力HDサイトの「原子力の取り組み」ページより。
  • 東京電力HDサイトの「原子力の取り組み」ページより。

海洋放出を有力視する提言を公表

   汚染水はそのままでは捨てられない。問題は、ALPSでも除去できないトリチウムだ。三重水素とも呼ばれ、自然界でも水素と結びついたトリチウム水として海や川、雨水、水道水にも含まれ、トリチウム水蒸気は大気中に存在する。原発など原子力施設でもトリチウムは生じ、各国が規制値(濃度)を決め、これに基づいて海洋や大気などに排出している。

   福島の汚染水の処分方法について、専門家でつくる経済産業省の小委員会が従来の5案から「地下深くの地層に注入する」案などを除き、基準以下に薄めて「海に放出する」「大気中に放出する」の2案に絞ったうえ、2020年2月、海洋放出を有力視する提言を公表。政府は4月以降、地元自治体や農林水産業者など、関係者からの計7回、29団体の代表者ら計43人を招き、意見聴取を重ねてきた。

   その意味で、政府が海洋放出を決めようとしているのは、この間の検討の延長上のことで、意外性はない。実際に放出となると、基準値を大幅に下回るまで薄めるとして、400~500倍に薄める。そのための施設建設には原子力規制委員会の審査や整備で2年程度かかる見通しで、タンクがいっぱいになるのを回避するためにはタイムリミットが迫っているというのが政府の判断で、加藤勝信官房長官は10月16日の記者会見で「いつまでも方針を決めずに先送りをすることはできない。政府内での検討を深めたうえで、適切なタイミングで政府として責任を持って結論を出していきたい」と述べ、早期に判断する決定の考えを鮮明にしていた。

全漁連、反対意向を伝える

   だが、当然のこととはいえ、漁業者は強く反発する。漁業団体の全国組織「全国漁業協同組合連合会(全漁連)」の岸宏会長は10月15日、加藤官房長官、梶山弘志経産相と面会して反対の意向を伝えたほか、16日には野上浩太郎農林水産相や平沢勝栄復興相らにも「海洋放出すれば風評被害が出ることは必至で、壊滅的な状態になることが危惧される」と、反対を訴えた。

   地元の福島県漁連は23日、いわき市で開いた会合で、改めて反対の立場を確認。野崎哲会長は「県漁連として海洋放出には反対の立場であることに変わりはない」と強調し、各漁協からは「10年たっても第1原発の10キロ内に入れないのに、処理水を流されたら、消費者は食べてくれない」などの声が上がっている。

   漁業関係者が海洋放出反対を譲らないのは、2015年8月に東電から受けた文書がある。海洋放出反対の県漁連の要望に、広瀬直己社長(当時)が「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留します」と文書で回答している。

風評被害対策などの検討をさらに深めることを確認

   こうした反発を受け、政府は23日、関係省庁でつくる対策チームの会合で、風評被害への対策などの検討をさらに深めることを確認した。梶山経産相は会合後の会見で「(処理水を)処分する場合、風評被害を受ける方々に寄り添い、国が前面に立って風評の払拭に取り組んでいく必要がある」との認識を強調した。「27日に決めることはない」と明言した。

   原子力規制委員会の更田豊志委員長が風評被害への対策として、測定の精度を高めた監視を行う方針を示している。このほか、福島県産品の販売促進や処理水の安全性の国内外への情報発信強化はもちろん、被害発生の際の賠償なども含め、政府として風評被害への具体的対応策をまとめていくことが不可欠で、漁業者らとも協議を続けていく考えだが、理解を得るのは容易ではない。

   梶山経産相は「早期に(処分の)方針を決定する必要がある」とも述べており、「一定の対策の方向性を示したうえで海洋放出を決め、実際の放出までの2年程度の間に、理解を広げていくことになるのではないか」(大手紙経済部デスク)との見方が強まっている。