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米司法省が切り込んだグーグルの「抱き合わせ」 連邦地裁提訴の背景は

   米司法省がネット検索最大手、グーグルを反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで連邦地裁に提訴した。市場支配力を使って他社の参入を排除してきたとして、違法行為の中止や事業分割を含めた是正措置を講じるよう求めたものだ。

   独禁法を巡る司法省の大型訴訟は、1998~2002年の米IT大手マイクロソフト(MS)訴訟以来約20年ぶり。グーグルをはじめとしたGAFAと呼ばれる巨大IT企業が影響力を拡大する中、デジタル時代の競争政策は新たな段階に入る。

  • グーグルに是正措置を求めた
    グーグルに是正措置を求めた
  • グーグルに是正措置を求めた

スマホにアプリを標準化して...

   提訴は2020年10月20日で、司法省のほか11州も加わった。ジェフリー・ローゼン司法副長官は電話会見で「競争を促さなければ、グーグルに続く次の企業を米国が生むことはできなくなる」と述べた。

   これに対しグーグルは同日、「司法省の提訴には重大な欠陥がある。人々は当社のサービスを選んで利用しており、強制されたり代替手段が見つからなかったりするからではない」などと反論する声明を発表した。

   訴状によると、グーグルは、自社のスマートフォン用基本ソフト(OS)「アンドロイド」を利用するスマホメーカーに対し、検索やメールサービス「Gメール」、動画共有サービス「ユーチューブ」などグーグルのソフト利用を事実上義務づける「抱き合わせ契約」を要求。事前搭載した企業に年間数十億ドルの見返りを支払っていることも問題視。また、スマホOSではライバル関係にあるアップルともソフトの事前搭載契約を結んでおり、その対価としてアップルへの支払いは年80億~120億ドル(約8400億~約1兆2600億円)に達するとの試算も公表した。この額はアップルの年間利益の15~20%、グーグルの利益の3分の1に当たる破格のもので、巨大IT企業同士のなれ合いにも見える。

   グーグルはこうした結果、世界のスマホ検索で9割のシェアを握るに至り、司法省は、検索の利用数が多いほど広告が集まりやすくなるため、グーグルはネット広告市場への他社の参入も難しくしていると指摘している。

   もう少し具体的に言うと、サムスンであれ、シャープであれ、OSにアンドロイドを採用したいメーカーは、標準のホーム画面にグーグルのアプリを最初からインストールしておき、「グーグル検索」を標準化しておかなければならない。アンドロイドはアップル以外の端末メーカーにとって事実上唯一のOSだから、選択の余地はない。そして、その代わりに、グーグルから収益の分け前を得る――というアメとムチでグーグルに支配される構図だ。

20年前のMS係争と構図が似ている

   グーグルが圧倒的なシェアを占めることは、利用者履歴などビッグデータを手中に収め、ライバル社はデータを集められず、いよいよグーグルに対抗できなくなるという、絵にかいたような「独占」が進む。広告もグーグルに出さないと効果はないということで、スマホメーカーに気前よく分け前を払っても、これをはるかに上回る収益を得られるわけだ。

   今回の提訴は、20年前のMSを巡る争いに似ている。MSはパソコンのOS「ウィンドウズ」の圧倒的な占有率を背景に、ネット閲覧ソフトとしてMSのインターネット・エクスプローラー(IE)を標準化するなどをメーカーに強制し、「ネットスケープ」などのライバルを駆逐していったというもので、グーグルが検索ソフトなどを強制しているとの司法省の今回の主張と共通する。

   MSの係争は1審でMSに分割命令が出され、その後、控訴を経て2002年に和解で決着した。MSが提訴された1998年は、奇しくもグーグル創業の年。そして、MSの和解を受けてウィンドウズOS上に他社製品が搭載しやすくなった状況を生かして急成長したグーグルが、MSと同じ論理で提訴されたのは皮肉だ。

   グーグルなどの検索、フェイスブックなどのSNSは消費者には利用料が無料のため独占の弊害が感じられにくく、規制を求める世論が盛り上がりにくい面がある。また、国としては自国企業が「世界制覇」して稼ぐのは良いという意味で、政府が規制に消極的になりがちな面もある。実際、米政権は反トラスト法の適用に消極的だったが、フェイスブックから流出した数千万人分の個人情報が2016年米大統領選で不正利用された問題などを受け、GAFAの強力な市場支配力への警戒が強まった。

事業分割を含む提言も

   司法省が2019年から調査を本格化させたが、特に巨大IT企業が民主党寄りだとトランプ政権が不満を募らせたことが、提訴を急がせたとの見方もある。司法省とともに提訴に加わった11州の司法長官がいずれも共和党系であることも、党派的判断との疑念を抱かせる。他方、民主党が多数の米下院司法委員会も10月6日の報告書で、GAFAに対し事業分割などを含む提言を出しており、規制論は今や民主・共和の壁を越えて広がっているのも確かだ。

   米巨大ITを巡っては、欧州連合(EU)の欧州委員会が2018年、グーグルが優越的な地位を悪用した競争法(独禁法)違反を認定し、43億4000万ユーロ(約5400億円)の制裁金を科し、グーグルは不服として裁判で争っている。グーグルは欧州委の決定を受けて2019年に初期設定の検索サービスを選べる方式にしたが、大きな変化はないという。一度確立した独占体制は容易に崩せないという経済学の法則を地でいく形で、分割論など実効性ある措置を求める声がくすぶり続ける。

   日本の検索サービスは、ヤフーも根幹技術の検索エンジンで2010年からグーグルから提供を受けており、実質的にグーグルのシェアは9割以上に達する。政府も規制に動いており、「国際的な動向を踏まえながらルール整備を図っていきたい」(加藤勝信官房長官、21日の会見)と、米国の動向を注視しながら規制の検討を進める考えだ。