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マザーズ上場企業、「漫画ネタバレ」サイトを2億超で買収 投資家驚き、リアルワールドの狙いは?

   東証マザーズ上場のIT企業「リアルワールド」(東京都渋谷区)は2020年11月2日、漫画紹介サイト「漫画大陸」を2億2000万円で買収したと発表した。

   同サイトはいわゆる"ネタバレ"記事を多数配信しており、投資家の間では驚きが広がっている。買収の狙いを聞いた。

  • 漫画大陸
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  • 成長戦略イメージ

今期は売上1億超えを見込む

   漫画大陸はIT企業「プルチーノ」(北海道札幌市)が運営していた。同社公式サイトによれば、18年3月設立で、従業員1人、資本金50万円のスタートアップだ。漫画大陸のほか、アニメ、映画、Wi-Fi(ワイファイ)サービス、プログラミングなど特定のテーマに絞ったメディアを20以上運営している。

プルチーノの主な運営メディア
プルチーノの主な運営メディア

   漫画大陸は「人気のオススメ漫画からニッチで楽しい漫画までネタバレや感想情報が満載!漫画村の代わりに無料で漫画が読めるサービスや情報も随時更新しています」と宣伝するように、漫画雑誌の連載内容や電子書籍配信サービスの紹介記事を投稿している。

   「漫画作品のネタバレ情報をタイムリーに更新を行っておりますが、全て公式で運営されている電子書籍サービス等へ導線を貼っております」とも説明する。ネタバレ記事は18年10月以降、1万本以上投稿されている。

ネタバレ記事
ネタバレ記事

   リアルワールドの発表によれば、漫画大陸の月間PV(ページビュー)数は約600万、UU(ユニークユーザー、利用者)数は約240万人で、20年10月期の売り上げは1億1500万円、営業利益は1億300万円を見込む。買収額は営業利益の約2倍の2億2000万円。

   買収の知らせに投資家向け掲示板では好感する向きが少なくなかったが、「上場している会社がネタバレサイト扱っていいの?」とコンプライアンス(法令順守)面での懸念も漏れている。

著作権の問題は「念入りに確認」

   「昨今の新型コロナウイルス拡大による外出自粛で、電子書籍やオンラインのエンタメコンテンツを利用される方が多くなっている背景があり、弊社ではメディア運営のノウハウもあったことから事業の譲り受けをさせていただきました」――。リアルワールドの広報・IR担当者は11月4日、J-CASTニュースの取材に、買収の経緯をこう話す。

   同社は、グーグルやフェイスブックなど「GAFA」と呼ばれる米IT大手4社からのトラフィック獲得を目指す「GAFAメディア戦略」を成長戦略に掲げる。今回の買収はその一環となる。

   漫画大陸はアフィリエイト(成果報酬型)広告とアドネットワークの2つを収益の柱とし、買収後は「PV数やUU数をまずは伸ばしていくのが一つです。また、弊社のノウハウを使って広告単価を上げていくことで事業の成長を狙います」。1年後には20%以上の成長を目指す。

成長戦略イメージ
成長戦略イメージ

   ネタバレサイトをめぐっては、発売前の漫画作品に掲載されたイラストや台詞、あらすじなどを無断掲載したとして、運営者が逮捕されたケースもある。広報・IR担当者は「著作権の部分などで不適切な形で運営されていないことは念入りに確認しました」とクリーンさを強調した。社会問題化した海賊版サイト「漫画村」などと違い、漫画大陸では最新話の概要を文章のみで紹介している。

熊本県警と鳥取県警は17年9月6日、ネタバレサイトの運営者を著作権法違反(公衆送信権侵害、出版権侵害)の疑いで逮捕した(写真はコンピュータソフトウェア著作権協会より)
熊本県警と鳥取県警は17年9月6日、ネタバレサイトの運営者を著作権法違反(公衆送信権侵害、出版権侵害)の疑いで逮捕した(写真はコンピュータソフトウェア著作権協会より)

運営体制、記事の質の担保方法は?

   運営体制については、ネット上で仕事を受発注できる自社のクラウドソーシングサイトを使い、コストを抑えながら少数精鋭で行う。

   クラウドソーシングサイトを通じて記事を量産する手法は、IT大手「ディー・エヌ・エー(DeNA)」が15年に立ち上げたキュレーション(まとめ)メディアプラットフォーム「DeNAパレット」が思い出される。同プラットフォームでは不正確な記事やコンテンツの無断使用が横行し、大部分のサイトが閉鎖に追い込まれた。

キュレーションサイト問題で開かれたDeNAの謝罪会見(16年12月7日撮影)
キュレーションサイト問題で開かれたDeNAの謝罪会見(16年12月7日撮影)

   この点について問うと、記事の質を担保するために次の仕組みを用意したという。

「弊社のクラウドソーシングサイトの特徴として、不特定多数の方に案件をご案内するのとは別に、NDA(秘密保持契約)を結んで個別に案件を発注できます。その意味ではプロフェッショナルなライターの方に絞ってご依頼できる体制となっています。また、加盟している一般社団法人日本クラウドソーシング検定協会では、ライティングのルールなどの啓蒙活動を行っているので、こちらの講座を受講していただいたユーザーに記事を書いていただくことを想定しています。当然、著作権を守った形で読者に楽しんでいただけるコンテンツを提供していきます」(広報・IR担当者)

   今後も買収や社内での立ち上げを通じて複数のメディアを保有する意向だという。YMYL(Your Money or Your Life)と呼ばれる、グーグルが高い検索評価基準を設ける「お金」や「人生」(健康情報など)の分野は避け、「漫画のみではなく、映画、ドラマなどの『エンタメコンテンツ』紹介事業としてエンタメコンテンツとユーザーを繋ぐマッチングメディアプラットフォームNo.1の地位獲得を目標」とする。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)