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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 
「祭り」と「不正」で分断される大統領選

「『ドナルド・トランプは終わった』パーティー(DONALD TRUMP IS OVER PARTY)」

   今、全米でお祭りムードが広がっている。

   米大統領選の郵便投票開票が進むにつれ、バイデン優勢のニュースが立て続けに流れ、「バイデン大統領誕生」のニュースを今か今かと待ち望む人たち。そして苦しい立場に立たされていると報道されるトランプ支持者たちの様子を伝える。

  • ホワイトハウス前の「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」でバイデン勝利を叫ぶ人たち(2020年11月、ワシントンで筆者撮影)
    ホワイトハウス前の「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」でバイデン勝利を叫ぶ人たち(2020年11月、ワシントンで筆者撮影)
  • ホワイトハウス前の「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」でバイデン勝利を叫ぶ人たち(2020年11月、ワシントンで筆者撮影)

「TRUMP IS OVER」でパーティー

   首都ワシントンのホワイトハウス前の広場は「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」と名付けられ、2020年11月3日の投票日はトランプ氏に抗議する人たちと世界中の報道陣で埋め尽くされた。

   ホワイトハウスとの間には、5月に始まったBLM運動以来、高さ2メートルほどのフェンスが建てられ、そこは一面に「FUCK TRUMP」「ARREST TRUMP(トランプを逮捕しろ)」など反トランプのサイン、そして警官に殺された黒人の写真がびっしりと隙間なく貼られている。

   宿泊先のホテルのロビーで一緒になった黒人女性(20代、カリフォルニア州ロサンゼルス)は、フェンスにずらりと貼られた黒人たちの写真をフロントの女性に携帯電話の画面で見せながら、「これがみんな、殺された人たちなのよ」と泣いていた。

   投票日の翌々日辺りから、ホワイトハウス前は次第にお祭りムードに変わってきた。

   「TRUMP IS OVER(トランプは終わった)」のサインを掲げるケイト(22)は、「もう決まったも同然」と沸き上がる喜びを抑えきれないように、踊り出した。

   道ですれ違った20代の女性は、「BYE BITCH(あばよ 嫌なやつ)」の大きなサインを脇に抱えて、ホワイトハウス前に向かうところだった。

「もううんざりだよ」

   ワシントンだけでない。たった今(11月6日)、ニューヨーク・マンハッタンのセントラルパークで大学生5人(全員19歳)と話していると、男子学生のアダムが携帯を見て、嬉しそうに叫んだ。

「『TRUMP IS OVER PARTY』だってよ! ワシントンスクエアで今夜6時半からだ! 俺、行くよ」

   女子学生のサラは、「行きたいけど、何かあったら危ないからって、親が行かせてくれないだろうな」とつぶやく。

   今回、5人にとって初めての大統領選挙だった。全員、バイデンに投票し、友達も皆、バイデン支持者だという。

   「共和党支持者と話したことがある?」と聞くと、皆、首を横に振ったが、サラは「親がそうなの」と切り出した。

「それが我が家の最大の問題。エゴだらけの独裁者をなぜ支持できるの? だから親とはうまくいってない。毎晩、政治について口論してるわ。母親が関心があるのは、税金やお金のことだけ。人権なんてどうでもいいの。白人はただでさえ恵まれていると私が言うと、私だって若い時には苦労したわよ、って言い出す始末」

   ペンシルベニア州を獲得すれば、バイデン氏の勝利が決まる状況となり、この州最大都市フィラデルフィアでは、開票が進むコンベンション・センター前など市内各地で人々がダンスしながら、バイデンの勝利を今か今かと待っている。

   ともに民主党支持者が圧倒的に多いニューヨーク市でも首都ワシントンでも、街中を歩いていると、「トランプ」「票」「ペンシルベニア」「ジョージア」などの言葉が聞こえてくる。

   そして多くの人が、「I'm getting tired of this.(もううんざりだよ)」と話す。

   この国の激しい分断、そしていつまでも結果の出ない大統領選に疲れ切った様子だ。投票日夜から翌朝にかけて、一睡もしなかった人たちも多い。

ホワイトハウス前でトランプ再選を祈るキリスト教徒

   こうした中、トランプ支持者たちは今、何を思っているのか。

   フロリダ州に住むベス(60代)は、「公正な選挙が行われたのであれば、もちろん、その結果を受け止めるけれど、何を信じていいのか、もうわからないわ」とため息をつく。

   ベスをはじめ多くの支持者は、不正があったと感じている。

   フィラデルフィアでは5日深夜、トランプ支持者と見られる武装した男2人が、開票所近くで拘束された。

   私が投票日の前々日(11月1日)にマンハッタンで出会った男性3人も、「開票が公正に行われるように監視に行く」と話し、銃を持ってきたと明かした。

   11月4日に首都ワシントンの「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」で、私が出会った夫婦デビーとダニエルは、トランプ氏のために祈りを捧げに、テキサス州ダラスからやってきたという。

   2人は祈りながらワシントンの街中を歩いているが、ここホワイトハウス前でも祈りたかったという。

   「神が私たち誰もを愛していること、私たち2人がトランプ大統領を支持していることを示すために、フェンスにサインを貼ったけれど、(BLMの人たちに)はがされてしまったのよ。このフェンスはあの人たちのものではないでしょう?」と悲しがる。

   そこには数人のキリスト教徒らが別々にやってきては神を讃美する。ある女性が切々と神について語っていると、BLMの活動家らがサイレンを鳴らしたり、耳元でメガホンを使って叫んだりして、妨害していた。

   「この人、いつもいるのよ。わざわざここでやらなくてもいいでしょう」とBLMの活動家は私に話す。

   ワシントンでは今も、全米各地から訪れる熱心なキリスト教徒たちが、神への讃美を歌い、トランプ氏の再選を祈っている。

   11月6日昼、まだワシントンにいるデビーと電話で話した。

「メディアや民主党支持者のトランプに対する嫌悪感は、今もすごいものね。トランプは今、どんな思いでいるのか。もし選挙で不正があるなら、すべて表に出るべき。不正は、それが指導者であろうと、教会であろうとメディアであろうと、顕らかにされるべき。

ただ、法廷に持ち込まれたら、ますます醜いことになってしまう気がする。これからの道は険しい。でも何が起きても、それが神の意思だと思うから、祈り、喜んでいようと思うのよ。今日も素晴らしい天気だから、祈りながら外を歩くわ。でもね、私の『I Love Jesus(イエス・キリストが大好き)』マスクが、この街の人たちには評判が悪いのよね」

   明るく声を立てて笑うと、デビーは最後に私に「God bless you.(あなたに神のご加護がありますように)」と言って、電話を切った。

   今、ニューヨークは11月6日の夜を迎えている。まもなくバイデンが勝利宣言する可能性も伝えられている。

   だが、トランプ氏はそれを認めるのか。今夜も眠れない夜になりそうだ。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。