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紳士服店がカラオケに、焼き肉店に... 生き残りへ「転換」が加速

   新型コロナウイルスの流行が世界各地を波状的に襲うニューノーマルの時代、ライフスタイルのさまざまな面にも変化が生じている。身に着ける衣服もその一つだ。外出する機会が減って自宅で過ごす時間が長くなり、ユニクロのようなカジュアル衣料には追い風になっている。逆に外出する際に着る服は袖を通す機会が減り、関係する業界は深刻な打撃を受けている。その代表例はスーツなどを販売する紳士服業界だ。

   紳士服大手3社(青山商事、AOKIホールディングス、はるやまホールディングス)の2020年9月中間連結決算は、売上高が前年同期比で30~40%も減少した。新型コロナの国内流行が始まった20年の春先を振り返ると、2月27日に安倍晋三首相(当時)が小中高校などに春休みまでの臨時休校を要請すると表明。4月7日には東京や大阪など7都府県に緊急事態宣言を発令して、その後全国に拡大した。例年なら卒業式や入学式、入社式などが相次ぐ時期を直撃した「第1波」によって行事が軒並み中止となり、フォーマルウエアを新調する需要も蒸発した。

  • 紳士服の未来は?
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スーツ離れのなかコロナ禍が直撃

   ただ、紳士服業界の苦境は新型コロナで始まったものではない。地球温暖化防止策の一環として、政府が夏の軽装を「クールビズ」と銘打って推奨し始めたのは2005年。それが定着するにつれて、スーツの売れ行きが鈍っていった。職場の服装のカジュアル化もスーツ離れの一因となり、紳士用スーツを主力商品としてきた大手3社の経営をじわじわと苦しめてきた。そこにコロナ禍が直撃して、在宅勤務が急速に普及したためスーツを着る機会がさらに減り、紳士服業界の業績悪化に拍車をかけた。

   この結果、大手3社の2020年9月中間連結決算では、前年同期も既に最終損益が赤字だったが、更に赤字額を膨らませた。特に最大手で「洋服の青山」「ザ・スーツカンパニー」などの店舗を展開する青山商事は、全店舗の2割に当たる約160店舗を22年3月末までに閉店すると発表。既に約85店舗を閉店させる計画を立てていたが、約75店舗を上積みした。約4000人の正社員の1割に当たる約400人の希望退職も募る。21年3月末時点で40歳以上となる勤続5年以上の正社員と、無期契約社員が対象になる。この結果、21年3月期に閉店に伴う損失約115億円や希望退職関連の損失約40億円を盛り込み、通期でも赤字が拡大すると見込む。

娯楽業や飲食業は競合店舗が既に多い

   大手3社はスーツ離れに歯止めをかけるのは難しいと見込んで、コロナ禍の前から店舗の業態転換に踏み切っていた。中でもAOKIホールディングスが先行しており、紳士服販売から撤退したロードサイド型の店舗を改装して、インターネットカフェ「快活CLUB」やカラオケ店「コート・ダジュール」などへの転換を進めており、同社ではこうした娯楽業の店舗数が祖業の紳士服の店舗数に肩を並べる程度まで増えている。青山商事も既存店舗を改装して、100円ショップ「ダイソー」や飲食店「焼肉きんぐ」、フィットネスジム「エニタイムフィットネス」のフランチャイズ店舗を展開している。

   もっとも娯楽業や飲食業は競合店舗が既に多く、業態転換後も安定的な収益を確保できるとは限らない。コロナ禍のなか、生き残り競争は始まったばかりだ。