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「車内テレワーク」を留置中の成田エクスプレスで 両国駅「幻のホーム」での実験を体験してみた

   特急型電車でテレワーク――こんな実験をJR東日本が2020年11月27日と28日に行った。電車といっても走行中ではなく、駅に据え置いた車両を使ってのテレワークだが、両国駅臨時ホーム(東京都墨田区)というめったに入れない場所を使っての実証実験だ。この「N'EX でテレワーク!」、実際働き心地はどんなものか、J-CASTニュース記者が体験してみた。

  • 両国駅臨時ホームのE259系「成田エクスプレス」でテレワークを実験
    両国駅臨時ホームのE259系「成田エクスプレス」でテレワークを実験
  • 両国駅臨時ホームのE259系「成田エクスプレス」でテレワークを実験
  • 総武線各駅停車ホームからはこう見える
  • 普通車車内は余裕があり空いていた
  • コンセントが肘掛先端についているが、黒色なので気づきにくい
  • 個室スタイルの「STATION BOOTH」

静音性は良好

   「N'EX でテレワーク!」は両国駅臨時ホームに特急「成田エクスプレス」用のE259系電車を留置し、車内でテレワークができる環境になっている。予約はJR東日本のシェアオフィスプラットフォーム「STATION WORK」上で行い、15分100円で利用時間帯は10時~16時である(会員登録が必要)。

   場所に選ばれた両国駅臨時ホームだが、鉄道好きなら「おっ!」と思う場所である。今では総武線各駅停車のみが停車する両国駅だが、1972年までは総武線長距離列車の始発駅で、このホームから房総方面の優等列車が発着していた。しかし総武快速線の東京乗り入れ後、両国発の列車は廃止されていき、現在ではごく稀に臨時列車が入線した時か、イベント開催時にしか立ち入ることができない「幻のホーム」とも通称されている。そこでテレワークができるのは珍しい。

   現地は両国駅総武線ホームと改札内でつながり、E259系1編成が鎮座。座席は自由だが客室定員の半分に制限されており、座席の隣に人が来ることはない。記者が利用した11月27日午前の時間帯はどの車両も1両あたり5人前後の利用率であった。6両編成のうち1両はグリーン車だがこちらも同じ料金で利用できてお得だ。

   肝心の環境だが、特急型車両なので静音性も優れていて、音の環境は落ちついたオフィスと同レベルで仕事ができる。集中したければブラインドを下げることもでき、すぐ隣のホームに発着する総武線電車の走行音もさほど気にならなかった。空調も効いており座席はリクライニング可能かつドリンクホルダー付きと、休憩ついでに昼寝までできそうだ。

   無料Wi-Fiも完備されていて、パソコン1つあれば仕事ができる職種にはこの「電車テレワーク」は十分選択肢に入るのではないか。新幹線の移動中での作業になれているビジネスマンなら、走行音と振動が無い分こちらの方が快適だろう。ただし静粛すぎるので話し声がよく聞こえるため、仕事上のプライバシー保護のためにも通話時のイヤホンは欠かせなくなる。

   一方短所を挙げるなら座席間隔が固定されていて大柄の人には手狭に感じるであろうこと、コンセントが見つかりづらかったことだ。E259系は全席コンセント付きで肘掛の先端にあるのだが、肘掛とコンセントが同じ黒色で分かりづらく、成田エクスプレスに乗り慣れた人でないと戸惑いそうだ。座席のくずかごに成田エクスプレス運用時のリーフレットまでそのまま据え付けられている即席ぶりで、鉄道好きならばありがたいだろうが、もう少し「テレワーク仕様」にあつらえてもよいのではと思われる。

「電車内テレワーク」の候補地は?

   なぜJR東日本はこの試みを始めたか。現地で対応した担当者は「当社では現在シェアオフィスの開拓を駅でも進めているのですが、取組みの一環として実証実験を始めました」と話した。様々な検討の結果、自社車両の中でE259系がこの試みに適していると判断されたという。今回の実証実験をもとにありかたを検討する。実用化できるか否かは未定だ。

   JR東日本では2019年から駅構内でもシェアオフィス事業を開始している。こちらも「STATION WORK」上で予約できるもので、個室スタイルの「STATION BOOTH」とコワーキングスペースタイプの「STATION DESK」を首都圏主要駅で展開してきた。

   E259系と比べてみると、完全個室ブースのSTATION BOOTHは外の喧騒からシャットアウトされるが狭く圧迫感がある。またSTATION DESKは窓がない。程よく外気を感じられ、開放感があるのも鉄道車両のメリットだろうか。

   今回は両国駅が選ばれたが、都心で平日データイムに車両を留置できそうな場所は他にもある。上野東京ライン開業で発着列車が減った上野駅地上ホーム(13-17番線)・新宿駅11番線・品川駅8番線・中野駅7番線などが考えられる。これらのターミナル駅では、データイムのホーム運用はラッシュ時より余裕がある。昼間運用に就かない特急車両があれば車庫で昼寝させるより、朝の運用を都心の駅で終えたら車両整備の上でワーキングスペースとして開放してみた方がJR側も収益が上がるのではないか。収入減に直面しているJRにとっては「電車でテレワーク」も需要開拓の一助になる可能性もある。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)