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WEBコンテンツは「ネットで読むのが一番面白い」 人気小説・ニンジャスレイヤー翻訳チームの「直接マネタイズ論」

   人気小説「ニンジャスレイヤー」は2020年7月、ツイッター上での連載10周年を迎えた。ツイッターに最適化された同作は、何度もトレンド入りを果たすなどして、多くの人々の注目を集めてきた。

   J-CASTニュースは、同作を連載する「ダイハードテイルズ」の杉ライカさんと本兌有(ほんだゆう)さんに、ウェブ創作活動で工夫している点について取材した。(人気小説の「フリート活用」がすごい... 「ニンジャスレイヤー」翻訳チームに聞くツイッター術)後編は、ダイハードテイルズのウェブ上でのマネタイズ化について焦点を当てる。

  • チャンピオンRED(秋田書店)で連載中のコミカライズ最新刊「ニンジャスレイヤー キョート・ヘル・オン・アース」6巻
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ウェブで直接マネタイズできるように

   ダイハードテイルズの2人は、数年前までは作家志望の人間は出版社からのスカウトを待つ以外に収益をあげる方法がなかったが、現在はウェブ上で直接マネタイズもできるようになったと話す。

杉「昔は、プロとして食べていくにはその都度まず出版社に企画を通して、うまくいったら書籍化してもらうという形しか方法がなかったと思います。ただ5、6年前くらいから状況が変わっていて、今うちがメインで使っているのは『note』なんですけれども、月額制のサブスクプラットフォームを始めました」

   法人化したのもこれとほぼ同時期だったという。法人化した当時は、出版社からの印税が頼りであった。しかしそれは持続するためには非常に不安定であるとして、自分たちで収益をコントロールできるものを求めて始めたのが「note」のサブスクリプションサービスだった。杉さんは、導入時は不安だったとしながらも「やっぱり先にやっておいてよかった」と振り返る。

   ウェブで直接マネタイズできることには、コンテンツを読者と自分たちの手で直接育てられることをはじめ、多様なメリットがあるという。杉さんはそのメリットの一つに、「リアルタイム性」をあげる。一般的にインターネット上で話題となったものを、出版社から書籍化する場合、発売まである程度時間がかかってしまう。しかし杉さんは、ウェブと書籍には本質的には上も下もなく、だからこそウェブ上で公開したもので収益を上げる方法を持っておくのも大事だと話す。さらに、インターネットならではの面白さをそのまま届けたいという願望もあるという。

杉「インターネットで発表しているものはインターネットで読むのが一番面白いんじゃないかっていう持論があります。書籍にするならば、書籍のフォーマットで最適な形にチューニングするべきで、直さずそのまま持っていくとぎこちなくなる。インターネットでは面白いけど書籍にするのは難しいといわれるものであっても、インターネットで直接マネタイズできるんだったら、その都度やったほうがいいし、そういう環境はどんどん整ってきていると思っております」

クリエイターならではのウェブマネタイズ化のメリット

   本兌さんは、クリエイターとしてのメリットも提示する。

本兌「我々は実際にウェブマガジンを発行しております。書籍化して縦読みになって、ルビがついて、挿絵が設けられたものと比べると、そこまでリッチではないけれども、『note』はウェブデザインとして洗練されていますし、『出来立てのもの』をすぐに送って、ウェブとして整った体裁で読んでもらうことが出来る。そこに書籍と比べて大きな利点があります。書籍化のために、まとめなおして全部作り直して一年後、二年後に発行するのと比べると高いモチベーションをもって目の前の仕事に取り組めますね」

   出来上がった瞬間に公開することができ、読者からのレスポンスを得られる。それが創作活動へのモチベーションにも繋がってくる。すると購読者数も自然に増えてくるという。

   また「note」で収益化するために工夫している点としては、継続的に作品を掲載していくこと、そして短期的な売り上げよりも購読者数を意識することだという。

本兌「とにかく購読者が増えれば、この人たちにどんどん届けていくことで、収益が出てくる。なので、売り切り作品が出た月とかイベントをやった月は収入が多かったりはするんですが、それよりは毎月の購読してくれる人たちが増えていることが一番大事ですね」
杉「あとは、本編はあくまでもツイッター上で無料連載を続けています。入り口を狭めちゃいけないし、読み逃したら諦めちゃう人、脱落しちゃう人が出ないようにしているよね」

   原作の「ニンジャスレイヤー」のエピソードは非常に多い。そのためツイッター上でも多様なエピソードを連載していたが、本編のみ読みたい人から、枝葉のような細部のストーリーもすべて読みたい人まで、多様な需要がある。そこで、メインストーリーはツイッター上で無料公開しながら、作品をより深く楽しみたい人に向けた資料のようなものや「フレーバー」といった周辺情報に関しては「note」上の有料マガジンで公開しているという。

クリエイターのウェブマネタイズ化は広まる?

   「note」での成功によって、自分たちで直接コントロールできるウェブでの収入の柱が立った。もともとは不安定な印税を埋めるために始めた事業、しかし出版社との関係は今後も変わらないだろうという見方を示す。

杉「いわゆる出版社との関係って話になると我々としては変わらない。なぜかというと、出版社のほうで本を出す、そこでメディアミックスするっていうラインと、『note』とかを使って直接読者の方に読んでもらってマネタイズするってライン、両方があるので。我々だけではできないことを出版社の方がしてくれるし、大規模なプロジェクトっていうのは出版社を通してメディアミックスしてもらったほうがスムーズです。ただやっぱり、我々がそれを言えるのは直接マネタイズするラインを持っているからです。今後はもっと直接マネタイズするラインが一般的になってくるんじゃないかなと思います」
杉「どっちかだけだと、それはそれでできることが制限される。しかし別に奪い合うものではなく、どちらかの利益を食っちゃうものではないので相乗効果させるもので両方持つべきだよなと思います」

   出版社を通した書籍化と、ウェブ連載には双方異なるメリット、適材適所な表現があるとして2つを上手に活用していきたいという見方を示した。

   そして最後に読者に向けてはこう述べた。

本兌「ツイッターで連載始めてから今年で10周年になるんですけれども、こう言ったシステムの形も、皆さんのおかげでしっかり整えられることができました。まだ10年、20年やっていけると思うので、今後ともよろしくお願いいたします」
杉「いつも応援してくれて、読んでくれてありがとうございます。我々もとにかく楽しむことを最優先でやってるので、皆さんも楽しんでいただければ嬉しいです。 また常にその瞬間、その時、その最新のが一番面白いように取り組んでますので、乗り遅れとかそういうのはないです。気になったら今から読んでもらえたらうれしいです(笑)」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)