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官僚時代には、私も月300時間超の残業を... 霞が関に「前向き」な役所を作る、副大臣の「野望」

   菅内閣が重点政策のひとつとして掲げる「デジタル庁」の設置に携わる内閣府の藤井比早之(ふじい・ひさゆき)副大臣は、自治省(現・総務省)の出身だ。20代で退職する官僚が急増していることを背景に、「デジタル庁はそういうふうにはしないという野望」を持って準備を進める。藤井氏は、菅義偉首相と比較的近い議員としても知られている。

   インタビューの後半では、デジタル庁が導入を目指す、人材が互いに往来する「回転ドア方式」と呼ばれる方式の狙いや、「側近」から見る菅氏の人となりなどについて聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 内閣府の藤井比早之(ふじい・ひさゆき)副大臣。デジタル庁「回転ドア方式」で官民の人材交流を目指している
    内閣府の藤井比早之(ふじい・ひさゆき)副大臣。デジタル庁「回転ドア方式」で官民の人材交流を目指している
  • 内閣府の藤井比早之(ふじい・ひさゆき)副大臣。デジタル庁「回転ドア方式」で官民の人材交流を目指している

国のために働きたい、そう思って公務員となったが...

―― 広い意味での「行政改革・規制改革関連」には、霞が関の働き方改革も含まれると思います。河野大臣が11月、自己都合を理由とした20代の国家公務員総合職の退職者数が19年度は87人で、13年度の21人から4倍以上に増えたとする調査結果をブログで公表し、波紋を広げました。国家公務員制度は直接の所管ではないと思いますが、旧自治省のご出身の藤井副大臣として「官僚時代はここが辛かった、だからここを変えたい」といったことがあれば、お聞かせください。

藤井: ご指摘のとおり、国家公務員制度は内閣人事局所管で、私の担当ではありません。ここでは担当としての副大臣としてではなく、元・国家公務員のひとりとしての率直な感想をお話しします。私もそれこそ、月の残業時間が300時間超えた月もあるんです。何がそうさせているのかというと、私のときの経験からすれば、各省調整と国会対応です。地方自治体や利害関係者との調整。いわゆる「政治とのお付き合い」の仕方で、やっぱり現場の特に若い20代の職員さんは、本当に仕事が大変なんだと思います。当事者ではないので、今の若い方が置かれている状況や思いが直接分かるわけではありませんが、「縦割り打破」が課題になっているように、各省協議とか各省調整とか、その利害調整を役所がやるというのは凄まじく大変なんですよ。そういう点で、官邸主導や政治主導は非常に大切なことで、今、実はそこの過渡期にあると思うんです。
率直な感想からすると、自分は国家公務員になって日本国のために働きたいと思っていました。ところが、省益や課の利益に振り回されてしまう。もちろん、それぞれの役所に言い分はあります。例えば牛肉を輸出する場合は、厚生労働省は食品衛生でミスがあれば自分たちのせいにされるので、食中毒を起こさないために慎重になりますが、農水省からすれば「早く輸出しないと損じゃないか」となって、それぞれの正しさがある。この利害調整に、ものすごく時間をかけているんですよね。それを政治の世界がちゃんと理解して、優先順位をつけていくのが「縦割り打破」だと思っています。その部分の現場感覚が分かって、問題解決のための処方箋を書ける人間が政治をやるべきであり、政治が、うまくそれを誘導していかないといけません。

―― 「政治とのお付き合い」についてはいかがですか。

藤井: しんどかったのは質問主意書ですね。もうね、山のように来るわけですよ。それへの対応で本当に疲弊していました。国会の質問権は大事ですが。それと、処遇面です。同じようなキャリアを積んできても、同期で民間に勤めている方と比べると、ものすごく差があるんですよね。国のために仕事をしているはずですが、「自分たちがやっている仕事はこんなことなのか」と思うと、それで切なくなって...というのはあると思うんですよね。求められているものは何かというと、やっぱりやりがいのある仕事なんだと思います。自分の仕事が日本国の発展にリンクしていると感じられるものでないといけないと思います。

―― 多忙すぎると、目の前の業務に追われて視野も狭くなりそうです。

藤井: 私はすでに公務員を辞めた人間ですが、今になってみれば、霞が関も視野が狭かったのではないか、と思います。国民の0.0001%の世界で生きていて、社会全体のことが分からなくなっている。これは非常に危機的な状況です。私も地方に出たりして分かっているつもりでしたが、全く甘かったですね。実際に地元に帰って一軒一軒、お一人お一人回っていると痛感します。デジタルデバイドの問題もある中で、現場でデジタル化について説明するのは非常に大変だと思うんですよ。お一人お一人に「むしろ便利になるでしょう?」「大丈夫なんですよ」と理解していただくのは、政治の役割だと思うんですよ。日本国民一人一人の声が霞が関に届いているか、日本国民一人一人の声を理解した上で行政を動かしていくのは政治の役割です。そして、それを選挙で問われることになる。政治は、そこの感覚を間違えないようにすることが大事です。
霞が関自体が蛸壺(たこつぼ)化してはいけないわけですが、(現役の官僚からすれば)既存の仕事に追いまくられて、蛸壺で、結局それが日本の国のためになってないんじゃないか...ということにならないように、いかに対策していくかについては、本来は国を挙げて考えていかないといけないことだと思います。本来は「お国のために」と思って、本当に志を持って入ってくる人が若いうちに辞めるというのはすごく残念なことだと思うんですよね。その点では、デジタル庁はそういうふうにはしないという野望を持って、準備を進めているところです。

―― 考えてみれば、デジタル庁は霞が関では数少ない「前向きな仕事」が多くなりそうな役所ですね。

藤井: そうなんですよ!むしろ「回転ドア方式」で、民間出身者がデジタル庁に戻ったり、一度官僚から民間に行って「もう一度お国のために働きたい」とデジタル庁に入ったり...、そういう「回転ドア」ができれば、前向きなことが提示できると思っています。民間でバリバリ働いている人の中には、「給料は低くていいから、日本国全体のために働きたい」という人や、逆に官僚には「ずっと国家公務員で、この処遇では働けないから一度民間に行きたい」という人もいるでしょう。そういう方がいろいろと行ったり来たりできて、「回転ドア」ができればいいんじゃないかと思います。

「回転ドア方式」で「デジタル庁に行ったらキャリアアップ」目指す

―― デジタル庁は21年9月の発足予定ですが、どういった形で職員の採用を進めますか。「回転ドア」の内容にも関係しますが、民間から中途採用したり、霞が関から公募したりするのでしょうか。

藤井: 本当にデジタル化を進めようと思ったら、それこそ全国の自治体等の何千のシステムを標準化するのは非常に大変な作業なので、多くのプロフェッショナルに来ていただく必要があります。「回転ドア」をうまくやろうと思うと、「デジタル庁に行ったらキャリアアップになる」「あの人も行ったのか。すごい。あの人と一緒に働きたい」とならなければなりません。今が一番のヤマだと思います。ご家庭のことや、お勤めの会社との関係もあるでしょうから、今のうちから採用の話は進めておかないと...といったところです。デジタル庁が立ち上がる前の段階から関与していただくことが大事なので、実際に採用するのは21年の4月からくらいの心構えで取り組まなければなりません。それが今、一番デジタル庁を作る準備室の大切な仕事の一つです。

―― 「デジタル シフト タイムズ」の対談では、藤井副大臣は「菅首相の側近中の側近」だとうたわれていました。06年に総務副大臣秘書官を務めたときの総務大臣が菅氏だったことと、藤井副大臣も無派閥で、いわゆる「菅グループ」の中核にあたる「ガネーシャの会」に所属していることを指していると理解しています。菅氏は上司として「仕事がしやすい」関係ですか。

藤井: 総理が総務相になられたときからの繋がりですね。「〇〇とうたわれている」というのは、非常におこがましい話です。総理は、私からすると非常に頼りがいがあって、お仕えしやすい上司です。結構マメでいらっしゃるので、我々みたいな人間でも、ちょっとメールしたらすぐに「ありがとう」とか返ってくるわけですよ。お忙しくてもお電話はすぐにお返しいただいたりとかしますし...。あとは、やっぱり「筋を通す」。笑顔はかわいいですよ、本当にね。スイーツの話が前面に出がちですが。そういうところが、いわば総理になられた一つの大きなポイントではないかと思うんですけど...。

まめにメールする菅首相、年齢離れた副大臣にも「ご丁寧にありがとうございました」

―― どういったところが「筋を通す」のでしょうか。

藤井: 第1次安倍政権ができるまでは、総裁選挙ではたとえ負けても、その方を筋を通して応援しておられたところがあるんですよ。一方、物事を動かすときに1人ではできないんですよね。ですから「この分野はこの方の話聞いたらいいよな」「お役所でも、この分野について知っているのはこの人」といったように話を聞きながら物事を動かしていく、というのは非常にうまいと思います。そうかといって役所の言いなりになるわけではなく、色々な人から話を聞いて、それで自分なりに「こうだ」と考えるスタイルには、庶民感覚というか、皮膚感覚があると思うんですよね。総務相を務めておられたときも毎朝のように朝立ち(朝の街頭演説)しておられましたし、もともと秋田県から出てこられて、叩き上げでこられましたから、そこの目線もある。ある意味霞が関から見える0.0001%の世界ではなく、99.999%の世界、「もうとにかく今、暮らしが大変なんだ、生活が大変なんだ」という国民の皆様の感覚をお持ちなんだと思います。

―― まめにメールが送られてくるということでしたが、総理も色々なデジタル的なツールに詳しかったりするのでしょうか。

藤井: ツールの重要性を理解していることと、実際に自分で使っていることとは別問題です。例えば、ツイッターやフェイスブックをとにかく自分の手で活用して政治活動に使う、というよりも、むしろリアルの世界で生きておられる、という部分はあると思います。いずれにしても、本当にまめなんですよ。(スマホのメールを読み上げながら)「本当に良かったです。よろしくお願いいたします」「ご丁寧にありがとうございました」とか、親子ほど年齢が離れた自分のような者にこんな内容のメールを送れる人は、なかなかいないですよ。

藤井比早之さん プロフィール

ふじい・ひさゆき 衆院議員、内閣府副大臣。1971年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。95年に自治省(現・総務省)に入省し、秋田県庁出向、金融庁市場課課長補佐、消防庁救急専門官、総務副大臣秘書官、内閣官房・内閣府参事官補佐、彦根市副市長等を経て退官。2012年の衆院選で兵庫4区から出馬し、初当選。現在3期目。16年から17年にかけて国土交通大臣政務官を務めた。