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テレビとネット「垣根」さらに低くなった2020年 その先にあるものは?【歳末ネットメディア時評】

   どれだけインターネットが普及しても、マスメディアの影響力は変わらない。とくにテレビは、視聴者による「実況」との親和性も高く、多くの番組がツイッターのトレンド欄に入った。反対に、ネットの人気者が、テレビに進出する機会も。

   そんなテレビとネットの2020年を振り返ってみよう。

  • テレビとYouTubeが溶け合っていく
    テレビとYouTubeが溶け合っていく
  • テレビとYouTubeが溶け合っていく

YouTuberとテレビタレントが溶け合う関係

   2020年は、テレビとYouTubeの垣根が、さらに低くなった年だった。その象徴が、元NEWS・手越祐也さんのYouTuber転身だ。無期限活動停止処分となっていたジャニーズ事務所から退所すると、即座にYouTubeアカウントを始動。ライブ配信された、独立後初の記者会見は、1100万回以上(以下、数値は12月中旬時点)再生されている。

   吉本興業の「闇営業問題」で活動自粛した宮迫博之さん(雨上がり決死隊)も、今年に入ってYouTubeに本腰を入れた。同じく自粛となっていた田村亮さん(ロンドンブーツ1号2号)の復帰タイミングに「ぶつけた」として、参入当初は非難の的となったが、YouTubeチャンネル「宮迫ですッ!」はチャンネル登録者数120万以上、個々の動画も数十万再生をコンスタントに記録するなど、一定の支持を集めている。また秋からは、オリエンタルラジオ・中田敦彦さんとのトーク番組「Win Win Wiiin(ウィン・ウィン・ウィーン)」も開始。初回ゲストに手越さんを迎え、テレビさながらの舞台セットにも注目が集まった。

   かたやYouTuberの活動も、その範囲を広げている。ユーキャン新語・流行語大賞でトップテン入りした「フワちゃん」は、もはやマルチタレントの域。YouTuberが多く所属する「UUUM(ウーム)」からも、ウェブ以外への進出が目立つ。たとえば、男性2人組の「水溜りボンド」は4月から、伝統あるラジオ番組「オールナイトニッポン0」(ニッポン放送)を毎週担当。10月からはtvk(テレビ神奈川)で、街ブラ番組「水溜りボンドの○○行くってよ」も始まり、マスへの知名度も高めつつある。

ツイッターが「みんなのみな実」を現実にした

   おもわず「ツッコみたくなる」ドラマの存在も、SNSを盛り立てた。テレビ朝日とAbemaTV(現:ABEMA)が共同制作した「M 愛すべき人がいて」(4~7月)は、浜崎あゆみさんの半生を描いた同名小説をもとにしていながら、田中みな実さん演じる姫野礼香らのオリジナルキャラクターなど、原作にない設定が多数登場して、話題になった。

   ツイッターでは毎週、関連キーワードがトレンド入り。礼香が着用する眼帯が、福岡の土産菓子「博多通りもん」に似ていると話題になって、メーカーが初の全国CMを放映すると、それすらもトレンド入り。田中さんはアナウンサー時代から「みんなのみな実だよ(ハートマーク)」と冗談めかして名乗っていたが、名実ともにそうなってしまった。

   田中さんの古巣、TBSの「半沢直樹」(7~9月)も、実況ツイートが人気を盛り立てた。ツイッター日本法人は9月、電通・電通デジタルと共同で、テレビ視聴者を対象としたツイッターの利用実態調査を行った。11月にマーケティングブログ(日本語版)に掲載された「TVドラマ『半沢直樹』に学ぶ『TVを観ながらTwitterを楽しむ人』の特徴」では、「半沢」の視聴動向でツイッターが担った役割を紹介。最終回(9月27日)は「あ~、すみません最近ちょっと耳が遠くて」(大和田暁常務=香川照之さんの発言)のシーンが、もっともツイート数が多かったなどの結果を伝えている。

テレビ局とコロナ禍、その先の活路

   テレビ局の放送外収益だった大型イベントも、コロナ禍により中止・延期や規模縮小を余儀なくされた。そんな中、ひとつの形を見出したのが、6月からテレビ東京が行った「テレ東無観客フェス」だ。当初はバラエティ中心だったが、のちに「テレ東ビジネスフェス」も開催され、前哨戦としてワールドビジネスサテライト(WBS)の「放送直前の舞台裏」をYouTube中継するなど、あらたな試みも行われている。

   自社が擁するコンテンツや人材をフル活用する例も増えてきた。テレビ朝日のYouTubeチャンネル「動画、はじめてみました。」には、もはや看板アナとなった弘中綾香さんをはじめ、元乃木坂46の斎藤ちはるさん、「ダイエット企画」に挑戦した三谷紬さんといった、自社アナウンサーの個性を生かしたコンテンツが、連日投稿されている。また、「ゲーム実況」に参戦したTBS宇内梨沙アナのように、それまでYouTuberが得意にしてきたジャンルに、会社員の立場で参戦するパターンもある。

   NHKのネット事情も、2020年に大きく変わった。4月に本格スタートした「NHKプラス」によって、受信契約が前提ながら、ウェブ上での同時配信・見逃し配信が可能になった。ライバルの「TVer」(民放各局)も、最大1.75倍速での再生機能を追加するなど、サービス拡充を進めている。NHKの本格参戦で、より環境は変わってくるだろう。

   ブログサービス「note」に12月、「NHK取材ノート」を開設した。「取材に込めた思いや取材手法などをお話します」(プロフィールより)とあるように、先行するTBSテレビ報道局の「ニュースが少しスキになるノート」などと比較すると、ニュース解説よりも、報道姿勢の概論に寄せている印象だ。

   受動的に情報を得られる「放送」と、能動的なアクセスが一般的な「インターネット」では、同じ情報を届けるにせよ、その見せ方は大きく変える必要がある。ウェブ文脈にあった「編集力」をテレビ各局が身につけた時、ネットメディアの役割が問われることになるだろう。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid