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ワニくんは2度死んだ マンガと、アニメと、ネットの関係【歳末ネットメディア時評】

   2020年を代表するカルチャーといえば「鬼滅の刃」。テレビアニメの放送は昨年だったが、原作漫画の完結や、映画「無限列車編」の封切りなど、世の関心が集中する1年間だった。

   でも、世をにぎわせたキャラクターは、炭治郎や禰豆子だけじゃない。マンガやアニメのネット戦略や、SNSでの反応を中心に振り返ってみたい。

  • ワニの生きざまが話題に(画像はイメージ)
    ワニの生きざまが話題に(画像はイメージ)
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「商売っ気」が見えると、一気に冷める

   春先に話題になったのは、きくちゆうきさんの4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」だ。タイトルから結末がわかることから、毎晩19時前後のツイートに注目が集まった。前年12月からの連載が終了したのは3月20日。日本中が悲しみに暮れると思いきや、思わぬ「炎上」に襲われた。最終回投稿直後に、書籍化や映画化、人気バンド「いきものがかり」とのコラボレーションなどが立て続けに発表され、余韻さめやらぬ中でのビジネス展開に批判が相次ぎ、あらゆる憶測が広がったのだ。

   「商売っ気」が見えてしまうと、ネットでは一気に冷める。十数年前の「のまネコ騒動」もそうだった。これはネット掲示板の人気AA(アスキーアート)に似たキャラクターが、「のまネコ」の名称で商標出願されて、大きな批判を浴びた事案。「100ワニ」は作者自身らが権利を保有しているため、権利関係が炎上要因になった「のまネコ」とは前提が異なるが、「ネット文脈で愛されていたキャラが、急激に商業展開されたことへの反発」は、これに先立って玩具メーカーがAAを商標出願した「ギコ猫問題」とともに、通じるものがある。

   ドラマ「極主夫道」(日本テレビ系列、10~12月)をめぐる反発も思い出される。原作は、コミック配信サイト「くらげバンチ」(新潮社)での、おおのこうすけさんの連載漫画。元「最凶のヤクザ」で、現在は専業主夫の「龍」を中心に描いたコメディだが、ドラマでは龍の娘が登場するなどの設定変更があり、原作ファンからの批判をあびた

公式素材が生んだ「ジブリで学ぶ~」ブーム

   SNS上でのネタバレ論争もあった。ウェブ連載された「キン肉マン」がスクリーンショットされ、SNS上に拡散されることについて作者の1人が苦言を呈し、あわせて掲載媒体の編集部も、悪質な「ネタバレ」への法的措置を検討すると表明したことから、その言葉の定義が議論となった。なおJ-CASTニュースは当時、「ネタバレ・スクショの功罪 識者に聞く『キン肉マン』声明の見解」と題し、弁護士や漫画サービス運営者の見解とともに詳報している。

   一方で、有名作品の利用条件が、大きく緩和されるケースも。スタジオジブリは9月、「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」などの場面(作中シーンを切り出した画像)を「常識の範囲で」自由に使えるようにすると発表。ツイッターでは、シチュエーションごとに画像にあったフレーズをつぶやく「ジブリで学ぶ~」シリーズが多数投稿された。画像による大喜利は、これまでもSNSで頻繁に行われていた。ただ、その多くは権利上の処理が行われていなかったため、「公式素材」が使えるとあって、歓迎されたようだ。

   そんな反面、一番多く拡散されたアニメのシーンは「AKIRA」ではないか。大友克洋さんによる同作では、2020年に東京オリンピックが開催される設定だが、ある場面で「東京オリンピック開催迄あと147日」「国民の力で成功させよう」と書かれた看板の下に、「紛砕」(正しくは粉砕)、「中止だ中止」と映し出される。これがコロナ禍の現実を示唆していたのではとの指摘から、当初予定されていた開会式(7月24日)の147日前には、ハッシュタグ「#中止だ中止」が「日本のトレンド1位」に。ただ、ウェブにただよう場面画像を見る限り、いずれも権利処理を行ったうえでの転載ではなさそうだ。

   発信者が作品に込めた思いと、受け手が解釈する意図が、一致するとは限らない。受け手それぞれが発信者にもなれるソーシャル時代には、想像し得ない文脈で二次利用されることもあるだろう。そんな時、どう対処していくかが、コンテンツビジネスにおいては重要になってくるだろう。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid