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瑛人、YOASOBI、NiziU...そして新聞記者も? 音声メディアが生む「ネクストヒーロー」【歳末ネットメディア時評】

   ミュージシャンが、ネットサービスから名を成し、NHK紅白歌合戦へ。これまでもボカロP(音声合成ソフトVOCALOIDでの楽曲制作者=プロデューサー)出身の米津玄師さんらが居たが、2020年は新たなパターンを生んだ。

   音楽やトークをはじめとする「音声メディア」に着目して、インターネットの1年間を振り返る。

  • 音声配信からスターが生まれる
    音声配信からスターが生まれる
  • 音声配信からスターが生まれる

音楽配信から「紅白」へのルート開拓

   瑛人さんの「香水」が発表されたのは19年だが、TikTokの「歌ってみた」などにより知名度を上げ、ストリーミング配信でも大ヒットとなった。「夜に駆ける」の2人組ユニットYOASOBI(ヨアソビ)も同じく、ストリーミング配信で躍進。こちらはテレビ露出こそしていたが、パフォーマンス自体、紅白が初となるという。

   「デビューから29日で初出場」と話題のNiziU(ニジュー)も、「有名プロデューサーを起用したオーディション企画」という成り立ちはテレビ的だが、ネット人気が原動力になった。選抜過程を追った「Nizi Project」は、HuluとYouTubeで配信。CDデビューは12月だが、音楽配信での「プレデビュー」は6月で、紅白で披露するのもプレデビュー曲の「Make you happy」だ。

   ミュージックシーンで言えば、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の存在も欠かせない。ボーカリストを中心に「一発撮り」で披露するのが特徴で、アコースティックバージョンとも一味違う緊張感の中で、マイクと向き合う様子が描かれる。

   アカウント開設は昨年11月だが、2020年に入って、DISH//北村匠海さんの「猫」(3月投稿)が約8300万回、YOASOBIの「夜に駆ける」(5月投稿)が約7200万回、LiSAさんの「炎(ほむら)」が約3000万回(10月投稿、いずれも回数は12月下旬現在)も再生された。12月下旬には、チャンネル登録者数300万人突破を記念して、THE FIRST TAKEバージョンの計31曲が、各種音楽配信サービスで解禁されている。

参入障壁が下がるほど、コンテンツ力が問われる

   SNS的な音声配信サービスも増えてきた。Voicy、Radiotalk、REC.、Spoon、stand.fm......。知名度が高くない個人でも、パーソナリティーやDJとして発信できるプラットフォームが群雄割拠し、ユーザーの収益化も進みつつある。

   10年以上前からポッドキャストは存在したし、「ねとらじ」のようなライブ配信もあったが、RSS生成やポート設定などの準備を考えると、気軽に始められる雰囲気ではなかった。それがいまでは、スマートフォン1台あれば、録音から編集、配信までできる。参入障壁が下がれば下がるほど、どう差別化するかがカギを握る。強いコンテンツ力を持っている発信者は、そのぶん下駄を履けるのだ。

   ちょっと前、メディア界隈で「朝日新聞ポッドキャスト」が話題になった。その顛末は、J-CASTニュースでも「メディアがだんまりをきめこんでいる間に、読者は、その他の場所で真実に『近いもの』を感じとっている」(12月5日配信)と題して取り上げているので割愛するが、背景にあるのは「紙面メインでの発信に対する危機感」であろう。

   以前から朝日新聞社は、スマホ・スマートスピーカー向けの「朝日新聞アルキキ」(16年4月開始)を行っている。こちらは、記事をそのまま「新聞の読み上げに最適化した最新の音声合成技術」を使用して、音声コンテンツに置き換えるもの。そこに加えて、記者みずからの声、つまり感情ある言葉で語る「朝日新聞ポッドキャスト」を始めたということは、「記者の発信力」に可能性を認めているはずだ。ここから新たな人気者が生まれる可能性も多分にある。

「radiko」丸10年で、ようやくスタート地点に

   民放ラジオ局を中心としたradikoも、2020年に転機を迎えた。春にJFN系(キー局:TOKYO FM)の未参入局が相次いで合流し、9月のFM徳島参加を最後に、民放ラジオ全99局を聴取できるようになった。サービス開始10年で、ようやくスタート地点に立ったともいえる。

   加えて、首都圏では「ラジオ365データ」が導入された。従来のラジオ聴取率調査は、対象期間を定めていたため、期間外の聴取動向を把握しづらかった。その「空白」をradikoのデータで365日、毎分単位で埋める新サービスだ。

   全局参加と聴取データ活用、radikoの動きから見えてくるのは、既存のラジオ局がネットの反応を無視できなくなっている現状だ。もともとネットでは、「どこで伝えたか」より「だれによる発言か」が重視される傾向にあるが、音声においても今後、プラットフォームとパフォーマーの分離が進んでいくのだろうか。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid