J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

トークから「経済圏」を生み出す... Radiotalk井上社長に聞く、音声配信の2020年とこれから

   大晦日はトークで年越し――。「紅白トーク合戦2020」と題したライブ配信が、音声配信サービスRadiotalk(ラジオトーク)で2020年12月31日に開催される。

   本家の「NHK紅白歌合戦」よろしく、紅組・白組それぞれ5番組のチーム戦で行われる。このイベントが生まれた経緯、そして音声配信業界は2021年、どう進んでいくのか。Radiotalk・井上佳央里社長に話を聞いた。

(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 城戸譲)

  • 音声配信の先にあるのは…
    音声配信の先にあるのは…
  • 音声配信の先にあるのは…

「紅白トーク合戦」が生まれた経緯

   Radiotalkは2017年8月、エキサイトの社内ベンチャー事業として開始。同社がXTech(クロステック)傘下になったのち、井上氏を代表に19年、「Radiotalk株式会社」として独立した。録音した音声はポッドキャストとしても配信でき、独自のスマートフォン向けアプリやウェブ以外でも聴取できるのが特徴で、月間アクティブユニークユーザーは、20年8月時点で昨対比5倍になったという。

―― 大晦日にライブ配信による「紅白トーク合戦2020」が行われます。このイベントが生まれた経緯を教えていただけますか。

井上: これまでディベートや「M-1グランプリ」のようなトークのバトルはありましたが、「トークをエンタメにする」ということを、芸人さんだろうと一般人だろうと、職業問わずやっていけないかと、今回「合戦」という切り口で企画しました。
また、今年は初詣が出来ないので、除夜の鐘や、僧侶に来てもらって「おみくじ」を引いてもらうなど、このラジオを聞いていれば、初詣するのとニアリーイコールなことを、音だけでやってみようという実験的な取り組みも予定しています。

――これから先、ウェブ上に限らずイベントを行うこともあるのでしょうか。

井上: 新型コロナウィルスの流行がなければ、「音楽フェス」みたいな感じで出来ないかとも考えていました。今回の「紅白トーク合戦」は人数を絞り、距離を開けて対策したうえでの開催ですが、リアルイベントはしていきたいですね。
ただ、会わなくてもできるというのが、トークの良さだとも思います。4月にリモートで一緒に収録できる機能を搭載しました。それとかは、まさにリアルイベントのかわりに、リスナーと一緒に配信できる形になっています。

――もともとのトーク(録音配信)に加えて、今秋からライブ配信が搭載されました。アプリのホーム画面を見たところ、ライブ配信を推している印象を受けますが、これからはトークからライブに軸足を移すのでしょうか。

井上: 生だから話せる、後に残らない音声だけだからこその面白さがあります。当初からライブ配信をやるつもりだったんですが、「こだわったトーク」がたくさん並んでいる状態でライブ配信機能を出した方が、よりこだわりの強いものが集まる仕組みになるだろうと、機能を温めてきました。なので、軸足を移すというよりは、やりたかった事が、やっとできるようになった形です。

配信者からスターが生まれる「3つの段階」

――そうした「こだわりのトーク」が集まるRadiotalkですが、そのコミュニティが支持される理由はどこにあると思いますか?

井上: 支持されてるなんて、めっそうも......。「コンテンツ」より「人」に対して共感する文脈があるなとは思います。リアリティーショーもストーリーの面白さよりも、登場人物に共感して「推し」ができる。単純なクオリティの高さよりも、いかに愛されるか、応援されるかの時代だととらえています。
Radiotalkは、コンテンツを売るのではなくて、配信者がどんな人で、どんなバックボーンを持って、どういう風に感じていて......みたいなところを伝えるサービスです。時代に合って、応援されるべき人が応援されるようなコミュニティができているといいなと思います。

――運営していくうえで、「こういう人が応援されやすい」といった傾向はありますか?

井上: Radiotalkの場合は、自分のクリエイティビティを持っている人ですね。そのまま「こういう出来事があった」と伝えるんじゃなくて、「こう思った」と、その人らしく表現できる。どうやったら面白く聞こえるか、参加してもらえるかな、みたいなことを考えられる人。表現の仕方は様々なんですけど、趣向を凝らした人の方が人気になりやすいですね。リスナー愛の深さも大切です。

――トーカー(配信者)からスターを育成する「Talker PRODUCE」プロジェクトが11月に始まりました。有名人を積極起用する競合他社もあるなか、新たな才能発掘に取り組む理由を教えてください。

井上: Radiotalkが目指しているのは、話すこと、トークというもの自体に経済圏が生まれる状態にして、それを文化として育てていくことです。とした時に、市場をけん引する人が必要で、それは音声から生まれなきゃいけない。YouTubeから生まれたYouTuberが居なかったら、芸能人も注目していなかったでしょうから。

――11月のプロジェクト始動から2か月。すぐに結果が出るものではないと思いますが、なにか出始めていますか。

井上: 全員に再現性があるものではないですが、それまで手元に残る収益がゼロに近かった人が、もう初任給以上、手元に入るようになったケースもあります。こんな短期的に成果が出るってのは、すごく珍しい事例だと思うんですけど。
スターの定義を「他人の人生に影響を与えられる人」だとすると、そこへ行くまでに3段階あると思うんです。最初は職業がトーカーになってる状態。小遣い稼ぎではなく、Radiotalkで収益を立てられる。第2段階が、企業からも信頼され、広告価値が認められること。3段階目が、その人が「しゃべる・話す」をきっかけに人気になった末、音楽やアパレルブランドのように、その人自体が物を作れるし売れる状態。「この人みたいになりたい」と人生に影響を与えるようになれるのが第3段階とした時に、あくまで第1段階の「職業としてラジオトーカーだと言えること」を達成している人が、出てきているということです。

「話すことが楽しい」と思ってほしい

――職業として生計を立てられるとなれば、夢がありますね。さきほどの3段階を経るとなると、マスに向けた展開も必要かと思います。ラジオ局を含めた既存メディアとのコラボレーションの展開は、今後どう進めていきますか。

井上: 認知度の拡大につながるのであれば、ラジオ局にこだわりません。駅のアナウンスとか、スーパーマーケットとか、活躍の場はどんどん展開できます。すでにRadiotalkがきっかけでコラム連載を持ったり、インタビュー内容が出版社に引っかかって書籍化する人もいます。トークは、音や言語表現に分解できるので、その点では文字でもいいでしょうね。

――トークを入口に「個性」を伝えるということですね。それでは来年、どちらの方向に進んでいこうと考えていますか。

井上: トーカーをよりスターにすることもやりますが、根本として「話すことが楽しい」と思ってもらえるように、プロダクトを磨いて、「話してよかったな」と思える仕掛けづくりは、やっていきたいなと思っています。まだ「ライブは怖い」と考える人もいるかもしれないので、もっと「話してよかった」とか価値が伝わるように、ライブ配信の体験をもっと良いものにしていきたいですね。