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核燃料の中間貯蔵施設に「共用案」 その狙いと「実現への障壁」

   原発の使用済み核燃料を一時保管する青森県むつ市の中間貯蔵施設について、大手電力会社10社でつくる電気事業連合会が、原発を持つ各社による共同利用を検討する方針を打ち出した。池辺和弘・電事連会長が2020年12月17日、梶山弘志経済産業相に共同利用案を報告した。

   問題の施設は、東京電力ホールディングスと日本原子力発電(原電)が出資する「リサイクル燃料貯蔵(RFS)」が運営する「リサイクル燃料備蓄センター」。使用済み燃料は現状では各原発の敷地内で保管されているが、その容量が限界に近付いている。このため、原発の敷地外に建設される初めての専用の貯蔵施設として建設されている。20年11月、原子力規制委員会に、安全対策の基本方針が新規制基準に適合すると認められ、21年度の操業開始が予定されている。

  • 「リサイクル燃料貯蔵株式会社」のサイトより
    「リサイクル燃料貯蔵株式会社」のサイトより
  • 「リサイクル燃料貯蔵株式会社」のサイトより

増え続ける使用済み核燃料

   原発にかかわる燃料のサイクルは、(1)ウラン燃料→(2)原発で使用→(3)使用済み燃料を原発で保管→(4)再処理工場でプルトニウムに→(5)ウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)工場でMOX燃料に→(6)MOX燃料を使用できる原発へ――というのが基本。RFS施設は(3)と(4)の間に「バイパス」として作られる。

   また、再処理工場でプルトニウムを取り出した残りの高レベル放射性廃棄物には(a)廃棄物処理工場でガラス固化→(b)最終処分場へ――という過程がある。(a)にあたる、日本原燃が青森県六ケ所村に建設中の再処理工場の稼働が再三延期され、その間も使用済み燃料は増え続け、原発で保管できる容量の75%が既に埋まっている。満杯になり、原発が稼働できなくなる事態を避ける方策の一つとして中間貯蔵施設が計画されたわけだ。

   通常、原発での保管場所はプールだが、RFS施設は高さ約5メートルの円柱状の頑丈な金属容器(キャスク)に収めて二重のふたで密閉し、空気の流れで自然冷却する「乾式貯蔵」という方式を使う。電気で水を循環させる必要があるプールより災害で停電した場合でも安定的に保管できる。貯蔵容量は使用済み燃料約3000トン分。東電柏崎刈羽原発(新潟県)や原電東海第2原発(茨城県)などから年200~300トンを搬入、将来的には容量を5000トンに増やす計画だ。

なぜ今「共同利用」なのか

   では、なぜ今「共同利用」なのか。関電は運転40年を超える美浜原発3号機と高浜原発1、2号機(いずれも福井県)の再稼働に向け準備を進めているが、最終的に同意が必要な福井県から、再稼働の条件として、中間貯蔵施設の県外候補地を提示するよう求められていて、杉本達治知事は20年12月2日の県議会でも「全ての条件に先んじるものだ」と言明している。

   関電は水面下でRFS施設を東電などと一緒に利用することを模索したが、2018年にそうした案が報道され、宮下宗一郎・むつ市長が反発し、頓挫した経緯がある。今回は電事連として、業界全体で施設を利用する枠組みにすることで、関電が利用できる道を開こうという狙いがうかがえる。

   電事連としては、業界全体として原発の再稼働を進める道筋の一環になる。東電などRFS側としても、全原発の使用済み燃料の保管量が貯蔵容量の7割超となる1万6000トンに上るだけに、RFS施設の容量に余裕があり、関電を含めた各社から出資を受けたり施設使用料を払ってもらったりするなどの形で費用負担を軽減できるのは歓迎ということになる。

焦点は地元の対応

   焦点は、地元の対応だ。東電と原電は青森県、むつ市との間で、使用済み核燃料を最長50年間保管することなど、施設利用に関する協定を結んでいるが、関電なども利用するためには、協定を変更することが必要とみられ、地元同意なしの共同利用は難しいのが実態だ。

   むつ市の宮下市長は、池辺会長と梶山経産相の会談を受けた12月17日の記者会見で、「地元軽視の極み。地元の理解をなくして物事は絶対に進まない」と不快感を示した。翌18日、電事連との会談には応じたが、「受け入れ先がなぜむつ市なのか。全国で探すプロセスがあってしかるべきだ」などと述べた。地元が懸念するのは、「中間」といいながら、最終処分場になってしまうのではないかということだ。最終処分場候補に北海道の2町村が名乗りを上げているが、簡単に決まるものではない。核燃サイクルも、再処理工場がいまだ稼働しないなど、行き詰っており、一度持ち込まれた燃料が行き場を失い、実質的に半永久的にむつ市に滞留しないか、という懸念だ。

   とはいえ、むつ市は過疎の自治体で、財政事情も厳しい。そもそも、だからこそ核関連施設を受け入れた。むつ市は搬入・貯蔵される使用済み核燃料に課税する新たな条例を制定し、操業開始から5年間で100億円近い税収を見込むが、RFSは「事業が立ちゆかなくなる」と減免を求め、協議が進められている。今後は、この交渉も含め、地元の理解をどう得ていくか、道のりは平たんではない。