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地方銀行99行のサバイバル 菅首相肝煎り「再編」、勢いづくSBI・りそな、対する当事者らは...

   地方銀行への再編が正念場を迎えようとしている。

   少子高齢化に伴う人口減少や日本銀行が継続しているマイナス金利政策による資金運用難などで、地銀の収益力は細る一方。経営状況は厳しさを増している。これに、新型コロナウイルスの感染拡大が追い討ちをかけた。

   地域の中小企業を支援、ひいては地方創生の役割につながる地銀の再編は、菅義偉首相の肝煎り。これに、日銀も地銀再編を後押しする仕組みを用意した。合併や経営統合を含めた抜本的な改善を、地銀に強く求めている。

  • 地銀再編が正念場!?
    地銀再編が正念場!?
  • 地銀再編が正念場!?

5月にようやく「100行」割れ

   地銀には二つある。いわゆる「地方銀行」と、1989年2月1日施行の金融機関の合併・転換に関する法律により、相互銀行が普通銀行に転換した「第二地方銀行」だ。当時、地方銀行は64行。第二地銀は68行あったが、1990年代後半~2000年代初めの金融危機に伴い、大きく数を減らした。

   1995年8月30日の兵庫銀行(旧兵庫相互銀行)の経営破たんにはじまり、翌96年には太平洋銀行(旧第一相互銀行、東京都)、99年には幸福銀行(大阪府)や東京相和銀行などが、毎月のように潰れていった。それが、2020年現在で第二地銀は38行にまで減ったものの、地銀は64行のまま。菅首相が再編をうるさく言うのは、「地方銀行」だ。

   現在、地銀が1行しかない都道府県は、埼玉県、山梨県、石川県、京都府、奈良県、鳥取県の6府県に限られる。他の41都道府県には、2行以上の地銀がある。なかでも、福岡県の5行、静岡県4行と多く、岩手県、山形県、福島県、東京都、千葉県、新潟県、富山県、愛知県、三重県、大阪府、沖縄県では3行ある。

   2021年1月1日、新潟県の第四北越フィナンシャルグループ(FG)傘下の第四銀行と北越銀行が合併し「第四北越銀行」が誕生した。県内シェアは50%を超える。どちらも、全国地方銀行協会に属する。64行から、十八親和銀行に次いで1行減って62行になった。

   5月には三重県の三十三FG傘下の三重銀行(地銀)と第三銀行(第二地銀)が合併し「三十三銀行」が発足する。第二地銀を含む、全国の地銀の数はようやく100行を割り、99行となる。

   政府は地銀再編を促すため、支援体制を急いでいる。コロナ禍のなか、20年6月には金融機能強化法を改正。地銀などに公的資金を注入できる期限を延長し、返済期限を撤廃した。11月27日には、地銀の経営統合や合併を独占禁止法の適用除外とする特例法を施行した。適用期間は10年間で、集中的に地銀の経営改善を促す狙いがある。さらには、地銀再編のために補助金も用意する。経営統合にかかるシステム開発費用などに充てるとされる。

   日銀も政府に呼応。経費削減や合併・統合によって経営基盤の強化に取り組む地銀や信用金庫を対象に、日銀に預ける当座預金に年0.1%の上乗せ金利を付ける(「特別当座預金」)という。地銀の収益力低下の原因をつくった日銀が再編をお膳立てするというのだから、マッチポンプもいいところ。地銀にしてみれば、腹立たしい限りだろう。

業務提携でしのぐ地銀

   とはいえ、地銀経営が追い込まれていることは間違いない。こうした事態に、生き残りをかけて、業務提携に活路を見出そうとする地銀は少なくない。

   2015年、千葉や第四北越(新潟県)、中国(岡山県)、伊予(愛媛県)、東邦(福島県)、北洋(北海道)、武蔵野(埼玉県)、滋賀、琉球(沖縄県)が参加する「TSUBASAアライアンス」が誕生。20年11月には、群馬銀行がこれに合流した。

   18年には、池田泉州(大阪府)、きらぼし(東京都)、山陰合同(島根県)、千葉興業、筑波(茨城県)、福井などが「フィンクロス・パートナーシップ」を立ち上げ。横浜銀行と千葉銀行が19年に、「千葉・横浜パートナーシップ」を結んでいる。昨年10月には、静岡銀行と山梨中央銀行が「静岡・山梨アライアンス」を発足した。

   台風の目は、SBIホールディングス(HD)だ。昨年10月、群馬県の東和銀行がSBIHDと包括業務提携を結んだ。コロナ禍で業績が落ち込んだ取引先企業の経営を支援するため、共同でファンドを組成した。11月には、きらやか銀行(山形県)と仙台銀行(宮城県)を傘下に置く、じもとホールディングス(仙台市)が資本業務提携を結ぶと発表。きらやか銀行と仙台銀行の収益力強化と企業価値の向上に取り組む。

   SBIHDは地銀との連携を強化して「第4のメガバンクを目指す」ことを標榜している。すでに島根銀行や福島銀行などに出資しているが、参加している地銀の多くは、地銀協に加盟する地銀に比べて、経営基盤が脆弱な第二地銀が中心だ。

「みちのく―青森」経営統合の道険し

   もう一行、地銀再編の支援に名乗りを上げたのが、りそなホールディングスだ。信託業務やファンドラップ、フィンテックなどの事業分野ごとに戦略的提携を結ぶことで、資本関係を伴わない地銀同士の連携を模索する。

   りそなHDは昨年6月、常陽銀行(茨城県)と足利銀行(栃木県)を傘下に置く、めぶきFGとデジタル分野で戦略的な業務提携を結んだ。両行が、りそなHDが開発したスマートフォン向け銀行取引アプリを導入する。また、11月には関西みらいフィナンシャルグループ(傘下に、大阪府の関西みらい銀行と兵庫県のみなと銀行)を完全子会社化した。店舗の共同化などの効率化を図る。

   地銀にとって、合併や経営統合は費用や時間がかかる。なによりも統合後の「行内融和」のハードルは高い。業務提携のほうが選択しやすく、提携で銀行同士の関係が深まれば、将来の再編に発展することも可能だ。

   ただ、そんなに簡単な話ではないよう。昨秋から、青森県の、みちのく銀行と青森銀行(いずれも本店は青森市)の経営統合が報道されている。「第四北越の次」と目されているが、両行は否定。ある地銀役員は、こう息巻く。

「お隣だからといって一緒になれるわけではない。地元では弘前藩(みちのく銀行は旧弘前相互銀行の流れを汲んでいる)と南部藩に遡るほど、溝は深い。『殿様』といわれようがなんだろうが、霞が関では理解できないのが地銀経営だ」

   多くの地銀は、地域で競合しない地銀同士で補完し合いながら生き残る道を模索。金融危機以降、数を減らしてきた第二地銀と「地銀は違う」という。

   もう、そんな時代ではないのではないか、と思うのだが......