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同性の生理「完全に理解できることはないと思う」 性教育YouTuberシオリーヌ×内田さやか産業医が語る

   近年、メディアなどを通じてオープンに語られるようになった「女性の生理」。かつては「なんとなく触れにくい話題」という印象だったが、徐々に情報を目にする機会が増えている。

   しかし、女性向けメディアアプリ「LOCARI(ロカリ)」を運営するWondershake(ワンダーシェイク、東京都目黒区)が、ウェブ上で行った「生理に対するアンケート」(期間:2020年10月8日~10月12日、対象:全国の男女964人)では、「女性同士なら生理のことを理解しあえると思うか」という質問に対し、回答者の約8割(83.5%)が「理解しあえるとは限らない」と回答。当事者からの情報発信が増えているからこその結果なのかもしれないが、この問題の複雑さを物語る数字となった。

   J-CASTニュースは2020年12月、助産師でありながら性教育YouTuberとしても活動する「シオリーヌ」こと大貫詩織さんと、心療内科クリニック院長と産業医を務める内田さやかさんを交え、Zoomを使ったウェブ対談を実施。なぜ女性同士でも「理解できない」と感じるのか、その背景にある職場環境の問題について話を聞いた。
(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 笹木萌)

  • Zoomでの対談に応じたシオリーヌさん(写真左)と、内田さやかさん(右)
    Zoomでの対談に応じたシオリーヌさん(写真左)と、内田さやかさん(右)
  • Zoomでの対談に応じたシオリーヌさん(写真左)と、内田さやかさん(右)

「女性同士でも理解しあえない」は「良い結果」

   先述の調査で、回答者の8割が「女性同士でも生理を理解しあえると思わない」と回答したことをどう捉えるか。シオリーヌさんと内田さんはこの結果に対し「妥当だと思う」と口をそろえる。

――8割の回答者が「女性で同士でも理解しあえるとは限らない」と回答しましたが、この結果をどう思いますか

シオリーヌ:生理に限らず、自分以外の人のことを完全に理解するのは難しいと思います。生理がどのような困難をもたらし、どれほど辛いものかというのは、身体的な個人差、仕事の過酷さ、職場の理解度など、様々な要素が絡み合ってくるものだと思います。「女性」という共通項があったとしても、完全に理解できることはないだろうなと思います。
内田:基本的には自分の経験をもとに考えるので、重たい人はみんな辛いのかなと思うし、軽い人はそれが普通と考えます。また、ちょっとデリケートな問題なのであまり話さない、ネタにしないということもあって、より一層知らないという状態になるのかもしれません。多くの人に「理解しあえない」という認識があることは、良い結果だと思っています。
WEB対談の様子
WEB対談の様子

――お2人は、生理は重い方ですか?

シオリーヌ:学生時代は重い方でしたが、その時は自分が重い方だと気づいていませんでした。例えば、生理用ナプキンをちゃんと使っても、朝起きたらシーツまで染みて真っ赤になっている......という経験は、誰もがしていると思っていました。

――重いと気づいたタイミングは?

シオリーヌ:社会人になってからです。避妊目的でピルを服用し始めた時に、症状が楽になりました。生理軽い人はこういう日々を送っていたのかと、めちゃくちゃビックリしましたね。
内田:その感覚、わかります。ピルを使う前は、高校・大学の時はイライラや落ち込みが出ることはありませんでしたが、社会人になり、仕事が忙しくなったくらいで、生理痛やPMS(月経前症候群)が出るようになりました。当時は痛み止めも1日1回じゃ足りなくて2回飲むとか。歳を重ねてから治療をして初めて、あの時は軽かった、重かったというのを自覚しました。

   避妊薬として知られる低用量ピルは、生理痛や経血などの症状を軽くする「月経困難症治療薬」として認められている。ただ、国連が発行する「避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)」によれば、日本でのピル普及率は2.9%(15~49歳)。けっして高いとはいえない数字だ。

――「辛さを理解してもらえない」と感じたことはありますか

シオリーヌ:本当にしんどい時は、寝たまま何もしたくないという感じでした。でも、それほど生理が重くない人にとっては、生理というだけで部活がしんどいと感じることなどが、なかなか分かってもらえなかったです。
内田:私も「辛い」という気持ちを抱えながら働いていました。女医さんはタフで強い方も多いので、「生理で休むとかないよね」という声を聞くこともありましたし、「そんなので辛いって言えない」みたいな気持ちが業界にあるように感じます。本当に辛くて苦しんでいる友人もいましたが、今も言い出せない人はいると思います。
内田さやかさん
内田さやかさん

――重い人と軽い人で、症状にどのくらい差があるのでしょうか

内田:重い症状としては、痛みと経血量の多さがあります。例えば、腹痛がひどくて動けない、貧血で起き上がるときにめまいがする、電車でふらふらする、といった症状です。
シオリーヌ:生理前や生理中に眠気が出る方だと、授業に集中できないとか。試験の時期と被ると、他の人と比べてすごく自分が不利な気がするといった声もあります。あとは、とにかく腹痛や腰痛が辛くて痛み止めを手放せないとか。出血が多いと貧血症状も出てくるので、フラフラして学校に行けなくて、休まざるを得ないという話はよく聞きますね。
内田:一方、軽い人には、痛みがほとんどない、出血量も大して多くないという人もいます。もし、病院に行くか迷ったときは「生活に支障があるかどうか」が決め手ですね。どの程度の痛みに対して我慢できるかは人それぞれなので。

   同性でも生理を「理解できない」と感じるのは、単純に「知識が足りない」というのももちろんあるだろう。しかし情報発信量が増え「生理」がオープンに語られることが増えてきた昨今、辛くても我慢せざるを得ない状況、主に「職場環境」も少なからず影響しているのではないだろうか。

生理休暇は「使い勝手が良いとは言えません。」

   労働基準法第68条では「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と定められている。

   しかし厚生労働省が行った「平成27年度雇用均等基本調査」によれば、女性労働者がいる事業所のうち2014年度に生理休暇を取得した女性はわずか0.9%。制度としては存在するものの積極的に活用されているとは言い難い状況だ。

――「生理休暇」の浸透を含め、職場における生理への理解はどれくらい進んでいるのでしょうか

内田:生理休暇は法定休暇なので大体の企業にあります。ただ、使い勝手が良いとは言えません。取得時には「生理なので」と申告する必要がある上、一般的には無給です。業務に支障があるくらい辛くても、有給休暇を使わなくてはいけないので取得するか悩む人もいます。また、生理休暇は生理痛や貧血対策のために作られているので、PMSには使えません。

   内田さんは、生理休暇を実際に取得し、使ってみてどうだったかを追いかけられていない企業が多いと指摘する。ただ、企業によっては生理休暇を有休にする、名前を「フィメール休暇」に変える、不妊治療など幅広く使えるものに設定するなど、独自の施策をとっているそうだ。

シオリーヌさん
シオリーヌさん
シオリーヌ:本当に「ピンキリ」としか言いようがない状況かなと思います。性教育への意識の高まりをキャッチできるような企業であれば、新しい制度を取り入れたり、生理を理解しようという取り組みをしたり、発展しよう・従業員を大事にしようという動きをしています。しかし、その中でも旧態依然とした大企業は日本にたくさんあります。

   シオリーヌさんは衛生用品メーカーのユニ・チャームが生理用品ブランド「ソフィ」で推進するプロジェクト「#NoBagForMe」のメンバー。同プロジェクトの2020年の目標は、「生理にまつわる知識向上と相互理解を促進する」となっていた。

   その活動の一環で、ユニ・チャームは7月29日に「みんなの生理研修」、30日に「生理にまつわる意見交換ワークショップ」をソフトウェア開発のサイボウズで開催。シオリーヌさんは「みんなの生理研修」の講師として登壇した。研修はZoomを使って開催、男性21人、女性55人が参加した。

シオリーヌ:生理がどんな困難をもたらす可能性があって、どれだけの経済損失を生んでいるのか、女性がパフォーマンス良く働ける環境が企業にどんなメリットをもたらすのか、といったことを説明しました。そんなことができるような社会になってきているし、もっと広まっていくといいなと思いますね。

――近年では、SNSやメディアを通じて、生理に対する知見が広まりつつある印象です

シオリーヌ:性や生理のことを扱うこと自体がタブー扱いされてきたところから、正しい知識や上手な付き合い方を、公の場で自然に学べるようになってきました。すごくいい変化だと思います。情報を得て、自分でケアをすることが当たり前になってくれたらと思います。
内田:個人がSNSを使って、匿名で情報発信できる時代になったのが大きいと思います。これまでの情報源は、教科書やアンケート結果など、サマリーにされたものでしたが、今なら「生理で会社行くのだるい」といったリアルな声をたくさん見かけます。SNSの普及によって「こう思っている人がいるんだ」「自分も吐露していいんだ」と話題に上がりやすくなっているのではないでしょうか。
シオリーヌ:ただ、視聴者さんの中には「性の話をオープンにしていこうよ」という風潮を、ちょっとプレッシャーに感じている人もいます。健康を維持するのに必要な情報が、タブー扱いされずに伝えられていくのはすごく大切なことです。その一方で、オープンにしたくないという方が無理に性の話を開示されることなく、でも必要な情報はまんべんなく届くというようになればいいなと思います。

――生理に悩む人が働きやすい環境を作っていくには、何が必要でしょうか

シオリーヌ:風邪やメンタルの不調など、「無理すれば行けるかもしれないけど、休めるなら休みたい」という時に、みんなが普通に休める環境・働く場所になれば、生理がある人も休みやすくなるかと思います。
内田:シオリーヌさんの言う「生理で休める企業はきっと働きやすい」というのは間違いなくて、どれも明日は我が身だと思います。生理でこれまでなかった症状が出てくることもあるし、突然大きな病気になることは男女問わずあります。

   内田さんによれば、男性の病気が年齢を重ねてから発症するケースが多いのに対し、女性は毎月の生理、さらに乳がんや子宮頸がんといった病気が若年層で出ることもあると指摘。逆に女性が子育てしながら働ける会社であれば、何があっても受け止めきれる――つまり、誰にとっても働きやすい会社だとしている。

内田:悩んでいる場合は婦人科に行くのがおすすめです。生理周りは生活習慣が影響しているので、規則正しい食事、十分な睡眠、軽い運動なども大事です。そういった生活習慣を自分でも気を付ける「セルフケア」も重要かと思います。