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トランプ氏は「誤り」多く、バイデン氏は「正当化可能な主張ばかり」 新旧大統領演説めぐる米メディアの評判

   2021年1月21日未明(日本時間)に正式に幕を閉じたトランプ政権は、大統領就任式の群衆の数をめぐる誤った発言を「もうひとつの事実」(alternative facts)と強弁することで始まり、退任にあたって投稿されたビデオメッセージでも多数の誤りや誇張が指摘されるなど、「ファクト」に関する疑念が常につきまとう4年間だった。

   バイデン新大統領は就任式で、約20分にわたって演説。「結束」(unity)という言葉を繰り返し、この4年間で分断が進んだ米社会の修復を訴えた。米メディアのファクトチェックの主な対象がトランプ氏からバイデン氏に移った今、就任演説はどう評価されたのか。

  • バイデン新大統領の就任演説は総じて「安全運転」。事実関係の誤りや誇張がクローズアップされることはなかった
    バイデン新大統領の就任演説は総じて「安全運転」。事実関係の誤りや誇張がクローズアップされることはなかった
  • バイデン新大統領の就任演説は総じて「安全運転」。事実関係の誤りや誇張がクローズアップされることはなかった

ワクチン開発「9か月で行った」→「米国、ましてやトランプ政権だけの成果ではない」

   ワシントンポストのまとめによると、トランプ氏が大統領在任中の4年間で、実に3万573件の誤った主張やミスリーディングな主張を展開したという。トランプ氏は1月20日付けで退任あいさつの動画をユーチューブに投稿し、在任中の功績を強調。そこでも多数の疑義が指摘された。例えばAP通信は、少なくとも8点の事実関係の誤りや誇張を指摘している。

   例えば、トランプ氏は新型コロナウイルスワクチンについて

「他の政権だったら、ワクチン開発に3~5年、ひょっとしたら10年かかっただろう。それを我々は9か月で行った」

と主張。これをAPの記事では、

「実際には政権はワクチンを開発しておらず、開発したのは製薬会社だ。現在使用されているワクチンを開発した2つの米国企業のうち、ひとつは政府から開発資金を受け取っていない」

などと疑問視。さらに、米製薬会社のファイザーは、ドイツのバイオンテック社と提携してワクチンを開発したことや、米国以外でもワクチン開発が進んでいることから、

「新型コロナのワクチンは、米国、ましてやトランプ政権だけの成果ではない」

と指摘した。

   経済についても不正確な発言を指摘された。トランプ氏は「我々は、米国史上最大の減税と改革パッケージを通過させた」と主張したが、APによると、トランプ政権下の減税規模は12番目に過ぎない。

バイデン氏就任演説は「事実に照らして正当化可能な主張ばかり」

   一方、バイデン氏は現時点ではきわめて「安全運転」だ。ファクトチェックの専門サイト「ポリティファクト」は、就任演説の検証記事で、

「就任演説ではよくあることだが、バイデン氏は広いテーマを重要視した。しかし、いくつかの検証可能な事実に関する主張も発見した。バイデン氏の演説では、事実に照らして正当化可能な主張ばかりだった」

などと論評している。記事では5つの主張について検証。その対象のひとつが、バイデン氏の

「100年に1度のウイルスが静かに国内をのさばっている。1年間で、第2次世界大戦で米国を失ったのと同じくらい多くの命が失われた」

という主張。検証記事では、ジョンズ・ホプキンス大のまとめによる新型コロナの米国内の死者数は40万2269人で、米議会調査局によるまとめでは、第2次世界大戦の米国の死者数が40万5399人だとされていることを紹介。この段階では第2次世界大戦の死者の方が少し多いが、就任式の日には新型コロナによる死者数の7日間移動平均値が3015に達しているため、第2次大戦の死者数(と新型コロナの死者数)は、新型コロナが米国に到達して1年未満の1月20日か21日に一致するとして、発言を「正確に近い」と評価している。

   バイデン氏は

「何百万もの雇用が失われ 何十万もの企業が倒産した」

とも主張。検証記事では、20年2月から12月の間に全米で980万人以上の非農業部門の雇用が減少したとして、「パンデミック(世界的大流行)の間に失われた雇用については正しい」と評価。企業については、「多くの企業が倒産したことは否定できないが、具体的な数は、はっきりしない」とした。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)