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脱「ロマンスの神様」で躍進 スポーツ大手・アルペンが遂げた「華麗なる変身」

   スポーツ用品大手のアルペンの株価が投資家の注目を集めている。2021年1月22日には、一時前日終値比14.7%(337円)高の2630円まで上昇。21日に21年6月期連結決算の業績予想を上方修正したことが好感された。

   コロナ禍にあっても「密」を回避できるとされるゴルフやキャンプ関連などの売り上げが好調に推移。広瀬香美さんのヒット曲「ロマンスの神様」を用いたテレビCMなどを看板に、スキー用品販売でかつて一時代を築いた会社の華麗なる変身が市場に評価されている。

  • スキーのイメージは過去の話?(画像はイメージ)
    スキーのイメージは過去の話?(画像はイメージ)
  • スキーのイメージは過去の話?(画像はイメージ)

純利益は前期比「496倍」見込む

   上方修正の内容を確認しておこう。売上高は従来予想より49億円余多い2350億円(前期比7.8%増)、営業利益は同じく69億円余増の133億円(同3.2倍)、純利益は同じく48億円余増の84億円(同496倍)と大幅増益を見込む。

   売上高の修正理由としてアルペンは

「密を避けられるスポーツ・レジャーとしてゴルフやアウトドア用品が好調に推移」
「強化しているスポーツアパレル(スウェットなどスポーツ関連衣料品)も伸張した」

ことを挙げた。利益面については「在庫水準の適正化による処分販売の減少」「(安売りに頼らない)適切な売価コントロール」「経費水準の見直し」の貢献を指摘した。

   業績予想にあたっては「コロナの収束は当分見込めず市場の停滞は続くものの、大規模な店舗休業は発生せず春以降に新規感染は徐々に落ち着く」ことを想定した。足元では2020年7月から12月までの既存店売上高が、前年は消費税率アップ前の駆け込み需要があった9月を除いてすべて前年比プラスで推移しており、上方修正の根拠ともなっている。

「ひとりキャンプ」人気も後押し

   ここでアルペンの店舗展開をみてみよう。店舗数は2020年9月末現在で391。このうち中規模店「アルペン」が51、大型店「スポーツデポ」が144、「ゴルフ5」が194、その他2という構成だ。

   20年6月期の売上高構成比でみると「デポ」が47・4%、「ゴルフ5」が32・2%で「アルペン」は10.8%。計200弱の「デポ」「アルペン」でスキー用品を扱うが、板や靴までフルラインアップでそろえる店舗を近年減らし、キャンプ用品などのスペースを広げてきた。

   セグメント別の売上高構成(2020年6月期)でみるとスキー用品の「ウインター」は3.5%に過ぎないのに対し「一般スポーツ」が59.8%、「ゴルフ」が34.7%。20年6月期は暖冬やコロナの影響もあってスキー用品の売上高が急減したとはいえ、17年6月期に比べて「ウインター」の売上高は半分強にまで減少してしまった。

   スキー用品の売り上げは減っているが、「ロマンスの神様」のころに比べてゴルフやキャンプへウイングを広げてきたことが、功を奏している。キャンプはかつて夏のイメージがあったが春や秋、場合によっては冬でも出かける人が増えており、「ひとりキャンプ」人気も含め、需要を着実につかんだ。

   また、「ロマンスの神様」のころのように膨大なテレビCMを投下せず、広告費を抑制したことが利益に貢献している。テレビCMを打たない代わりに顧客を会員として囲い込んでメールマガジンなどによって販売促進活動を行っているのは、多くの小売り業態で常識的な手法で、アルペン独自のものではないが、ここを着実に押さえているということだ。

   1972年に名古屋市内で15坪のスキーショップからスタートしたアルペン。日本人の趣味嗜好を巧みにとらえながらコロナ禍のもとでも成長しており、当面は投資家の物色先となりそうだ。