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「感染者ゼロ」のはずなのに... それでも北朝鮮が「ワクチン情報」欲しがる理由

   新型コロナウイルスの「感染者ゼロ」を主張する北朝鮮でも、そのワクチンには重大な関心を示しているようだ。韓国の情報機関にあたる国家情報院(国情院)は、北朝鮮がサイバー攻撃で米ファイザー社製のワクチンや、治療薬の情報を盗み取ろうとしていたとみている。

   ワクチンは国際機関を通じて北朝鮮にも供給される見通しだ。ただ、その供給量は全国民に接種するには全く足らないのが実情だ。

  • 「光明星節記念公演」を観覧する金正恩総書記と李雪主夫人。配信された写真では誰もマスクをつけておらず、客席も「密」な状態だ(写真は労働新聞から)
    「光明星節記念公演」を観覧する金正恩総書記と李雪主夫人。配信された写真では誰もマスクをつけておらず、客席も「密」な状態だ(写真は労働新聞から)
  • 「光明星節記念公演」を観覧する金正恩総書記と李雪主夫人。配信された写真では誰もマスクをつけておらず、客席も「密」な状態だ(写真は労働新聞から)

サイバー攻撃1日158万回、前年比32%増

   韓国メディアによると、国情院は2021年2月16日に国会に対して行った報告で、20年に北朝鮮が韓国に対して仕掛けたサイバー攻撃の回数は1日あたり158万回で、19年より32%増えたことを明らかにした。国情院から説明を受けた与党「共に民主党」の金炳基(キム・ビョンギ)議員と最大野党「国民の力」の河泰慶(ハ・テギョン)議員が報道陣に対して明らかにした。新型コロナクチンや治療薬の技術情報を奪おうと、米ファイザー社も攻撃の対象になったという。国情院は、サイバー攻撃の大半は「先制して阻止した」と説明したという。

   聯合ニュースによると、河議員は同社の取材に対して「数ヶ月前、国情院から北朝鮮がワクチンメーカーのハッキングに成功したとの報告を受けている」として、今回の国情院の説明と合わせて考えると「ファイザーのハッキングに成功したと判断される」と話した。一方、金議員は「ファイザーがハッキングを受けたのは、欧州医薬品庁(EMA)がすでに明らかにした内容であり、その主体は確認されていない」と説明した。ファイザーと独バイオ企業のビオンテックは20年12月、EMAに提出した新型コロナウイルス関連書類がサイバー攻撃で不正にアクセスされた、と発表していた。

   これらの話を総合すると、北朝鮮がワクチン情報の入手に成功したかは明らかではないが、入手のためにサイバー攻撃を仕掛けたと国情院はみている、という点までは間違いないようだ。

北朝鮮にもCOVAX通じて100万人分供給

   北朝鮮にも新型コロナワクチンは供給される予定だ。国連主導の途上国向けワクチン共同調達の枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」が2月3日付けで発表した供給見通しによると、英アストラゼネカ社製のワクチン199万2000回分が供給される。同社製のワクチンは2回の接種が必要で、約100万人分にあたる。北朝鮮の人口は約2500万人で、そのうち首都・平壌は約290万人。全国の人口の4%、首都に限っても3分の1程度をカバーするに過ぎない。こういった厳しい状況が、サイバー攻撃を通じたワクチン情報の入手の動機になっている可能性もありそうだ。

   反面、北朝鮮は引き続き感染者ゼロを主張している。北朝鮮の国営メディアは2月17日、2月16日に金正恩総書記と李雪主夫人が金正日総書記の生誕79年を祝う「光明星節記念公演」を観覧したと伝えている。配信された写真では誰もマスクをつけておらず、座席の間隔も空けていない「密」な状態だ。現時点では感染の心配をせずにすむ状況だとアピールする狙いがありそうだ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)