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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
「小型原子炉」開発がカギ握る理由 震災10年、様変わりしたエネルギー事情

   東日本大震災から10年。福島第1原発事故をきっかけとして日本の原発政策は大きく変わった。

   この10年で、原発事故の原因究明も進んできた。しかし、2号機の格納容器が決定的には破壊されなかった理由は未だにわからない。

  • 福島第1原子力発電所(写真:つのだよしお/アフロ)
    福島第1原子力発電所(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 福島第1原子力発電所(写真:つのだよしお/アフロ)

従来型の原発は、いまでも再稼働は政治的な困難がともなう

   フクシマ50と称され放射線汚染リスクを承知で現場にとどまり対応業務をしたこと、運転員のとっさの判断でRCICという非常用炉心冷却装置が作動し原子炉を冷やし続けたこと、格納容器の上部に隙間ができ予定外の放射性物質が漏れ出たこと、肝心なときに注水できなかったことが逆に水と金属の反応を抑えてメルトダウンが抑制された可能性があること、など人の努力と幸運としかいいようのないものが重なった結果なのかもしれない。

   とにかく、結果として、原発から半径250kmの住民が避難、つまり、東日本壊滅という最悪のシナリオは回避された。このため、従来型の原発は、いまでも再稼働は政治的な困難がともなっている。

   一方、この10年間で世界のエネルギー事情も様変わりだ。4年前、米トランプ政権がパリ協定の離脱を打ち出したときには、脱炭素化の動きはとまったかに思えたが、バイデン政権はパリ協定に復帰した。

   菅政権は、バイデン政権の誕生を見越して、米大統領選の直前の昨年10月26日、ギリギリのタイミングで「2050年カーボンニュートラル」を打ち出した。もし、そのタイミングをずらすと、世界の笑われ者となるところだったので、滑り込みセーフだった。

日米欧どこでも、再生エネルギーには50~60%しか頼れない

   バイデン政権は、2兆ドル(206兆円)を投じて気候変動対策には原子力発電所の活用、特に小型原子炉の開発を盛り込んでいる。ビル・ゲイツ氏も、小型原子炉を積極的にサポートし、資金を供出している。

   この小型原子炉は、従来のものと比較してかなり安全だ。これまでの原発は、巨大設備・システムで、いざと言うときに管理できなかった。福島原発事故は、全電源が喪失し、原子炉を冷やせなくなって、メルトダウンが発生した。しかし、小型原子炉では、冷却機能を喪失しても自然冷却による冷却が可能というメリットがある。

   日本でも、菅首相の発言を受けて、経済産業省は12月25日、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、新型原子炉の開発を推進するとした。

   日米欧どこでも、再生エネルギーには50~60%しか頼れない。残りの主力は原発と火力だ。カーボンニュートラルのためには火力で生じるCO2を回収・貯留する必要がありコスト高にならざるを得ない。となると、やはり原発が必要だ。といっても、従来の大型原発の再稼働も政治的に難しく、新設は事実上不可能に近いので、いずれ減らしていかざるを得ない。その場合、カーボンニュートラルで、より安全な小型原子炉の開発が大きなカギを握るだろう。

   小型原子炉は、日本企業では日立製作所が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と開発を進めているが、まだ国内で実用化されていない。しかし、産業界では、関西電力が小型原子炉を検討することを表明している。