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BTS「Dynamite」が世界で大ヒットした理由 音楽作家が解説する「3つの凄さ」

【連載】MUTEKI DEAD SNAKEのBUCHIAGARU!! music

   韓国発の世界的グループ「BTS(防弾少年団)」。彼らが2020年8月にリリースしたディスコポップ風のナンバー「Dynamite」は、YouTubeのMV再生数が9億を超える空前のヒット曲となった。

   母国・韓国での流行はもちろん、米ビルボードの総合チャートでアジア人アーティストとして57年ぶりの初登場1位を獲得。日本でも「オリコン」のデジタル配信チャートでトップに立った。

   なぜ「Dynamite」はここまでヒットしたのか。その理由を、音楽作家のMUTEKI DEAD SNAKE(ムテキデッドスネーク)氏にサウンド面から解説してもらった。

  • BTS「Dynamite」ヒットの理由を分析(C)FAMOUS
    BTS「Dynamite」ヒットの理由を分析(C)FAMOUS
  • BTS「Dynamite」ヒットの理由を分析(C)FAMOUS

「Dynamite」はBTSだから歌えた曲?

   さっそくですが元々スーパースターだったBTSというグループをさらにもう一段階上のステージに押し上げたこちらの名曲「Dynamite」、2020年はいたるところで流れていたため、BTSというグループを知らない方でもこの曲は知っている、という方も多いのではないでしょうか。

   個人的にBTSもディスコ感のある楽曲も大好きということもあり、はじめて聴いた時は1人のファンとして「超いいじゃん!」みたいな感じだったんですが、この曲ってやっぱり本当にすごいんですよね。

●BTSの歌唱スキルに「BUCHIAGARU!!」

   何がすごいって、まずこの曲、歌うのめちゃめちゃ難しいんですよ!

   カラオケでマイクを渡されて、「Dynamite歌ってよ!」なんて女の子に言われても、男の子は調子に乗って歌わないでください、悲しい時間をみんなで共有してしまう可能性が高いです。

   この曲は楽曲の歌い出しの音から、一般的な男性の楽曲を作るときに設定するキーの遥か上の音からはじまりますし、女性が歌うために作られた楽曲を、男性が裏声を多用して歌唱しているような印象を受けます。

   裏声も、楽曲の高くなる部分で裏声に一瞬なるくらいならそこまで難しく無いと思うのですが、一瞬どころかサビは裏声を多用する上に、裏声と地声の入れ替わりが激しく非常に難しいんですよね...。歌ってみたことがある人なら分かると思うのですが、途中で声ひっくり返りません?

   このような曲を歌えるグループはほとんどいないと思うので、例えばこの曲をBTSではない男性グループに歌ってもらうと、キーを下げることになるでしょうが、そうするとハイトーンで男性が歌を歌うという異物感がなくなり、ありがちな曲になってしまうのではないかなと思います。

   ハイレベルな楽曲を難なく歌い上げるBTSの高い歌唱スキルが、「Dynamite」という楽曲を唯一無二にしている一つのポイントなんじゃないかなと思います。

楽曲の構成にもヒットの仕掛けが

●メロディの緩急と構成に「BUCHIAGARU!!」

   近年のポップスで、いわゆる「今っぽい」と感じる楽曲は、YOASOBIの「夜に駆ける」に見られるような、16分音符を細かく刻み、スピード感を持ったメロディが多いなと思います。ですが、この「Dynamite」もそういった流れを汲んだ楽曲でありつつも、サビの

'Cause ah, ah, I'm in the stars tonight

の部分は4分音符を使って、覚えてもらいやすいキャッチーなフレーズを残しています。

「Dynamite」はPVも大きな注目を集めた
「Dynamite」はPVも大きな注目を集めた(公式YouTube動画のスクリーンショット)

   そして演出として憎いなと思うのが、2番のサビが終わった後、そのまま間奏に移るといったよくある展開にはせずに、全く新しいサビを持ってくるメロディの構成です。

   印象的な、ダイナナナーナナ...のパートですね。

   ダイナナナーナを聴く前から、もう既にみんなこの曲のことをいい曲だなと思ってたんですよ。

   それなのに更にダイナナナーナなんて言われちゃったら、もう踊ることしかできなくなっちゃいますよね。

   このサービス精神というか、最後まで飽きさせないぞ!という仕掛けに、まんまと引っかかってしまいますし、僕も楽曲を作る時にはサービス精神マシマシでいかなきゃだなと、気が引き締まる思いです。

曲の冒頭から最後まで「全く同じという部分がない」

●緻密なトラックに「BUCHIAGARU!!」

   最後に、これはもう曲を作る身としては勉強させていただきありがとうございますという感じなのですが、このトラックの緻密な作り込みはすごいですよね!

   J-POPを聴いていて、曲のトラックがずっと変化し続けてるなって思うこと、あまりなくないですか?

   「Dynamite」は、曲の冒頭部分から最後まで、繰り返しというか、全く同じという部分がないんですよ。

   1番と2番で演奏自体は同じような演奏をしていても、フィルターというエフェクターを使って細かく変化をつけたり、2番からは新しいギターのカッティングのフレーズを入れたりと、後半に向けて徐々に盛り上げていっています。

   これはどういうことかと言いますと、この曲のプロデューサーが楽曲のポテンシャルを本気で高めにいっているというのはもちろんのこと、作曲家あるあるとでも言いますか、トラックを作っている時背後に忍び寄る、「1番のトラック、そのまま2番に使っちゃう...!?」的な甘いコピペの誘惑に負けてないということでもあるんですよ!

   大丈夫ですか?みなさんコピペの誘惑に勝てていますか?

   仕事のメールをする時に、内容はそのままに名前の部分だけを変えて何人にも送信していませんか?

   いやいや、コピペが悪いわけでは全くないんですけれども、すみません。

   でもこの曲のような、作り手側の「気合い」みたいなものが強く感じられる曲って、とてもステキだなと思いますし、ヒットする曲は制作側の想いみたいなものが曲を聴いているだけで感じられるよなと、つくづく思わされます。