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「私は泣きました」なぜ「ウマ娘」は競馬ファンを熱中させるのか? 「リアルとif」共存させた奥深さ

   アプリゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が、ソーシャルゲーム界久々のメガヒットとなっている。競馬界に実在した名馬を「ウマ娘」としてキャラクター化、ゲームの中でウマ娘をサラブレッド同様に育成し、「菊花賞」「皐月賞」などのレース制覇を目指す同作。従来のゲームファンの枠を越え、競馬ファンからも興味を持たれているようだ。

   競馬界から見て、このゲームはどれくらいリアルに作られているか、実際にプレイしてみた競馬ライターの佐藤永記さんへの取材を交えて探ると、ありがちな擬人化ソーシャルゲームにとどまらない奥深さが見えてきた。

  • 「ウマ娘 プリティーダービー」のキービジュアル。最前列は左からトウカイテイオー・スペシャルウィーク・サイレンススズカだ。/(C) Cygames, Inc.
    「ウマ娘 プリティーダービー」のキービジュアル。最前列は左からトウカイテイオー・スペシャルウィーク・サイレンススズカだ。/(C) Cygames, Inc.
  • 「ウマ娘 プリティーダービー」のキービジュアル。最前列は左からトウカイテイオー・スペシャルウィーク・サイレンススズカだ。/(C) Cygames, Inc.

「トレーナー」としてウマ娘を育成

   2021年2月24日にリリースされた「ウマ娘 プリティーダービー」。2016年のプロジェクト発表から5年、マンガ連載やアニメ化を経てようやくのリリースとなった。同作の世界では競走馬はおらず、代わりに「ウマ娘」がレースを走る。競技の名前も競馬ではなく「トゥインクルレース」とされるが、出走するウマ娘は並外れた走力・筋力を持っていて、このあたりは現実の競走馬を反映している。

   そしてプレイヤーは「トレーナー」としてウマ娘を育成し、レースに勝つことを目標とする。各ウマ娘にパラメーターが設定されていて、ゲームで獲得したアイテムで育成していくところはソーシャルゲームの基本的な進め方と同じだ。ウマ娘のパラメーターである「適性」には短距離・中距離・長距離、脚質も逃げ・先行・差し・追込と競走馬さながらの指標が設定され、レース特性を把握できる。「若駒ステークス」「皐月賞」「日本ダービー」「菊花賞」などクリアすべきレースミッションが設けられたことも、競走馬のキャリアに即している。

   1980年代から2000年代を中心に実在した名馬と同じ名のウマ娘が多数登場し、適性・性格もモデルの馬を反映して巧みにつくられている。こうしたゲームの特徴は、競馬ファンの目線からはどう見えているだろうか。ブームが広がりを見せる3月下旬、競馬など公営競技に関するライターで、「ウマ娘」をプレイする様子もYouTubeで配信していたライター・佐藤永記さんに取材した。

悲劇の馬に夢見る「イフ」のドラマに泣ける

   「ゲームが競馬のようにリアルか、というよりも気がつけば随所に競馬のリアルが反映されているソシャゲです」と話す佐藤さんだが、「トレーナーという立場になるとウマ娘が用意されている形になる。そしてウマ娘にはそれぞれ全く違う固有の指定出走レースと条件が課されている。この条件にスタッフが元ネタとしている競走馬のリアルな馬生を丹念に表現しているところが『リアル』ですね」と分析する。

   ゲームやアニメの中でのウマ娘は、怪我をすることはあっても死なない。それゆえ、

「ライスシャワーやサイレンススズカといった現実では悲しい最期を迎えた競走馬に『もし無事だった場合の未来のストーリー』を提案してくれているのです。競馬を知らない人はアニメとのメディアミックスで、すでに競馬を知っている人からするとクリア条件を見た『だけ』で泣ける。実際、私は泣きましたし、そこからアニメも見てさらに泣いた。20年も前の出来事を思い出して泣けるなんて考えもしなかったです。現実はゲームより少し残酷です」

という、競馬ファンには泣ける展開も用意されている。ウマ娘をトレーニングしていく過程にも、こんな特徴があるという。

「実際の競馬でいえば『調教』ですが、たとえば過去の育成競馬ゲームではなかった『賢さ』のトレーニングがあります。実際の競馬ではゲート試験や馴致にあたる部分です。競走馬も生き物ですから当然知能や性格があるわけです。これをゲームで表現するのはなかなか難しい部分だったはずですが、ウマ娘という擬人化的な変化をすることによってそれが可能になりました。レースでの敗因はスピード不足やスタミナ不足だけではありません。調子だったり展開だったり、様々な勝因、敗因がありますが、それを克服するためにスキルを付けたり調子を戻すために休養(ウマ娘ではお出かけ)したりする、というのが良いですね」

   個々の競走馬の性格はウマ娘のふとした瞬間の表情やセリフにも反映されており、ゲームファンがモデルの馬に興味を持つまでになっているほど。特にゴールドシップの破天荒なキャラクターは実在のゴールドシップとも比較され、馬の方のゴールドシップのエピソードまでもゲーム界に知れ渡った。

ウマ娘の交流にツッコむのは「野暮」

   幅広い年代の競走馬をウマ娘として登場させているので、血縁関係にあるが世代の違う馬が、ウマ娘では同世代としてごく普通に交流している。

「メジロマックイーンはゴールドシップの母方のおじいちゃんですが、ウマ娘では同じ世界を生きていて、この2人は相性もよく、多くの絡みがゲームでもアニメでも発生します。時空の歪みを逆に利用し、血統などの背景をもって同じ今に存在しているのです。世代的な整合性にツッコミを入れている人もいたりしますけど、私から言わせれば時間軸だけで関係性を見るのは『野暮』だし、血統などの軸を見ればものすごい関係性をウマ娘の中で構築しているので競馬ファンならそこに気づいて!って思いますね」(佐藤さん)

   シンボリルドルフとトウカイテイオー、アグネスタキオンとダイワスカーレットのようにモデルの血縁関係が濃いウマ娘はウマ娘同士でも濃い関係が描かれる。また若いプレイヤーが現役時代を知らない競走馬もウマ娘として登場するので、

「私は競馬が昔から好きですが現在40歳なのでマルゼンスキーのレースはリアルタイムで見たことはありません。もちろん、マルゼンスキーがどんな競走馬だったのかは資料や動画などで少しは知っていますが、トレーナーという立場になって「疑似追随体験」ができ、「知ってるつもり」だった競走馬についても知らなかった、忘れていたエピソードを基にした演出が出てくるので、新鮮さも味わえます」

という。ゲームの好調が続けば、テンポイント・ハイセイコーといったさらなる名馬の登場も期待できないだろうか。

   ゲームではウイニングランをもじった「ウイニングライブ」として、レースで入賞したウマ娘がライブを披露する演出が用意されている。アイドルゲーム的要素でもあるが、これは競馬ファンにはどう映るか。佐藤さんはこう分析した。

「競馬面から見れば『馬券を売らずにアイドル的な人気と着順でライブが行われる』というのはある意味ウィナーズサークルやパドックでファンが集う点とイベント的には近いものを感じます。ゲームではレースの成績に応じて『ファン』が増えて実質的に獲得賞金のかわりのような形になっていますが、ギャンブルとしての競馬でありながらスポーツイベントとしての競馬要素がうまく取り込まれていると感じています」

   ただ「勝てる馬かどうか」に限らない、馬それぞれにファンが惹かれる関係も、ウマ娘とプレイヤーたるトレーナーの関係に似ているようだ。

競馬界隈の反応は

   競馬ファンの反応はどんなものか。佐藤さんの周囲では「5割程度がプレイしている印象」というが、佐藤さんによれば「競馬は何百年も昔から世界で愛されてきた題材なのだから、それを拘ってストーリーに盛り込んだゲームが面白いのは当然。大河ドラマと一緒で多くの人が好きになるのは当たり前でしょ」という反応が印象深いという。

   競馬に興味を持ったゲームファンと競馬ファンの交流も生じ、「受け入れている競馬ファンの感想は「嬉しい」の一言でしょう。元々競馬はギャンブルの一面とロマンの一面を長い歴史で両立させてきています。ゲームとして面白く、競馬への高いリスペクトと再現・表現のこだわりが重なってソシャゲのトップゲーに躍り出たんだと思います」とも佐藤さんは話す。

   「ウマ娘」のインパクトはゴールドシップを担当した今浪隆利厩務員や競馬好きの楽天・田中将大投手も本作をプレイしているほど。競馬の奥深さが巧みにゲームに活かされ、ゲームファンと競馬ファンの双方をうならせるクオリティのゲームに結実したようだ。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)