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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
法案の単純ミスは珍しくない 国会・政府あげて検討すべき重大事案ではない

   今国会で法案の誤記が相次いで、政府のたるみだと報道されている。

   報道されていたのは、デジタル改革関連法案の誤字・表記ミス、地域的包括的経済連携(RCEP)協定承認案の日本語訳の欠落や重複など19法案・1条約だ。

   こうした単純ミスはないにこしたことはないが、実際には珍しくない。一部野党とマスコミは前代未聞というが、単純ミス例は残念ながらよくある。間違いがあってならないとされる広辞苑など辞書でも、誤記誤植はなくはない

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国会、政府をあげて検討すべき重大事案ではない

   筆者は、元キャリア公務員として立法作業に関わったのは多いほうだが、自分自身のミスも、他の人の過去のミスを修正したこともある。単純ミスに誰も気がつかずに既に法令法案が成立したが、その後施行段階で法令のミスに気がつき、年度末に大量の改正法令が成立するときに、しれっと修正法令を通したときもあった。

   今回のような法案の単純ミスは人のやることなので、やむを得ないことだ。ちなみに、米国の官報を見てみたら、修正は山のようにでていた。それに比べると、日本の単純ミスは少ないものだ。なにより単純ミスなので、法案解釈の際に支障にもならず、国会、政府をあげて検討すべき重大事案ではない。

   今回のように、既に国会に提出されていれば、委員会採決時に修正すればいい。単純ミスで内容に関わりがないなら、政府ばかりを責めるのではなく、立法府として国会議員が法案修正という仕事をすればいい。

マスコミは原文を読んで、誤字脱字を報じればいい

   マスコミも情けない。国会提出している法案なら、マスコミは原文を読んで、誤字脱字を報じればいい。おそらくマスコミは、改正法案の原文を見ずに、記事を書いているのだろう。実際、独力で改正法案の原文を読みそれを理解できる記者がどれだけいるだろうか。筆者の経験からいえば、役人に法案の内容を聞いて、原文を読まずに記事を書いている人が多いだろう。一部のマスコミは、誤植程度の単純ミスではなく、記事捏造をしたとして最高裁判例もでたくらいだが、それに比べると単純ミスの実害は少ない。

   もちろん法案の単純ミスがいいとはいえないが、人間のやることなので、目くじらを立てることもない。なにしろ人がやることなのでミスはつきものと思ったほうがよく、その善後策を考えたほうがいい。

   野党は審議に応じられないというのではなく、単純ミスを修正すればいい。野党は重箱の隅をつつくのではなく、中身で勝負すべきだ。

   政府の加藤勝信官房長官は、再発防止策を6月中にまとめる考えを示した。元官僚の加藤氏は、単純ミスが不可避なのは知っていると思うが、国会で修正してくれといえば、政治家の株が上がっただろう。こんな人命に関わらないようなどうでもいいところに、労力を割くべきではない。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。