J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

韓国は「残念に思う」、米国は「コロナ対応と整合」 北朝鮮の「東京五輪不参加」めぐる両国の温度差

   北朝鮮が東京五輪の参加見送りを表明したことで、韓国政府からは「残念」「時間も残っているので、参加を期待する」といった、翻意を願う声が相次いだ。韓国としては、東京五輪を北朝鮮に接触する機会として活用し、膠着(こうちゃく)が続いている南北関係改善の足がかりにしようと考えていたためだ。

   ただ、北朝鮮が主張する不参加の理由は新型コロナによる「世界的な保健の危機から選手たちを保護するため」。これが本当の理由なのかも定かではないが、仮に額面通り受け取れば、コロナをめぐる状況が落ち着かなければ北朝鮮が翻意するとは考えにくく、先行きは見通せない。

  • 北朝鮮の東京五輪不参加を伝えた「朝鮮体育」の記事。朝鮮中央通信などの国営メディアでは、まだ報じられていない
    北朝鮮の東京五輪不参加を伝えた「朝鮮体育」の記事。朝鮮中央通信などの国営メディアでは、まだ報じられていない
  • 北朝鮮の東京五輪不参加を伝えた「朝鮮体育」の記事。朝鮮中央通信などの国営メディアでは、まだ報じられていない

北朝鮮が理由に掲げる「選手たちを保護するため」の信ぴょう性

   北朝鮮の東京五輪不参加は、朝鮮中央通信をはじめとする国営メディアではなく、北朝鮮の体育省が運営するウェブサイト「朝鮮体育」で伝えられた。3月25日にビデオ会議方式で北朝鮮のオリンピック委員会(NOC)総会が開かれたことを伝える4月5日付け記事の最後に、次のように東京五輪不参加に言及した。

「コロナウイルス感染症による世界的な保健の危機から選手たちを保護するために委員の提案に基づいて、第32回オリンピック競技大会に参加しないことを討議決定した」

   この内容は翌4月6日に北朝鮮国外で広く報じられ、韓国政府は失望感を隠さなかった。韓国メディアは統一省当局者の話として

「今回の五輪は、韓半島の平和と南北間の和解・協力を進展させるきっかけになることを望んできたが、コロナ禍でそれができなくなり、残念に思う」

という談話を伝えた。この当局者は、北朝鮮が態度を変える可能性について「予断して発言するのは難しい」としながらも、北朝鮮が不参加の理由を「選手たちを保護するため」と説明していることから、

「新型コロナの状況が、今後の判断にとって重要な考慮材料になるのではないか」

とも。感染が収まれば判断を覆す可能性を示唆した。

「不参加決定が最上部次元の決定を前提としたのか、追加の分析が必要」?

   外務省の崔泳杉(チェ・ヨンサム)報道官は,

「日本がコロナ防疫対策を講じながら五輪を開催することを支持している。五輪は世界の平和の祭典だ。今後、時間も残っているので、北朝鮮が参加することを期待する」

と述べ、再考への期待感を前面に押し出した。

   IOCは東京五輪の延期を受けて、各国予選の締切日を21年6月29日、選手の出場登録締切日を7月5日にすることを20年7月に決めている。言い換えれば、6月29日までに北朝鮮が各種目の予選を行って結果を確定すれば東京五輪に出場できるということになり、最終的な判断までの猶予は、あと2か月半ほどある。

   この2か月半の情勢が北朝鮮の意思決定に影響しうるとの見方もある。聯合ニュースは、統一省や外務省の反応を伝える記事の中で

「ただし、政府内には、まだ朝鮮中央通信など国営メディアに関連報道がないという点で、北朝鮮オリンピック委員会総会の不参加決定が最上部次元の決定を前提としたのか、追加の分析が必要であるとの見方もあることが分かった」

とも報じている。4月8日夕時点で、朝鮮中央通信や労働新聞のような国営メディアでは、東京五輪への参加見送りについて報じていない。にわかには信じがたいが、金正恩総書記の了承を得ずに五輪不参加を決めて発表した可能性がある、という見立てだ。万が一この見立てが正しければ、金氏の判断によっては不参加が覆る、とも解釈できる。

   北朝鮮は3月25日、約1年ぶりに弾道ミサイルを発射。仮に翻意の可能性があるとすれば、日米韓に対して揺さぶりをかけながら、五輪参加がどの程度外交上の利益につながるかを見極めるとみられる。

   韓国とは対照的に、米側の反応は冷淡だ。国務省のプライス報道官は4月6日(米東部時間)の記者会見で、北朝鮮の五輪不参加が米朝間の非核化協議に与える影響を問われ、不参加の決定について

「北朝鮮の新型コロナに対する厳しい対応と整合していると思われる」

と論評。その上で

「朝鮮半島とインド太平洋全域の平和と安全という共通の目標に向けて、北朝鮮問題について韓国・日本と引き続き緊密に連携していく」

などと一般論を述べた。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)