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東海道新幹線も「食品輸送」を実験 「速達性」が秘める競争力、持て余し気味スペースも有効活用

   東海道新幹線は2021年7月30日、大阪の「喜八洲総本舗 みたらし団子」を新幹線で輸送し、東京駅で限定販売を行った。

   各新幹線で普及している「新幹線での食品輸送」に東海道新幹線も参入した形だが、ダイヤと輸送品目、積載場所には「法則性」がみられる。

  • 東海道新幹線でも食品輸送の試みが始まった
    東海道新幹線でも食品輸送の試みが始まった
  • 東海道新幹線でも食品輸送の試みが始まった

朝の列車で限定品を東京へ

   「喜八洲総本舗 みたらし団子」は新大阪駅から東京駅まで新幹線列車で運ばれ、東京駅構内の「プレシャスデリ東京(限定60箱)」「ギフトキヨスク東京ギフトパレット(限定20箱)」「ベルマートキヨスク丸の内中央ビル(限定20箱)」での限定販売だ。本来賞味期限1日だけのこの商品を、新幹線の速達性を活かして初めて関西圏外で販売する。企画はJR東海グループの東海キヨスクが実行し、東海道新幹線による荷物輸送のニーズを調査する試みとして実験的に行われた。

   新幹線を使った食品輸送の多くはこのように、地方の名産を都市部へ輸送するスタイルだ。北海道・東北新幹線では新函館北斗駅から東京駅まで鮮魚類を輸送し、東京都内の小売店に配送する取り組みを2020年の試行実験を経て、21年4月に本格的に始めた。

   北陸新幹線でも金沢駅から東京駅まで鮮魚類を輸送し、新鮮な魚介類を即日東京都内の店頭に並べる取り組みが21年5月に始まった。東海道新幹線での「喜八洲総本舗 みたらし団子」輸送も含め、朝積み込んだ製品を昼以降東京の消費者に届ける形だ。北海道からは道南名物のイカやホタテ、関西からも名物のみたらし団子と地域のブランド品をいち早く東京に届けている。

   九州新幹線では博多―鹿児島中央間で佐川急便とJR九州により貨客混載の取り組みが21年5月に始まった。こちらでは法人に限らず個人でも利用でき、輸送可能な品物も重さ10キログラム・3辺の長さが140センチメートルまでと幅広い。

   特にJR東日本では2019年から実証実験を繰り返していたが、コロナ感染拡大に伴う減収に悩む新幹線にとってこのサービスは新しいブランド創出になりうる。

縮小傾向だった「車内販売」スペースの格好の活用法

   そもそも、食料品を運ぶとなると列車のどこに積み込めばよいのか。客室ではセキュリティや温度の問題がついて回るが、ぴったりのスペースが車内販売用の「車販準備室」だ。その名の通り、車内販売用の食材・機材のためのスペースだが、近年車内販売は新幹線でも縮小の一途だった。

   新幹線・在来線ともに優等列車での車内販売は縮小が続いていて北海道新幹線と九州新幹線では2019年に営業を廃止。JR東日本でも「やまびこ」「なすの」「たにがわ」では既に営業しておらず、販売品も縮小してソフトドリンクと菓子類・つまみ類の販売のみが続くにとどまっている。

   東海道新幹線でも「こだま」の車内販売は営業しておらず、「のぞみ」「ひかり」での営業にとどまる。いずれも休止・縮小の理由は、エキナカ・コンビニでの供食事情の充実に伴う需要の減少がある。各社はこのスペースに荷物を積み込み、駅から駅へと輸送している。「渡りに船」というわけでないが、各新幹線での物資輸送は、持て余し気味だった車販準備スペースの格好の活用法になっている。

   本来鉄道貨物のメリットは「大量輸送・定時性」にあり、自動車のように少量のモノをこまめに輸送するには適さない。しかし新幹線の高速を活かすことで、生鮮食品のように速達性に価値がつく品物を運ぶサービスで優位に立つことができるというわけだ。かつて検討された「貨物新幹線」のように1本まるごと貨物列車を仕立てずとも、このスタイルで新幹線の物資輸送は競争力を発揮できそうだ。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)