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「デ・ジ・キャラット」令和になぜアニメ化? 15年ぶり新作の舞台裏、ブシロード木谷会長に聞く

   現代の「オタクカルチャー」黎明期に一世を風靡した「デ・ジ・キャラット」の新作発表に、アニメ・ゲームファンの間でどよめきが走っている。

   ブームから約20年。2021年6月12日、ブシロード・ブロッコリーから新プロジェクト「令和のデ・ジ・キャラット」制作がアナウンスされたのだ。突然の発表にSNSでは「懐かしい」という声が広がった。

   なぜ令和の時代に新作を世に出すのか。ブシロード代表取締役会長で、デ・ジ・キャラットのコンテンツ草創期から関わってきた木谷高明さんにブームの頃の思い出話と共に聞いた。

(J-CASTニュース編集部 大宮 高史)

  • 左からぷちこ・でじこ・うさだが並ぶ。20年以上オタクカルチャーの中で活躍してきた。
    左からぷちこ・でじこ・うさだが並ぶ。20年以上オタクカルチャーの中で活躍してきた。
  • 左からぷちこ・でじこ・うさだが並ぶ。20年以上オタクカルチャーの中で活躍してきた。
  • 15年ぶり新作決定「令和のデ・ジ・キャラット」キービジュアル
  • 「さらに長続きするコンテンツに」と意気込む木谷高明氏

現代萌えキャラのプロトタイプ的存在

   まずデ・ジ・キャラットについておさらいしたい。

   「デ・ジ・キャラット」はコンテンツの名前であるとともに、メインキャラクターの名前でもある。通称「でじこ」ことデ・ジ・キャラットは、ゲームなどのグッズショップ「ゲーマーズ」のマスコットキャラクターとして1998年に生まれた。初登場はゲーマーズの広報誌「フロムゲーマーズ」の4コママンガだった。

   デ・ジ・キャラット星から来た王女という設定のでじこ。その外見はメイド服を着て髪飾りとリボンに猫のように鈴が付き、緑色の髪といういかにもアニメ的なルックス、また語尾に「にょ」が付く口癖も特徴的で、これらの要素は2000年代以降の萌えキャラクターに引き継がれた。キャラクターデザインはイラストレーターのこげどんぼ*さんが担当している。

   妹分のプチ・キャラット、通称「ぷちこ」やライバルキャラのラ・ビ・アン・ローズ、通称「うさだ」も登場して、1999年にはのちに「ワンダフル版」と呼ばれるショートアニメが制作される。メディアミックスはその後も続き、コミカライズやドラマCDの制作もなされた。

   アニメはワンダフル版に続いて2003年には「デ・ジ・キャラットにょ」というタイトルで、テレビ東京・テレビ大阪系列で日曜朝9時30分~10時の30分枠で1年間の放送が実現。内容もオタクカルチャーの風刺色が強かったものから主に子ども向けの日常系ファンタジーとなった。この1990年代末期から2000年代初頭にかけてが最もブレークした時期といえよう。ゲーマーズのマスコットという枠を越えた活躍ぶりだった。

   特徴的な口調・ネコ耳・メイド服など、2021年の現代でも定着しているキャッチーな属性を盛り込み、また00年代初頭のオタクカルチャーの空気感を伝えるコンテンツでもある。

   声優ユニット「D.U.P」による楽曲も生まれ、劇中歌に採用された「PARTY☆NIGHT」は懐かしのアニメソングとして今でも時折アニメソング系のDJイベントで流れたりもする。

   00年代後半にはブームが落ち着くも、グッズやイラストの供給は続いていた。そんな中、根強いファンが沸いたのがショートアニメ「令和のデ・ジ・キャラット」制作決定の発表だった。

   でじこ役の真田アサミさん、ぷちこ役の沢城みゆきさん、うさだ役の氷上恭子さん、監督の桜井弘明さんら当時のキャストとスタッフが集結し、2006年の「ウィンターガーデン」以来15年ぶりのアニメ化が決まったのである。

20周年イベントがきっかけ「蓄積があるものをさらに盛り上げたい」

   「デ・ジ・キャラット」は確かに長寿コンテンツではあるが、ブームを起こした2000年前後とはオタクカルチャーの様相も変わり、本作のことをほとんど知らない若いネットユーザーも増えている。

   しかしデ・ジ・キャラットが選ばれた理由はまさにその歴史の長さにあった。木谷さんは7月12日、J-CASTニュースの取材にこう話す。

「10年・20年と続くコンテンツは世の中にそうたくさん生まれるものではありません。でもデ・ジ・キャラットは今やそのような長寿コンテンツのひとつです。既に20年以上続いている。今からこれと同じくらいヒットするコンテンツを作ろうとすれば、前準備だけで2~3年はかかります。弊社でこの業界をまた盛り上げたいと考えた時、そうやって新しいものをゼロから企画するよりはすでに10年・20年の蓄積があるものをさらに盛り上げた方が現実的だろうと考えました。
きっかけもありまして、2019年に20周年記念として初代のキャストの方々が再集結して出演したイベントがありました。これをきっかけに、アニメイト(現在のゲーマーズの親会社)やブロッコリーなど関係する企業に話を持ち掛けてまた新しいことをやれないか、となったんです」

   アニメ制作決定は15年ぶりとなるが、この間に赤い瞳の「2代目でじこ」が2007年に登場、デザインがリニューアルされたかと思いきや15周年の2013年には初代でじこがデ・ジ・キャラット星から「帰還」、引き続き初代でじこがマンガやイラストで活躍する――というストーリー展開が続いていた 。

「デ・ジ・キャラットはこれまでもグッズを展開してきたし、今でもこげどんぼ*さんがイラストを描き下ろしてくれています。さらに今回、ショートアニメで制作することになったので、新プロジェクトといってもあまり気張らずに着手できるのもこのコンテンツの強みです」

キャラ設定もイラストも社内からの手作り感

   木谷さんは1994年に株式会社ブロッコリーを創業し、デ・ジ・キャラットにもブロッコリー時代から関わってきた。1996年にはブロッコリーの小売店舗としてゲーム等のグッズショップのゲーマーズが開店、その2年後にゲーマーズのマスコットとして生まれたのがデ・ジ・キャラットだった。当時木谷さんはブロッコリー社長として関わっている。

「最初でじこはゲーマーズのマスコットキャラクターを作りたいというブロッコリー社員のアイデアで生まれたものでした。当時こういう専門店のマスコットキャラクターを作ることがブームで、僕としてはヒットするかどうかはわからないけどとやってみようかという感覚で始めてみた。現場でアイデアを出すままに任せてみて、オタク受けしそうなネコミミ・メイド服・鈴などを取り入れて、でじこのあのデザインになったわけです」

   でじこの年齢は10歳で、ウサミミキャラのうさだの年齢は14歳。これは木谷さんが決めたそうだ。「10歳は限りなく成人の女性に近い女の子で、14歳は限りなく女の子に近い女性かなという感覚で決めました」と話す。目からビームが出る・語尾の「にょ」などの特徴的な属性も当時関わったスタッフにより付与されていった。

「キャラクター作りから始まって世界観を広げていった初めてのコンテンツと当時から言われましたね。『記号化』と言われますが、いろいろな属性をミックスしてキャラクターに与えていく、このやり方が目新しくて、ファンにも新鮮に映ったと思います」

   こげどんぼ*さんとの縁がきっかけでデ・ジ・キャラットが生まれたこともよかったと振り返る。

「当時ブロッコリーの同人誌即売会にこげどんぼ*さんが出展していて、こげどんぼさんのイラストが目に留まって覚えていたんですよ。その後縁あってうち(ブロッコリー)のスタッフとして店の宣伝イラストを描いてもらうようになり、デ・ジ・キャラットのイラストもお願いして、以来ずっと描いてもらっています。当時としても新しめの画風でしたが、時代が変わってもアレンジして可愛い絵を描き続けてくれるのがいいですね」

リアルイベントにも進出、しかしブームの中に後悔も

   最初はフロムゲーマーズというゲーマーズで配布しているフリーペーパーの四コママンガから始まり、徐々にオタク層に認知されていった。

「イベントで来てくれたファンが『このキャラいいよねー』と言ってくれたりして、流行っているんだという実感が徐々に出てきましたね。グッズも作ったらこれも売れたので、CMも作っちゃえとなってアニメCMを制作したらこれも『一体何だ!?』と話題にしてくれた。そこで勢いでTBSさんからオファーを受けてできたのがワンダフル版のショートアニメ(1999年)だったのです。アニメ化でさらにブームは広がったと思います。最初のCMなんて手作り感が強くて、社員がCMソングを歌っていましたよ」

   こうして90年代末から00年代初頭にデ・ジ・キャラットのブームが巻き起こった。でじこ役の真田さん、ぷちこ役の沢城さんはともにオーディションで選出されるが、当時中学生だった沢城さんのデビュー作でもある。オーディションは審査員票とファン投票で決めるという、ファンとスタッフの距離も近い「手作り感」に満ちた時代でもあった。

「今の30代前後のファンの人達は『デ・ジ・キャラットにょ』で知ってくれた人が多いと思います。2003年4月から1年間、日曜日の朝に30分枠で放送していたことの貢献は大きかった。それより上の40代以上のファンはショートアニメの頃から見てきた人が多いようです。代表曲ともいえる『PARTY☆NIGHT』も覚えてくれている人が多くて、当社のリズムゲーム『D4DJ Groovy Mix』でカバー曲を実装した時も『懐かしい』『聴いたことある』という反応がありました」(木谷さん)

   この頃から出演声優によるライブイベントも何度も開催していて、アニメ・ゲームコンテンツのライブ開催のはしりとなった作品の一つでもある。

「横浜アリーナでライブを開催した時、いつもここで開催される公演でお花を届けている花屋さんが『初めて名前を知らない人にお花を届けた』と言っていました。それまでアニメ声優が横浜アリーナ規模の会場でイベントをやるなんてなかったことでしょう。まだ駆け出しだったとある声優のプロデューサーの方もイベントに来ていて『こんなやり方があるんだ』と、その後のライブ開催の参考にしていったなんて話も聞きます」

   ただ、後悔が全くない訳でもない。もともとコアなマンガ・アニメファン向けのマスコットでもあったので、ショートアニメでは当時のオタクカルチャーを風刺する作風でもあった。これが子ども向けにもリファインされていく過程でデメリットもあったという。

「最初は『可愛い顔して毒舌』なのもでじこ達の売りでした。そうやってコアなマニアの間で人気が出たものって、マス向けに展開していきたくなるし実際そうしてみたのですが、マスに受け入れられるためにキャラクターの尖った要素が薄まってしまったのも確かです。でもショートアニメだけで5年10年と続いた作品はほとんどありません。『トムとジェリー』くらいでしょう?『デ・ジ・キャラットにょ』で覚えてくれている人も多いので、今も続いていることも踏まえて、長い目で見るとマス向けに展開してよかったのかなと思います」

監督「作りたいものは一杯あります」

   2007年に木谷さんはブロッコリーを離れてブシロードを創業する。

   ブロッコリーは2011年にゲーマーズなどの小売事業から撤退するが、キャラクターの著作権はブロッコリーが保持して15周年、20周年と続いてきた。前述の20周年記念イベントを契機に「20年前にショートアニメでブレークした作品なので、もう一度ショートアニメを作りたい。ファンの皆さんにはアニメ化のニュースそのものをリスタートのきっかけと思って糒です」(木谷さん)という気運で制作が進んでいるそうだ。

   アニメ第1作と同じキャストが出演し、監督を務める桜井弘明さんが「令和のデ・ジ・キャラット」でも監督として作品を統括する。ファンが気になる新アニメの内容は

「桜井監督はデ・ジ・キャラットをまた作りたいとずっと思っていて、今回制作が決まって『作りたいものは一杯あります』とのことでしたから、アイデアはもう監督の頭の中にあると思います」

とのことだ。

   でじこ・ぷちこ・うさだのおなじみの3人に加え、新キャラクターとしてブシロードの守護神という「ブシロちゃん」が登場する。

   「ショートアニメ新作は真田さん・沢城さん・氷上さんが出演した配信(YouTube) の中で発表したのですが、これまでの新グッズ展開の告知などと比較してもネットの盛り上がり方も違いましたし 、やはり新作アニメという点が大きく、皆さんそれだけ長年愛着を持ってきたのだと思います」と木谷さんは界隈の反応を受け止める。

   「昔からのファンの皆さんにこそ今出せる新作楽しんでもらいたいですね。若い方はどうでしょうね...時代も違うので観る人が自由に興味を持ってもらえれば、と」と考えている。

   現代のキャラクター文化に多大な影響を与え、長く続いてきたデ・ジ・キャラット。今もイラストやマンガでは萌え文化黎明期の空気感を残しており、それが熱烈なファンがいる理由だろう。

   「令和のデ・ジ・キャラット」の発表時にネットユーザーが沸いた理由もそこにあり、制作スタッフもその期待に応えようとしている。