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両足義足の僕が2万2000歩、5時間歩く 足はガクガク震え...それでも完走できた理由

   20歳の時に事故で右手と両足を失った山田千紘さん(29)は2021年10月24日、「新たな試み」として、両足義足で東京都内を練り歩くイベントを開催した。もともとは自著「線路は続くよどこまでも」(廣済堂出版)を自らの手で売ろうと企画したものだったが、思いもよらない「出会い」と「達成感」があったという。義足で2万2000歩、5時間かけて歩いた先に待っていたものとは。山田さんが語った。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 山田千紘さん(左)とイベントを手伝った後輩スタッフ(右)
    山田千紘さん(左)とイベントを手伝った後輩スタッフ(右)
  • 山田千紘さん(左)とイベントを手伝った後輩スタッフ(右)
  • 山田千紘さんとイベント参加者らとの集合写真

スタート地点に集まっていた人々

   本の重版記念で、イベントを2021年10月24日にやりました。手押し車のワゴンに本を100冊乗せて、両足義足で売り歩くというものです。「ちーワゴン」と名付けて告知していました。10時に神保町の書店スタート。当日、10分前くらいに到着したら驚きました。

   「一緒に歩きます」と10人くらい集まってくれていたんです。YouTubeチャンネルやSNSで僕の姿を見て、応援してくれている方々でした。その後さらに増えて15~16人くらいになりました。当初は僕と、僕が仲良くしていてYouTubeに登場してもらったこともある後輩1人と、企画をサポートしてくれた出版社の方2人の4人で歩くつもりだったのが、20人くらいになったんです。

   老若男女いろんな方が来てくれて、子どももいました。小学2年生の双子はずっと僕の隣にくっついてくれていました。幼稚園から小学生までの3兄弟とは、立ち寄った公園で一緒に遊びました。

   熊本県から来られた方もいました。ご夫婦で、もともと奥さんが僕のYouTubeチャンネルを見てくれていて、旦那さんに勧めたら2人で好きになってくれたそうです。旦那さんが単身赴任で東京にいて、イベントを知って奥さんが熊本から飛行機で来てくれました。驚きましたよ。熱いですよね。

「来て良かった」と口々に言ってくれたのが嬉しかった

   ルートですが、僕は1時間半くらい歩くのもしんどいので、現実的に考えて神保町から東京ドーム、アメヤ横丁、上野公園と歩いて終わる予定でした。5キロメートルくらいですかね。

   でも、いざ上野公園に着いたら「せっかくこんなに集まってくれて、ここで解散するのはもったいないな」と思って、あと4キロくらい先のスカイツリーを目指すことにしました。本を売るために始めた企画だけど、東京の名所を巡る散歩みたいになって、みんなで楽しんでいました。

   30分の休憩を挟み、5時間かけて15時半まで、2万2000歩を歩きました。こんなに長時間歩くのは初めてで、ゴールした時は感動して泣きそうでした。足がガクガク震えていました。

   結局、本100冊は売り切れなかったけど、違う達成感がありました。みんなで1つの方向に進んでいくことの一体感。みんな笑顔で終わったんです。「来て良かった」と口々に言ってくれたのが嬉しかった。僕も感謝でいっぱいです。

   参加した人同士で、歩きながら仲良くなっていたのが印象的でした。僕は時間が取れなかったけど、食事にも行ったそうです。大人になると、フラットな関係で友達になる感覚って忘れがち。直接触れ合ったからこそ、絆が生まれたのかなと思います。

   もともと本を売るために企画したイベントですが、目的は他にもありました。義足をアピールする機会でもあったんです。両足がない人間がこうして外を歩き回ることができると、多くの人に注目され、知ってもらうきっかけになれば、とも考えていたんです。思った以上に、道中で僕の姿に興味を持ち、足を止めて話を聞いてくれる人がいました。学生やおばあちゃんが通りすがりに本を買ってくれて、応援してくれたのも力になりました。

人と交流することは「居場所」を作ることでもある

   いろんな思いを持ちながら臨みましたが、みんなと一緒に歩いて改めて気付いたのは、自分が周囲の人のおかげで成り立っているということ。本もYouTubeもSNSも、誰かが見てくれなかったら僕は何者でもありません。こうして応援してくれる人がいるから、僕は充実した活動ができています。僕のYouTubeが「心の支えになっている」と言ってくれる方もいます。必要としてくれる方とは近い距離で接したい、もっと交流していきたいと思いました。

   人と交流することは「居場所」を作ることでもあります。今、新型コロナウイルス禍で1人の時間が長くなり、寂しさを感じる人も多いでしょう。でも、居心地の良い場所はいろんなところにあるはずです。そんな居場所を作ることで、僕自身も寂しくなくなるし、誰かを救うこともできるかもしれない。コミュニティが大きくなるほど繋がりが増えて、孤独感はなくなっていくと思っています。

   YouTubeやSNSを通じて、僕は数多くの人と交流することができています。一方で、リアルに顔を合わせてコミュニケーションを取るのは、インターネットとはまた違う良さが詰まっています。直接会って話すことは、言葉で言い表しづらいけど、すごく大事なことだと感じました。

   イベントの前は不安の方が大きかったです。手足を失ってから、何時間も歩いた経験はありませんでした。僕にとっては大きな挑戦でした。

   でも、両足義足で5時間歩けました。人との出会いもありました。小さい子ども達が僕のYouTubeを見てくれていると知れたのも嬉しかった。終わった後、「幸せな5時間」「勇気を出して会いに行ってよかった」とDMをくれた参加者の方もいました。そんな言葉に僕自身、よりモチベーションが沸いたし、また同じ企画をやろうと思いました。