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井上尚弥が迎える「ボクシング人生のターニングポイント」 4団体統一の行方は?識者に聞く2022年の展望

   プロボクシングのWBA、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(28)=大橋=が2021年12月14日に挑戦者アラン・ディパエン(30)=タイ=を8回TKOで下して1年の最後を締めくくった。

   21年は世界戦のリングに2度上がり、それぞれKO勝利で王座の防衛に成功した「モンスター」。世界4団王座体統一、スーパーバンタム級への新たな挑戦...。ファンの期待を裏切ることなく進化し続ける井上はどこまで飛躍を遂げるのか。J-CASTニュース編集部は、協栄ジムの金平桂一郎会長(56)に22年の展望を占ってもらった。

  • 挑戦者にパンチを打ち込む井上尚弥(写真:AFP/アフロ)
    挑戦者にパンチを打ち込む井上尚弥(写真:AFP/アフロ)
  • 挑戦者にパンチを打ち込む井上尚弥(写真:AFP/アフロ)

カシメロ体調不良で前日計量キャンセルも...

   井上は防衛を果たした翌15日の会見で22年の青写真を明かしている。

   報道によると、春に日本国内で世界3団体王座を統一し、夏に世界4団体王座を統一。そして年末に階級をひとつ上げ、スーパーバンタム級で世界4階級制覇に挑戦するというものだ。

   世界のバンタム級の状況をみると、22年の初戦はWBC世界バンタム級王者ノニト・ドネア(39)=フィリピン=との再戦が有力視される。

   ドネアは21年12月11日に同級暫定王者レイマート・ガバリョ(25)=フィリピン=を4回KOで下し王座統一に成功しており、試合後に井上との再戦を熱望。ともに防衛戦のタイミングが重なり、時期的にも再戦のハードルは低いとみられる。

   計画通りに3団体の王座統一に成功すればその次はWBO王座となるが、現状は微妙な空気となっている。

   王者ジョンリル・カシメロ(32)=フィリピン=は12月11日にUAEのドバイで同級1位ポール・バトラー(33)=英国=と防衛戦を予定していた。ところが、カシメロは体調不調を理由に前日計量をキャンセルし、試合自体が流れてしまった。

井上「一気にコイツへの興味がなくなった」

   WBOはカシメロ陣営に対して10日以内に医療機関の診断書の提出を求め、WBOは提出された診断書が正当な理由に値すると判断し、カシメロの王座保持を承認する裁定を下した。

   このような一連の流れもあり当初、カシメロとの対戦を望んでいた井上は23日のツイッターに、「一気にコイツへの興味がなくなった」と投稿。さらに26日にはメディア取材に対して「(4団体王座統一は)目指してはいくけど、そこにこだわらなくてもいいのかなと思う」と心境を明かした。

   金平会長は井上の心境の変化に理解を示しつつ、プロモーター目線で「井上VSカシメロ戦」の可能性に言及した。

「カシメロは計量会場に現れなかったのだから本来ならば王座をはく奪されてもおかしくないケースです。WBOは中途半端な形で王者として残してしまった。これはWBOに対する不信感につながってしまう。プロモーターとしては、カシメロ戦を組んだ時にきちんと体重を作ってくるか不安になる。一番使いにくい選手です。カシメロがバンタム級に落とすことが出来れば対戦する可能性もあるでしょうが、そこにプライオリティを感じなければ階級を上げることも当然考えられると思います」

   4団体統一はWBO王座次第となりそうだが、本人が公言するように来年中に1つ上のスーパーバンタム級に転級することは間違いないだろう。井上にとってライトフライ級、スーパーフライ級、バンタム級に続く4階級目の世界挑戦となる。

Sバンタム級のライバルは

   金平会長はスーパーバンタム級に挑む22年は、井上のボクシング人生の「ターニングポイント」になると指摘する。

   現在、世界の主要4団体で2人の王者がスーパーバンタム級の世界王座に君臨している。WBA、IBFはムロジョン・アフマダリエフ(27)=ウズベキスタン=、WBC、WBOはステファン・フルトン(27)=米国=がベルトを巻いている。

   16年リオデジャネイロ五輪バンタム級銅メダリストのアフマダリエフは、プロ8戦目の20年1月にダニエル・ローマン(米国)を判定で破りWBA、IBF王座を獲得。21年4月にはIBF同級暫定王者・岩佐亮佑(セレス)を5回TKOで破り初防衛に成功している。プロキャリアは10勝全勝(7KO)で、馬力のあるサウスポーの強打者だ。

   一方のフルトンは21年1月にWBO同級王座を獲得し、11月にWBC同級王者ブランドン・フィゲロア(米国)と王座統一戦を行い判定勝利で2団体統一王者となった。戦績は20戦全勝(8KO)で、米国の権威ある専門誌「リング誌」の同級ランキングでは、アフマダリエフを抑えて1位にランクされている。

   井上がスーパーバンタム級に上げるまでにアフマダリエフ、フルトンが王者として君臨しているかどうかは分からないが、世界王座を狙う過程で対戦する可能性は大いにあるあろう。これまで転級するたびにさらなる進化を遂げてきた井上だが、4階級制覇はすんなりといくのだろうか。

「ここをあっさりクリアするとフェザー級も見えてくる」

   金平会長はバンタム級とスーパーバンタム級の間に大きな壁があると指摘する。

   体重でみると53.52キロのバンタム級に比べてスーパーバンタム級は約1.8キロ重い55.34キロだが、金平会長は「スーパーバンタム級から急に体が大きくなるというイメージがあります」とし、次のように解説した。

「相手の力感、重さ、体の力。スピードがなくても重く感じることが出てくるかもしれない。階級を上げるにつれその傾向が強まってくるでしょう。ライトフライ級(48.97キロ)からプロキャリアをスタートさせた井上選手は、バンタム級では決して大きな方ではありません。スーパーバンタム級ではなおさらです。井上選手のパンチ力は十分に通じると思いますが、バンタム級に比べて耐久性に優れる選手をどう攻略するか。色々な面で工夫が必要になってくるでしょう。ただ、ここをあっさりクリアするとフェザー級(57.15キロ)も見えてくると思います」

   世界4団体王座統一と世界4階級制覇。そして夢の世界5階級制覇へ...。日本ボクシング史に新たなページを刻んでいく「モンスター」。その勢いは22年も止まりそうにない。