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「大河ドラマ」で隠されてきた日本の黒歴史とは?

飢餓と戦争の戦国を行く

 世のなかには、「言われてみればその通り」と思うことがある。本書『飢餓と戦争の戦国を行く』(吉川弘文館)に書かれている話も、その一例だ。昔の日本では戦争と飢餓が多発し、だれもが生き残るのに大変苦労したという話だ。

 非常に多数の事例が挙げられている。ちょっと踏み込んで書かれている個所も多く、むしろそのディテールが興味深い。本当にそんなことがあったのかと、ビックリする話が多い。

8年がかりでデータベース化

 著者の藤木久志さんは1933年生まれ。立教大学名誉教授。本書の原著は2001年に発行されており、今回は吉川弘文館の「読みなおす日本史」シリーズの一冊としての再刊だ。

 戦争、飢餓、疫病。これらは長年、人類を揺さぶってきた。それは現代にも引き継がれている。著者は1993年の冷夏による東日本の大凶作を体験し、改めてそのことを実感、歴史学者として、過去に描いていた中世像の再検討を始める。

 日本では11世紀から16世紀までの約500年間に、元号は100数十回も替わっているが、その理由は天変地異(凶作など)や戦争が6割を超える。藤木さんは中世の古文書をもとに、飢餓や疫病の記録を洗い出し、8年がかりでデータベース化した。さらにそこに戦争をかぶせていくと、戦乱と飢餓に苦しむ当時の人々の様子が浮かび上がる。もう毎年のように、ほとんど慢性的に災厄に襲われているのだ。

 全体は「中世の生命維持の習俗」「応仁の乱の底流に生きる」「戦場の村」「村の武力と傭兵」「九州戦場の戦争と平和」「中世の女性たちの戦場」の六章に分かれている。書名には「戦国」とあるが、いわゆる戦国時代に限定せず、歴史的に戦乱が続いた時代、すなわち中世から戦国時代を総称している。

明治維新も色あせる

 さて、戦乱や飢餓に直撃されて、生きるか死ぬかの庶民はどうなったか。ここからの各論が興味深い。飢餓の時に飢えた人を養えば、「奴隷」にしてよい、と定められていた。平時においては人身売買が禁じられていたが、大飢餓の時は「時限立法」が発せられ、認められた。子どもを売る親もいた。鎌倉時代から江戸時代まで、繰り返されている。戦前の東北の飢饉における少女売買なども日本の長い伝統ということになる。

 本書で目を覆うのは戦争による混乱だ。勝てば官軍。何をしてもいい。特にひどかったのが、薩摩と豊後大友氏の戦争。勝った薩摩はやりたい放題。レイプが横行し、兵士でなくても捕虜にする。他の合戦でも「ひとさらい」「身ぐるみ剥ぎ取り」があたりまえ。敗者の側から大量の「奴隷」が生まれ、売り飛ばされる。そこには「私たちが慣れ親しんできた、華やかな戦国大名の合戦物語とはまるで違う、悲惨な戦争の実情」(著者)があった。食糧などの調達も途中の村で略奪することが普通だったようだ。「七回の餓死に遭っても、一度の戦争に遭うな」という言い伝えは各地に残っているという。

 当時、世界的に「奴隷売買」が盛んだった。一般人を含めた合戦の捕虜たちも、ポルトガル人やシャム人らの奴隷商人に安価で買いたたかれ、海外にまで売り飛ばされていたというのだ。当時フィリピンのスペイン人の家では、日本女性の奴隷が目立ったそうだ。性奴隷も兼ねていたとみられる。東南アジアの山田長政、日本人町などの話が、また違った物語に見えてくる。

 本書によれば、そうした戦場の異常行為は、織田信長の一向宗制圧、秀吉の朝鮮侵略、家康の大坂夏の陣、などでも繰り返された。婦女暴行は戊辰戦争や西南の役でも続いたという。明治維新も色あせる。

 著者は、外国の戦場の奴隷狩りのひどさは知っていたが、それは異教徒・異民族の間の戦いだからと思っていた。まさか日本の内戦の現場でも同じことが起きていたとは、と衝撃を語っている。たしかに、大河ドラマでもそういうシーンはあまり出てこない気がする。隠されていた歴史の一面を知った。

  • 書名 飢餓と戦争の戦国を行く
  • サブタイトル読みなおす日本史
  • 監修・編集・著者名藤木 久志 著
  • 出版社名吉川弘文館
  • 出版年月日2018年5月16日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数B6判・258ページ
  • ISBN9784642067638
 

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