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ジビエ・・・プロの料理人も騙される

ジビエの歴史

 クリスマスになると、欧米では七面鳥を食べる風習がある。野生の七面鳥ならジビエ(野鳥獣)ということになる。というわけで『ジビエの歴史』(原書房)を紹介したい。

 本書は、海外のジビエの歴史について記している。著者のポーラ・ヤング・リーは韓国系のアメリカ人。自身がハンターで、狩りをして獲物を解体し、料理もする。タフツ大学でも教え、『食肉、近代化、食肉処理場の出現』などの著書がある。

「偽装レシピ」が横行

 人類による狩猟の歴史は古い。アルタミラやラスコーの壁画にも登場する。野生動物の肉は、古代からタンパク質の供給源だった。やがて牛や豚、鶏などを飼育する家畜産業が広まったことや、乱獲を規制するための法整備が進み、身近ではなくなっていく。

 しかし、ヨーロッパでは現在でもイギリスなどでは狩猟が上流階級の趣味として定着している。国によって多少事情は違うが、市場に行くと、毛や羽が付いたままの鳥が並んでいたりする。食卓にジビエ料理が登場する機会が少なくない。

 本書は5つの章に分けて、ジビエの歴史や様々な側面を先行書などをもとに紹介する。関連の写真や絵画も豊富だ。巻末には「ゾウの料理法」「シカ肉のクランベリー」「ケイジャン風ワニ肉の串焼き」などいくつかのレシピも掲載されている。

 「ジビエ」の特徴は、ふだん食べなれていない肉というところにある。だからそれが何の肉なのか直ちに識別できない。そんなこともあって「肉を偽装する」ということがむかしから横行していた。猫やネズミをウサギ、白鳥をガチョウと偽る。実際のところ、ヤマウズラとキジの判別は、肉になってしまうと非常に難しいそうだ。料理人でも、自分で羽をむしっていなければ間違えるという。

 中世や近代初期の欧州の料理本では、「偽装レシピ」についても丁寧に指南しているそうだ。滅多に手に入らないクマやシカの肉の代わりに、安い牛肉やマトンを使う。子牛の頭を煮て、偽のウミガメのスープも作られていた。

農水省が旗振り

 「ジビエ」はフランス語だが、最近では日本語としても定着している。キジ、ヤマウズラ、野ウサギ、シカ、イノシシなど、狩猟によって食材として捕獲されている。すでに一般社団法人「ジビエ振興協会」というのがあって、ホームページを見ると、11月15日から2月15日まで狩猟が解禁となり、ジビエのシーズンが始まりますと、宣伝している。

 背景には、環境変化などで野生のシカやイノシシが増えて、農作物の被害が広がっていることがある。農水省は平成29年度に、有識者からなる「国産ジビエ認証制度制定に関する専門委員会」で衛生管理基準や認証体制などを検討、「国産ジビエ認証制度」を制定した。食肉処理施設の認証もスタートしている。

 急速に身近になりつつある「ジビエ」。関係者だけでなく、ワイン愛好家やグルメに興味がある人も、本書を読んで、海外の実情や先行事例を頭に入れておくと良いかもしれない。 本欄では関連で、『日本のシカ――増えすぎた個体群の科学と管理』、『サルはなぜ山を下りる?――野生動物との共生』、『ニッポンの肉食』、『共食いの博物誌』、『人と馬の五〇〇〇年史』なども紹介している。

  • 書名 ジビエの歴史
  • サブタイトル「食」の図書館
  • 監修・編集・著者名ポーラ・ヤング・リー著、堤 理華 訳
  • 出版社名原書房
  • 出版年月日2018年10月22日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数四六判・192ページ
  • ISBN9784562055609
 

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