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微生物がいなければ人間も植物も生きられない

土と内臓

 現在の生物化学の最先端はおそらく微生物学だ。本書はその微生物学の"要"ともいえる「微生物と地球環境」「微生物と人間」の目には見えない深い関係が書かれているが、著者である学者夫婦の体験談を通して解説しているので、非常にわかりやすい。地球と人間の健康に、いかに微生物が欠かせないかが十分理解できるはずだ。
 物語は新居に引越しをした著者夫婦の絶望から始まる。庭づくりがしたくて家を選んだ妻が庭の土にシャベルを入れると、15センチも掘らないうちに石と粘土だらけの固い氷礫土にぶち当たる。それは"死んだ土"の庭だったのだ。そこには土を健康に保つ微生物が圧倒的に不足していた。
 生物学者でもある妻は土中の微生物を蘇らせるために徹底的に彼らの"食料"を山のように投下することにした。木材チップや落ち葉、スターバックスのコーヒーかす、動物園で出た糞尿ごみなどの有機物である。すると、死んだ土は見る見るうちに命を吹き返し、一年後には大量のミミズが現れ、三年後には近所の人も驚くほど豊かで病気ひとつしない植物が茂る「理想の庭」ができあがった。微生物たちは、大量の有機物を餌にして生き返り、生態系を回復させたのだ。おかげで、庭の植物たちは微生物が排出した大量の栄養素を受け取り、健康に育ったのだった。

微生物は"悪玉"ではない

 ところが、庭の植物を元気にした妻に、がんが発見されてしまう。手術は成功したとはいえ、再発は絶対に避けたい。そのためには免疫力を高める必要がある。妻はかつて庭を再生したのと同じ方法で、自分の免疫力を高めることにした。その手法とは、大腸に棲む数兆もの微生物に栄養を与えることだった。
 現代人は微生物を"悪玉"扱いする。巷には抗菌グッズが溢れ、病気になればいとも簡単に抗生物質のお世話になる。だが本書を読めば明らかだが、微生物の多くは人間にとって有用なのだ。人間に必要な栄養素を作り出し、免疫をコントロールして病気を防いでいるのは微生物のおかげなのだ。本書では、アレルギーや過敏性腸症候群、肥満、糖尿病、うつ、婦人病までが微生物のバランスを失ったために引き起こされる可能性も指摘されている。そして、それは植物にもいえる。除草剤や農薬、化学肥料によって土壌の微生物の健康を失った結果、野菜などに含まれる栄養素は数十年前と比べて激減してしまった。
 著者は微生物を「地球の隠された半分」と呼ぶ。その「地球の隠された半分」なしには人間も植物も生きられないのだ。「抗菌天国・日本」の将来が明るいものではないことが、本書を読むと痛感されるはずである。
(BOOKウォッチ編集部 スズ)

  • 書名 土と内臓
  • サブタイトル微生物がつくる世界
  • 監修・編集・著者名デイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー 著 / 片岡 夏実 訳
  • 出版社名築地書館
  • 出版年月日2016年11月12日
  • 定価本体2700円+税
  • 判型・ページ数四六判・上製・392ページ
  • ISBN9784806715245
 

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