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連続射殺犯を愛した女性の獄中結婚の日々

死刑囚 永山則夫の花嫁

 

 永山則夫を知っているだろうか? 1968年、19歳のときに函館、東京、京都、名古屋で4人をピストルで殺害する「連続射殺事件」を起こし逮捕された。極貧の中で育ち、青森から集団就職で上京した「金の卵」が犯した犯罪だった。拘留中に猛勉強をはじめ、無知と貧困こそが犯罪をうむと考えるようになり、『無知の涙』を出版、ベストセラーとなった。

 

 この本をアメリカに向かう飛行機の中でたまたま読んだ女性がいた。沖縄出身で米国に住む25歳の新垣和美さんだった。自身のかつて「無国籍」だった事情などから、すさんでいた心が本を読み、いやされた。そして永山に手紙を書く。「この遠き国より、永山さんのことを識るひとりの女人が在ることを永山さんのこころのスミに置いて欲しいのです」。

 

 やがて文通が始まり、54通を交わしたころ、和美さんは東京拘置所の永山を面会に訪ねた。その後、拘置所の面会室で結婚式を挙げた。和美さんの底抜けに明るい手紙が永山の何かを変えたのだろう。

 

 結婚後、和美さんは遺族回りをはじめ、永山は悔悛の態度を見せるようになる。東京高裁は永山に無期懲役の判決を下す。永山は生きることへの希望を見せるようになった。この判決は波紋を呼んだ。そして、最高裁の差し戻し判決、再び東京高裁での審理が続く中、二人は離婚した。生への希望を打ち砕かれた永山と和美さんのコミュニケーションの回路もふさがってしまったのだ。

 

 1990年4月、最高裁で永山の死刑が確定、97年8月に死刑が執行された。永山の遺言に従い、故郷・網走の海に遺骨をまいたのは、すでに離婚していた和美さんだった。

 

 本書は、和美さんが初めて送った手紙から、二審で無期懲役判決を受ける直後までの16か月間にやりとりした手紙461通のほとんどを収録した。長く永山問題を取材してきた北海道新聞記者の嵯峨仁朗さんが、関係者から手渡され保管していたものだ。死刑執行から20年。永山のことを知らない世代が増えた。永山事件を考えてもらうきっかけにと出版したという。

 

 和美さんも出版を了解、あとがきにこんなことばを寄せている。

 「則夫と生きたからこそ、いま私はこうして生きていくことができている。則夫には本当にありがとうって言える」

 

 手紙のほかに事件の概要、二人の生い立ち、裁判の展開などを嵯峨さんが執筆した章があり、永山事件と永山則夫について深く知ることができる。

  • 書名 死刑囚 永山則夫の花嫁
  • サブタイトル「奇跡」を生んだ461通の往復書簡
  • 監修・編集・著者名嵯峨仁朗・柏艪舎 編集
  • 出版社名発行 柏艪舎  発売 星雲社
  • 出版年月日2017年2月15日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・331ページ
  • ISBN978443422970
 

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