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安倍首相にもおススメしたい

「大学改革」という病

 解散・衆院選の争点として、教育問題が急浮上している。安倍首相は「高等教育の無償化を必ず実現する決意です」「大学改革も強力に進めていかねばなりません」などと力を込めて語っている。

 たしかに日本の大学はいろいろ問題を抱えている。よく指摘されるように、OECD加盟国の中で高等教育への公財政支出の割合は日本が最低クラス。国の「給付型」奨学金がなかったのも、日本ぐらいだという。

少子化で「大学倒産」の危機

 一方、国際的な大学の実力比較で日本の有名大学がこのところパッとしない。アジアのトップはシンガポール国立大などに奪われている。理系のノーベル賞では日本が目立つが、いずれも大昔の研究成果。将来は「お寒い」といわれている。

 少し前には、「文学部不要論」も話題になった。引き金になったのは、国立大学の人文社会系を縮小するという文科省の方針だった。文芸誌の「文學界」(文藝春秋刊)が猛烈に反発して、「『文学部不要論』を論破する」を特集。評論家の立花隆さんが、「目の前の実用性にもっぱら目を奪われ続けていると、日本はいずれ滅びます」と強く警鐘を鳴らした。背景には、文学部が「カネもうけ」に直結しない、すなわち国の経済力アップに貢献しないから国の予算をつぎ込むのはムダとみる考えがある。

 そのほか、「大学倒産」や「私立大学が危ない」という論議も盛んだ。いまや少子化で学生数は減るばかり。学生争奪戦に負けた大学に未来はないというのだ。

教育の問題を根本まで掘り下げて考える

 これら諸々の問題をひっくるめて、声高に叫ばれるのが「大学改革」だ。日本が優れた人材を養成し、世界的な競争に勝ち抜くには何が必要か。財政難の中で国はどこまで教育に金をかけるのか。大学が生き残るにはどうすればいいのか。

 本書は、こうした大学をめぐる多種多様な問題をできるだけ広く視野に入れて、大学のあり方を多面的に考えようとする。日本だけでなく海外の大学教育の歴史と現状もおさえながら丁寧に論述しているのが好ましい。

 著者の山口裕之さんは徳島大学准教授。大学院ではフランス啓蒙思想を研究していた哲学者。国立大学の独立行政法人化で疲弊する大学を少しでも何とかしようと、大学の教職員組合の役員も経験し、「大学論」にも手を広げた。「大学で職業教育は可能か」「教育は競争で改善するか」など、哲学者らしく教育の問題を根本まで掘り下げて考えている。

 毎日新聞の9月17日の書評欄では、高名な天文学者の海部宣男さんが、「政官財学を問わず大学のことを考えようとする人には、必読の書」と高く評価。共同通信配信の書評でも、文筆家の平川克美さんが、「格好の見取り図を提示」と好意的に取り上げている。

 急に教育問題に熱心になった感のある安倍首相だが、はたして本書をお読みになられたであろうか。

  • 書名 「大学改革」という病
  • サブタイトル学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する
  • 監修・編集・著者名山口 裕之 著
  • 出版社名明石書店
  • 出版年月日2017年7月20日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数四六判・296ページ
  • ISBN9784750345468
 

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